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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第四幕――狐憑き(きつねつき)
144/267

35-(3)

 絶句する土御門を離し、再び母子へと向き直る。母子も土御門と同じく言葉を失っていた。


「とは言え、病であることに変わりはない。暫くは養生が必要だ」


「本当に、本当に狐に憑かれてはいないのですか?」


「本当じゃ」


 村濃の言葉に彼女は堰を切ったように泣き出した。


 狐憑きは何より外聞が悪い。ただでさえ奇声、奇行に苛まれている上に、誰も助けてはくれず、悪い噂ばかり立てられる。原因が自らや家族に無かったこと、何よりそんな日々から解放されることへの安堵から、彼女は涙が止まらなかった。


「辛かったの。もう大丈夫だ」


 袖を濡らす彼女の頭をそっと撫でてやり、優しい声を掛ける。母親の涙に誘われ、子供ももらい泣く。村濃は二人が落ち着くまで、肩を貸してあげた。



 伊織はその一連の様子を男を抱えたまま眺め、村濃に手を貸せと言い損ねた。ふと土御門に目を移せば、村濃に放られたままの姿で固まっている。彼の言葉が余程衝撃だったのだろう。





 そのまま誰も動けずに時だけが過ぎ、すゞが女中を連れて戻ってきたことにより漸く動きを見せた。


 縋りついてくる母子を引き剥がした村濃は女中に二人を任せ、ほったらかしていた伊織たちを見遣る。伊織は相変わらず男を羽交い絞めたまま身動きを取れずにいた。少し引っ掻き傷が増えた程度の変化があるだけである。


 男の方は粉薬を欲していた時に比べれば落ち着きを取り戻してはいるようだ。


「坊、そのまま其奴を儂の(うち)まで連れて行ってやってくれんか」


「もう一人は、どうするんだよ。俺しか居所を知らんぞ」


「そこな陰陽師とやらはとことんじゃの」


「言ってやるな。仮にも身分はそれなりだ」


 二人の話に挙がっている男は、未だ動けずにいるようだ。その有様に伊織は額に手を当て天井を仰ぎ、村濃は乾いた笑い声を僅かに零す。


 連れてきた女中と共に母子を見ていたすゞが、呆れかえっていた二人を丁度見ていた。話の中身までは聞いていなかったが、困り事を抱えていることだけは察せられた。


「何かございましたか?」


「いや、ちとな。何、大したことではない」


 おずと尋ねてきた彼女の問いに村濃は何でもないという風にはぐらかす。


 非力な女に頼めるようなことではない、と考えてのことである。


 しかし、すゞに声を掛けられた伊織はふと思い至り、村濃とは反対であろうことを口にした。


「この男を先生の診療所へ連れて行かねばならないが、生憎俺も先生ももう一人の狐憑きのことがある。故にどうしたものかと思案していたところだ。すゞ、お前頼めるか?」


「その方を診療所までお連れすればよろしいのですか?」


「そうだ」


「承知致しました」


「いや、待て。女子にそれは」


「大丈夫でございます」


 安易に己の女中へ無茶を命じようとする伊織に村濃は命令を取り消させようと二人の会話に割って入る。しかし、すゞは彼の厚意からの言葉を笑顔で遮った。


「私、こう見えて力には自信がありますので」

お読みいただきありがとうございます。


つい数日前、ここに書こうと自分の中で温めいたことがあったのですが、画面に向かっている今、何だったのかさっぱり思い出せなく、もう随分画面の前で悩んでいます。

自分は何を書こうとしたのだったでしょうか。


物忘れなのか、ボケなのか。はたまた取るに足らない事過ぎて頭の中から完全に消え去ってしまったのか。

床に落ちている抜け毛も、最近増えたような気も……。



人はそうして大人になるのでしょうか。なんて。

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