3-(3)
部屋を出た伊織は同心の詰めている部屋に戻り、さっさと帰り支度を済ませ、そそくさと奉行所を出た。手傷を負った上に徹夜明けは流石に体に応え、少しでも早く床に着きたく、気が急いていた。
帰宅した伊織をすゞと佐吉が出迎えた。伊織は佐吉に風呂を沸かすように言い、自分も風呂へ向かう。傷口にぬるま湯が染みたが、体についた汚れを落としていった。
風呂から上がると、脱衣所に襦袢と部屋着用の着流しが用意してあった。着物に袖を通していく。腕を動かし体を捻る度に傷口が痛み、顔をしかめた。
部屋に戻ると、すゞが居間の戸棚から薬箱を持ってきていた。伊織が側らに座ると、彼女は迷うことなく丁寧に包帯を取り替えていく。
「あまり、ご無理はなさりませぬように致してくださいませ」
手当てを終えたすゞはそう言うと、部屋を出ていった。部屋に一人残された伊織は畳の上に仰向けに寝転がる。袖口や胸元から白い包帯が覗く。ぼんやりと天井を見つめたまま、いつしか意識が遠くなっていく気がした。
伊織が目を覚ましたのは、太陽が少し傾いた昼八つを少し過ぎた頃だった。いつの間に眠りに堕ちたのか、彼自身分かっていない。だが、体の上には掻巻布団が掛けてあった。
眠り目を擦りながら裏庭に面した縁側に出ると、すゞが洗濯物を取り込もうとしているところだった。物干し竿に掛かっている着物が太陽を浴び、揺れている。
「精が出るな」
伊織が声をかけると、すゞ慌てて振り返り、頭を下げた。
「これは旦那様。お部屋でお休みになられなくて良いのですか」
「たいした怪我ではないからな」
「左様でございますか。少し遅いですが、昼げのご用意をいたしましょうか」
「構わん。腹が空いたら勝手にやる。お前はお前の仕事をしろ」
「かしこまりました」
すゞは伊織に背を向け、洗濯物を取り込んでいった。足元の籠に手拭いなどの小さいものを入れる。竿上げを伸ばすが何度か宙を切る。伊織はその後ろ姿を暫くぼんやりと眺めていた。
伊織の腹の虫が鳴く。
「あまり無理をせぬようにな」
伊織はそう言うとその場を立ち去った。
賄い場には、既に握り飯が三つ皿の上に作ってあった。すゞが昼げ頃に拵えたのだろう。握り飯は既に冷め、表面はわずかに乾いていた。
一口頬張れば、程よい塩加減で、中心には梅干が入っていた。夏に伊織が自ら浸けたものである。瞬く間に一つ平らげた。土間に置かれた甕の中の水を柄杓で掬い、一気に飲み干す。雫が口の端から顎を伝い落ちる。懐に手を入れるが手拭いは無く、仕方なく袖で拭った。
お読みいただきありがとうございました。
違うんです。今回は忘れていた訳ではないんです。
実は今日まで旅をしておりました。
お蔭で現在足が筋肉痛になっています。
予約更新すればと思う方もいらっしゃるかと思いますが、comicoでは予約更新ができませんでしたので、共に更新が遅れました。申し訳ありません。
さて、話はいよいよ解説回に、入らなければならなくなりました。
暫くつまらなさそうな回が続くかもしれませんが、もう少しお付き合いいただければと思います。




