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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第四幕――狐憑き(きつねつき)
110/267

27-(1)

 翌日、伊織が目を覚ましたのは、いつもよりも少し遅い刻限だった。微睡(まどろみ)ながら外の音に耳を傾ける。鳥の囀り、木々のそよめきの中に、営まれている生活の音が聞こえた。障子越しに届く光に目を細め、ゆっくりと大きな欠伸をする。


 昨晩帰ってすぐ床に就いたとはいえ、空も白もうかという程遅かった。障子を開けて日を見上げれば、普段とそう変わらなそうだ。


 ぼんやりとする頭で寝間着から着替え、庭に出る。物干し竿には、既に洗濯物が干されていた。顔を洗い、指を組んで体を上へと伸ばす。



 未だ眠気は抜けきらないが、少しはましになった気がする。




 居間に入れば、朝食を終えた土御門がまったりと茶を啜っていた。


「遅いですね」


「誰のせいだと」


「おはようございます旦那様。すぐにお食事をご用意いたします」


 伊織の言葉を遮り、すゞは挨拶を述べた。視線が一瞬土御門へと流れ、再度伊織へと戻る。彼女の言わんとしていることが分かり、伊織はそれ以上言葉を続けるのは止めた。



 伊織が腰を下ろすと、それを待っていたように土御門が彼の名を呼んだ。


「昨夜はあなたの言うのに従ってあげたのです。今日こそ私の言う通りにしていただきますよ」


 面倒だ、と言うように伊織は頭の後ろを掻く。細めた目で彼を見遣れば、眉間に皺を寄せ、随分と気が立っているように見えた。


 これ以上は機嫌を損ねるな。


 そう判断し、伊織は小さくため息をついた。


「異存はありません」


「では早速、梅鉢という医者の屋敷を訪ねましょう」


「その前に朝げを食べさせてください」


「早くしてください。そもそも寝坊したあなたが悪いのでは?」


「そうですかね。すゞ、今何時(なんどき)だ」


 丁度膳を運んできたすゞに尋ねれば、鐘の打った数を思い出しながら指を折っていく。


「少し前に五つの鐘を打ったところにございます」


「なんだ。思ったより遅くはなかったらしい」


 それ以上時間の話をする気がないのか、何事もなかったように箸をとる。


 平然とする伊織が面白くないのか、眉をひそめた土御門が詰め寄った。その動きが目端に映り、伊織は片眉をあげる。


「それでも、寝坊は寝坊です」


「言う程でもないでしょう。奉行所の昼番にも間に合う刻限ですし、屋敷は逃げたりしません」


「そういうことではありません。こうしている間にも何かあったらどうするのですか」


「何かあった時の為に鬼の二人を見張りに残したのでしょう?」


「それでもです!」


 昨晩言いくるめられる形になったことが余程悔しかったのだろう。少しでも自分に正当な要素があることで伊織を言い負かしたいのが、ありありと伝わってくる。


 朝っぱらから機嫌を損ねるものではないと思ったそばからこれだ。伊織はいよいよ自分だけのせいではない気がしていた。


 膳の上の物を手早く腹に流し込んだ伊織は、土御門がこれ以上何か言ってくる前に、と立ち上がる。


「すぐに支度をする。今暫くお待ちを」


 伊織の言葉に満足したのか、詰め寄っていた位置から元居た場所に戻り、何度も頷いて見せた。


 伊織はというと、彼の様子に呆れたようにため息をつく。すゞに一つ頼みごとをすると、足早に部屋を出た。





 袴を穿き、大小を腰に差す。伊織が居間に戻れば、茶を飲みながらまったりとする土御門と、話しかけられ続けるすゞ。


「出ますよ」


「はいはい。随分待たされました」


 ゆっくりと腰を上げる土御門。部屋を出ていく彼の後を伊織、すゞの順で追った。


「梅鉢の所に行く前に、奉行所に寄りたいのですが」


「またですか? 報せる程のことなんてないでしょう? 一々面倒ですね」

お読みいただきありがとうございます。


六月の頭に家に生えている梅を収穫し、砂糖漬けにしました。

大きめの瓶二つ分でしたが、それだけでも殆ど一日仕事でした。

現在は梅から大分水気が出てきており、沈殿している砂糖も残りわずかです。

毎日、早く梅シロップができないか、と瓶をつい眺めてしまいます。


水で薄めてジュースにするのが我が家のお約束です。

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