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1.サッカー部?に入部したよ!

「さくらちゃん、休み時間にサッカーやってみない?楽しいよ~」

「えー。やらなーい。友里ちゃんとお砂のお城作るの。しおんちゃんも作ろうよ」

「もう小学生なんだよ!砂遊びなんてしないよ!」

「サッカーだって、男の子みたいじゃん」

「でも…楽しいしかっこいいもん」

「私はかわいいのがいいなぁ。詩音ちゃんはサッカーする人になりたいの?」

「もちろん!外国でサッカーして、活躍するんだぁ」

「おぉ。外国!私も外国に行きたいなぁ」

「外国で何するの?」

「私は、お姫様になるの」

「お姫様になんてなれないよ」

「なるんだもーん。ママも、さくらはかわいいからきっとなれるわ!って言ってくれるもん」

「はぁ…じゃあ、もしお姫様になったら私が外国でサッカーしてる所見に来てよね!」

「うん!あ、でもお外で体育の見学したら、ドレス汚れちゃわないかなぁ…」

「どうかなぁ?でも、さくらちゃん砂遊び好きで、いつも泥だらけになるんだし、大丈夫なんじゃない?」

「お姫様になったらいつも綺麗でいないと!」

「はいはい」

「一緒に外国で頑張ろっ!」

「うんっ」




1.サッカー部?に入部したよ!



「サッカー部に行くぞぉ!」

 高校入学後の説明をすべて聞き終え、そのかったるさからの解放と、待ちに待った部活動見学の時間を迎えて思いっきり両手を上に伸ばし、その女子生徒は叫ぶ。ショートボブの髪型を揺らし、澄んだ瞳、薄い唇、高校1年生にしては少々小柄な体を常に精一杯動かして一挙手一投足を全力でエネルギッシュにこなす、元気の塊である。

「えぇ…やっぱりサッカー部に入るの?」

その元気の塊におどおどと震え声で声をかける、セミロングの髪型で元気の塊と比べると少し長身な、元気の塊の友人。周りの生徒の視線を気にしてか、眼鏡の奥の瞳が光の反射で伺うことができない。

「うん!まずは見学だよ!友里ちゃん、行くよー!」

元気の塊はダッと駆け出す。

「あ、ちょ…さくらちゃん待って…」

置いていかれた眼鏡の女子生徒。待ちきれずに駆けて行った友人の荷物と自分の荷物を慌てて抱えてつぶやく。

「私、放送部に入ってみたかったんだけどなぁ…はぁ」

2人分の荷物を持って足取り重く、姿の見えなくなった友人を追って教室を出るのであった。


 とある部屋。真ん中に白くて広いテーブル。棚には本が整理されている。ただ、本が少ないのか、棚が大きすぎるの空の棚ばかりだ。そして室内はアロマのラズベリーの香りに包まれている。テーブルには北欧産をデザインしたティーセットが置かれている。そのティセーットで淹れた紅茶を一口飲み、女子生徒は口を動かす。

「授業が終わってのミルクティーは格別だなぁ」

と言って、カップを机に置く。その女子生徒の隣に座るもう一人の生徒が、クッキーを2枚頬張りこう言う。

「クッキーおいひぃ。手が止まらないよぉ」

ポリポリと口を動かすその女子生徒は俗にいうぽっちゃり体型で、丸い顔を限界までとろけさせて極楽の中にいるかの様な雰囲気を生んでいる。二人の正面にはもう一人。座りながらも座高が高く、一般の女子高生よりもおそらくかなり身長があるであろう、ロングヘアの生徒だ。ノートに何かを書いている。先ほどまでの授業の復習をしているようだ。先ほどまでその生徒がクッキーを頬張るぽっちゃり生徒に言う。

「椿…ちょっと食べ過ぎじゃない…?」

「だって、クッキーがおいしすぎるのがいけないんだもぉん」

椿と呼ばれたぽっちゃり生徒は、注意されてそれを意に介すどころか、クッキーを口に運ぶ速度を速める。それを見て、ミルクティーを一口飲んで極楽の中にいた女子生徒が言う。

