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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第五幕――○○(????)
176/267

43-(1)

「名前聞いてたじゃねぇか!」


 翁の宇和山での話を聞いた伊織の第一声はそんな言葉だった。話していた翁も、そこで初めて気づいたのか、本当じゃな、と呑気に笑っている。


「しかし、牛鬼(ぎゅうき)様という方は、その、随分な方なのですね」


 一緒に話を聞いていたすゞは表情を曇らせ、表現を濁す。言葉を選ばなければ、批判の文言が連なっていたことだろう。


「あ奴に様などつけてやるだけ勿体無い。牛鬼(うしおに)の名に相応しく、正に鬼畜(おにちく)な奴よ」


「そんな牛鬼(ぎゅうき)にどうして手を貸してやることにしたんだ。力で脅された訳でもないだろ」


 先程の話からも、今の発言からも、牛鬼(ぎゅうき)のことを良く捉えている様子はない。にも関わらず、牛鬼(ぎゅうき)の人探しに協力するというのだからおかしな話である。一体何を以て翁は心変わりしたのか伊織にはさっぱり分からなかった。


「別に手を貸してやるつもりは今もないぞ。儂は探すのに手を貸すが、見つけたとてあ奴に居所を教えてやるつもりは毛頭ない」


「それは、手を貸す、と言ってもよろしいのでしょうか」


「嘘は言っておらんぞ、嘘は。その娘子を探すつもりはあるからのぉ」


「人に投げておいてどの口が」



「ならば伊織よ、お主はこの地に牛鬼(うしおに)が大挙して押し寄せようとも、住まう人を食い散らかすことになろうとも、儂に話を受けるべきではないというのか」



 少し低くなった翁の言葉に、伊織は思わずたじろぐ。飄々とした普段の口調との違いに、彼の言っていることが真実を含んだ脅迫であることは十分に分かった。


 牛鬼(うしおに)という存在を翁の話以上に伊織は知らない。どれほど恐ろしい妖怪か知らないが、脅し文句から察するに相当に恐ろしい妖怪なのだろうことだけは伝わった。人の想像する妖怪らしい妖怪とも言えるだろう。



 翁が想定していたより重く伊織に受け止められたようで、苦々しい顔を目の前に翁はからからと笑う。その声が場の良い切り戻しとなった。





「儂が伊予の他を探すとなれば、牛鬼(うしおに)たちはこちらまで出てこなかろう」


「それを見越して受けた、と」


「そうじゃ。受けると面と言っておけば、あ奴らがどこまで娘に迫っておるか分かろうというもの。手の内を探る為にもあぁ言ったに過ぎん」


「流石、翁様。そこまで考えを巡らせておられるとは」


「まぁ、牛鬼(ぎゅうき)の奴は俺が知らせる気がないことなど気づいておるだろうがの」


「は?」


 すゞと同調するように、うんうん、と頷いていた伊織だったが、続いた翁の言葉に気の抜けたような声を漏らした。


 先程聞いた牛鬼(ぎゅうき)と翁がした会話から想像するに、信頼を以て翁へ頼んでいたではなかろうか。



 狸の妖怪でもないのに、とんだ化かし合いである。



「あ奴の性分を儂が心得ておるように、奴もまた儂を心得ておるということよ」


「翁の性分?」


 のらりくらりとしているこの妖怪の性分など、それこそ霞を掴むようなものである。『楽』に生きているようで、すゞをはじめとした多くの妖怪に尊敬される存在。ぬらりひょんという名の通りと言ってしまえばそこまでかもしれない。


「左様。勿論儂も儂の性分を心得ておる。儂はな、己が利にならんことには手を出さん」


 言われてみればそんなことを以前言っていたような気がする。


 二人で初めて酒盛りをした時のことが伊織の頭を過る。酒であまり覚えていないが。


「なら、翁にとって今回の利は何だ」

お読みいただきありがとうございます。

更新前に確認しましたところ、またまたブックマークが増えておりました。

本当にありがとうございます。


壊れていないパソコンが身近にあることのなんと便利なことか。

ここ数日、しみじみ感じております。

自分も現代人らしいところがあったのだと思ってしまいます。

それでも文章を打ってばかりなのですから、結局、ワープロにフロッピーを差し込んで文章を保存し、インクリボンで印刷をしていた頃と変わらない気もしていたりします。

世界が昭和に逆行しても、自分はきっと大丈夫かもしれません。


やっぱり無理かもしれません。ウォシュレットは偉大です。

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