「椿、せっかく部屋をおしゃれにしたんだから、もっと上品にだな…蘭を見習えよ」

「上品にクッキー食べてるしぃ」

ポリポリと口を動かしながら答える椿。上品のお手本とされた蘭は、ノートに書く手を止めず、

「どこが…」

と呆れたように言う。

「しっかし新入部員こないなー!」

ミルクティーの生徒が伸びをしながら叫んだ。

蘭はそれを見て、

「うーん。やっぱり勧誘とか行かないといけないかもしれないわね。栞那は待ってれば来る、って言ったけどやっぱり…」

栞那、と呼ばれたミルクティーの女子生徒は手を頭の後ろに組んで返す。

「だって、うちの部の内容なら世間的に無名でもないし、放っておいても来ると思ったんだもーん。足りない分は、その新入部員の紹介とかで集めようかなって…」

蘭は呆れたように、ため息をついて言う。

「競技を知らない人はいないかもしれないけど…人気があるかどうかは別じゃない…」

「パンフレットでも作るぅ?おいしいクッキーとお茶があるよ~、って書いたら私みたいな人がくるかもぉ」

能天気に語りだした椿を見て、栞那もため息をついて小声でつぶやく。

「はぁ…誰か…こぉ~い…」

ワンテンポ置いて再び、今度は3人揃ってはぁ~、っとため息をつく。その後、数秒の静寂の後でコンコン、と部屋のドアがノックされた。

「来たか!?」

ばっ!っと顔を上げ、ドアに走る栞那。他の2人も期待の篭った眼差しでドアを見る。

「はぁ~い!ようこそ女子サッカー部へ!」

勢いよくドアを開ける栞那。しかし、ドアの先にいた人物を見て、その勢いが止まる。

「…え?ちょ…大丈夫か?」

教室の外にいたのは、泣きじゃくる新入生。それはもう大粒の涙を流し、嗚咽にまみれている。

「うぐっ。ひぐっ。ざ…サッガー部の部室で合っでまずがぁ?」

「あ…合ってるけど…それより何でそんなに泣いてるんだ?」

たじろぎながら聞く栞那の問いに対して、号泣している新入生の後ろにいる、眼鏡の新入生が答える。

「部室の場所知らないで教室を飛び出して、迷子になりまして…」

「そ…そっか。無事辿り着けてよかったね。」

引き気味の口調から、気を取り直して引き続いて言葉を続ける栞那。

「サッカー部の部室探してたってことは、入部希望者なんだろ?とりあえず入りなよ!お茶とクッキーがあるから、いつまでも泣いてないでさ!ほら!」

眼鏡の新入生が遠慮がちに返事をする。

「は…はぁ。お邪魔しま…」

それを遮る様に先ほどまで泣きじゃくっていた元気の塊が返事をする。

「クッキー!お茶!サッカー部に着いた!お邪魔しまーっす!」

その様子を見て、栞那は一言返事をした。

「う…うん…」


 サッカー部の部室では今、お茶会が開かれている。そしてクッキーを食べながら、さっきまでの号泣が嘘のように自己紹介を始める新入生。

「三浦さくらって言います!中学では帰宅部でした!でもでも今とてもサッカーをする意欲にあふれています!よろしくお願いします!このクッキーおいしいですねぇ~」

嬉しそうに椿が返事をする。

「でしょぉ。おいしすぎてクッキーを食べる手が止まらないよねぇ」

「はい!」

ポリポリとクッキーを食べる二人を後目に栞那が言う。

「未経験かぁ…でも人集まらない事には…ん~」

悩む栞那に蘭が

「人を選んでる余裕は無いわね。せっかくやる気満々なんだから、歓迎しましょ。しっかり教えればいいだけよ」

と諭す。

「そうだな…そんで、そちらの眼鏡の子は?」

と、栞那は次に友里の自己紹介を促す。

「わ…私は武田友里と言います…さくらちゃんが心配でついてきたんですけど…本当は放送部に入ろうかと…」

と言った瞬間、隣のクッキーの虜が驚く。

「えぇ!?一緒にサッカー部入らないの!?約束が違うよ!」

「や…約束なんてしてないよぉ…」

「そんなぁ…」

うるうるとした目でさくらは友里を見る。もちろんクッキーを食べる手を止めて。そしてその二人のやり取りを見て、一呼吸落ち着いたタイミングで栞那は友里に声をかける。

「そっか。私達はもちろん、無理に入ってくれとは言わないけどさ、何で放送部に入りたいか聞いてもいい?アナウンサーとかナレーターさんとかを目指してるのかな?」

「私、いつもさくらちゃんといて、さくらちゃんの世話をしたり振り回されたりしてるんですけど」

「うぐっ」

うるうるした表情から、罰の悪そうな顔に変化するさくら。栞那はうんうん、とうなづきながらこう相槌を入れる。

「だろうね」

友里は言葉を続ける。

「でも、さくらちゃんはいつも元気で、その元気に実際に何度も助けられたり、元気づけられたりしていて、一緒にいながら、憧れでもあるんです」

「いやぁ。なんか照れるなぁ」

罰の悪そうな顔から、ふにゃ、っと顔を破顔させる。そんなさくらを見て、一言蘭が言う。

「表情の忙しい子ね…」

「だから、そんな憧れに近づくためにも、内気な自分を少しでも直したくて、声を発して言葉を伝えるという活動をする放送部に入りたいなって…」

いつしかさくらの目は真剣な眼差しに代わっていて、言葉を続ける友里の目をじっと見ている。そして声をかける。

「そうなんだ。友里ちゃんがそうやって真剣に考えてるなら、私、応援するよ!友里ちゃんがいないのは不安だけど…私、大丈夫だからお互いに頑張ろっ!」

満面の笑みでそう言った。しかし、声は震えていて、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「さくらちゃん…ごめんね。私、頑張る…」

友里も名残惜しそうにそう答えた。しかし栞那がそんな二人に割って入る。

「そっか。武田さんの言うことはよくわかった。でも、内気を直したい、というんなら、サッカー部だってできると思うぞ?運動部だから、声を出すことなんて必須だし、多くはないけどさ、観客に見られながらプレーするんだ。もし試合に出れる事がなくても、ベンチからだって声を出してもらわないといけないしね。三浦さんと一緒に入れば、憧れ…というか目標を近くに置きながら訓練できるし、一緒に入部するのが一番いいような気がするけどな。どうかなぁ?」

「そうだよ!それがいいよ!」

何故かさくらが栞那の言葉に一番に反応した。それを見て蘭が呆れたように言う。

「さっきまで感動の決別の場面だったのに…感情の切り替えも忙しい子ね…」

友里が悩んだ顔で答える。

「…そうですね。たしかにそれがいいかも…でも、サッカーをしていたどころか中学で運動部にも入ってなかったですし…練習の邪魔になるんじゃ…」

すくっと、蘭が立ち上がって言う。

「大丈夫よ。高校から始める子だって少なくないし、私達がちゃんと教えるわ。一緒に頑張ってみない?」

「…わかりました。さくらちゃんも心配だし、一緒に入ります。よろしくお願いします。」

ぺこり、と頭を下げる友里。そしてその友里に抱きつくさくら。

「友里ちゃぁん!よかったよぉ。離ればなれになるかと思って怖かったよぉ」

「ごめんね。離れないで、ちゃんといるから」

そういって、さくらの頭をなでる友里。その様子を見て、栞那が一言言う。

「三浦さんの方は、ちょっと武田さん離れした方がいいんじゃないか…?」

そのやり取りをさらに後目に、幸せそうに椿はクッキーを食べ続けるのであった。


「さぁ!では早速部活動を開始しようか!」

パァン!と手を叩き、栞那が叫んだ。

「おぉ!早速ですね!ドキドキするぅ」

身をよじらせて期待に胸ふくらませるさくら。友里は冷静に、

「あ、運動するから、ジャージに着替えないと…」

と、鞄を開けてジャージを取り出そうとした。

「まあ、落ち着きたまえ。席に座って、数学の教科書とノートを出すんだ」

「え?」

「しっかりと予習復習をしないとダメだぞ?最初が肝心だからな~。いきなり躓いて、取り残されないようにしないと!」

「は、はぁ…」

と言って、ノートと教科書を取り出すさくらと友里。二人のノートを見て、蘭が言う。

「さ、私も教えるから、やってみましょ」

「は、はい!」

自信なさげに返事するさくらを後目に友里は

「私は家でもある程度予習してるので…ではこの時間も簡単に復習しようかな」

と言ってシャープペンを走らせ始める。

 10分程経っただろうか。無言の室内。カリカリカリ、とノートに書き込むシャープペンの音と、クッキーを食べ続ける音だけがしている。この、ある種の静寂をかき消すようにさくらが叫んだ。

「って、ちがーう!」

ばっ、と立ち上がって、そのはずみでノートと教科書が床に飛んで行った。

「静かに勉強しろよ」

「集中しなさい?」

「さくらちゃん…皆勉強してるんだから、騒いじゃダメだよ」

「びっくりしてクッキー割っちゃったぁ」

場違いである、というような反応をされて、さくらは戸惑う。

「えぇ…?私が間違ってるのかな…?」

さくらはどうしていいかわからなくなって、余計に困惑してしまう。そのさくらを救うように、教室の戸をコンコン、とノックする音がした。

「部活動、きちんとしてるかい?」

ガラガラ、っと戸が開いて、男性が入ってきた。60代位であろうか?小柄で白髪交じりの頭のてっぺんにはもう髪の毛が残っていない。そんな男性に対して栞那は声をかける。

「こんにちはー!ばっちりやってますよー!先生もお茶飲みますか?」

「おぉ、いただこうかな。おや?2人は新入部員かな?よろしくね。顧問の松木です」

と自己紹介をしながら椅子を引く松木。

「よろしくお願いします!三浦さくらです!」

「た、武田友里です」

「んむ。礼儀ができてて素晴らしい。お茶もうまくて素晴らしい。さ、私に気にせず予習復習を続けなさい」

栞那が淹れたお茶を飲みながら、満面の笑みでそう声をかけるのであった。

 再び、ペンを走らせる音とクッキーを食べる音のみのある種の静寂の時間に入る部室。今度は5分程して、さくらが立ち上がって叫ぶ。

「やっぱりちがーう!」

はずみでノートと教科書が床に飛ぶ。

「うるさいぞ!」

「集中できないなら、もう帰りなさい」

「さくらちゃん…メ!」

「今度はクッキー割れなかったぁ」

今度はひるまずに言葉を続けるさくら。

「ここ、サッカー部ですよね!?何で勉強してるのぉ!?勉強は家でするから、サッカーやりましょうよぉ!」

さくらの悲痛な叫びを聞いて、栞那が仕方がない、と言った様子で答える。

「去年までいた先輩が一気に抜けちゃってさ、人が足りないんだよ。サッカーって11人でやるスポーツだし、練習でミニゲームするって言っても最低6人はいないとなぁ」

「サッカーって11人でやるスポーツなんですね!」

「おいおい…そこからかよ…」

呆れる栞那。

「でもボール蹴ったりしてみたいぃ!」

「人集まったらな~。それまで予習復習!」

「やだやだやだ!」

床に倒れこんで手をじたばたさせるさくら。それを見て蘭が呆れるように言う。

「漫画の様にダダをこねる子を初めて見たわ。本当にいるのね…」

友里が真っ赤になってさくらを制す。

「さくらちゃん!恥ずかしいからやめて!」

このやり取りを静観していた顧問の松木が口を動かす。

「まあなんにせよ、試合に出られる17人集めないと、この部は廃部になるから、部員集めも頑張らんとね」

部室内の空気が凍る。

「え?」

真っ青な顔で聞く栞那。事情を知らなかったらしい。

「そりゃあ、サッカー部っていう名前の部だから、試合に出れなければ廃部にされるよな」

「ちょ…それは困るんですけど…卒業の時の先輩からの熱いメッセージを受け取ったばかりなのに、私の代で廃部って…」

栞那の額に汗がダラダラと流れる。その様子を見て、蘭が言う。

「気づかないうちに切羽詰まった状況になっていたのね…栞那、どうする?部員勧誘、行かないともうまずいんじゃない?」

そう声を掛けられて面倒臭そうにこたえる栞那。

「うーん。待ってれば来ると思うんだけどなぁ」

「そんなこと言ってて集まらなかったらどうするの?待っててあと1人2人来るかもしれないけど、17人も集まるとはちょっと思えないわ」

「確かに…」

その会話を聞いて、さくらが飛び起きる。

「勧誘!しましょう!すぐ行こう!今行こう!そして早く集めてサッカーしよー!」

「いや、今から行っても1年生はもう他の部に見学に行ってるか、帰ってるだろ…やるなら明日の朝か、放課後すぐだ」

栞那に続いて、蘭も話を続ける。

「勧誘と言ったらパンフレットも作らないといけないわね。今日、明日で急いで準備して明後日から始めましょう」

その言葉を聞いて、ガクッとするさくら。

「えぇ…しばらくはサッカーできなさそ~」

そんなさくらに、慌てて友里が言う。

「し、仕方ないよ。準備は大事だよ…しっかり準備して、17人集まるように勧誘がんばろ?」

そのやり取りを後目に、今までクッキーを食べていた椿が言葉を発す。

「あー。さっきからずっとパンフレット作ってたよ~」

驚く栞那。

「え!?クッキー食べながら落書きしてるのかと思ってた…」

「栞那ちゃん失礼だな~。ま、見て見て~。もちろんお茶とクッキーがあるよ、っていう殺し文句入れておいた~」

と言って自分で作ったパンフレットを見せる椿。躍動感ある絵、鮮やかな色使い、大きく書かれた女子サッカー部の文字に、部室の場所、練習時間等必要な情報もしっかり書かれている。『初心者でも大丈夫!一緒に青春の汗を流して、一緒に成長しよう!』という誘い文句もなかなかだ。右下に小さく書かれた『今ならおいしいお茶とクッキーがついてくるよ!』という文字が気になるが…。パンフレットを見た一同が驚嘆の声を上げる。

「おぉ…」

「予想以上に本格的…」

「逆にどうしてこれが落書きに見えたのかしら?」

「う…うるさいな。今日は集中力を欠かせる奴が目の前にいたから、椿が何してるかきちんと見れてなかったんだよ」

「椿先輩すごぉい!これなら印刷してすぐ勧誘行けますね!」

ほめられて、クッキーを食べる手が加速する椿。

「えへへぇ。なんか照れるなぁ」

「印刷は私がしておくから、明日の朝から勧誘するぞー!朝礼の1時間前に1年の下駄箱に集合なー!」

「はい!って…えぇ…朝早いのいやぁ…」

「おい。散々ダダこねておいて朝早いからってテンションを下げるな」

「さくらちゃん、しっかり起こしに行くから!頑張ろ!」

「うん…」

がっくりと肩を下げるさくら。

「じゃ、今日はもう解散するか。明日遅れるなよー!」

こうして、サッカー部入部1日目は終わり、5人でのサッカー部としての活動がスタートしたのであった。


 テレビのバラエティ番組の笑い声が響くリビング。時計の針は20時を指している。ピンクのカーテンにピンクのじゅうたん。ファンシーな雰囲気の部屋である。そのファンシーの中、編み物をする母と風呂上りの娘。

「さくらちゃん、部活動は決めたの?何をするのかしら?」

「ん~。サッカー部~」

「え!?」

「面白い先輩がいて、お茶とかクッキーも食べれて、これから楽しみだよ~。明日は部員の勧誘をするんだ~」

にへら、と笑うさくら。明日の部活動に期待を膨らませている様子がその表情からうかがえる。

「サッカーなんて危ないしダメよ!やめなさい!」

「え~。大丈夫だよ~。さくら、泥遊び得意だし~」

「泥遊びって…体をぶつけ合ったりもするのよ?止めておきなさい」

「やーだー。明日の部活の時間に勉強しなくて済むように、今から予習復習してくる~」

たったった、とさくらは逃げる様に自分の部屋へ駆け込んだ。

「ちょっと…絶対ダメよ!お母さんは許しませんからね!」

と言いながらも、母は逃げる子を追わずに、編み物を続けながらつぶやいた。

「…はあ。頑固者だから聞かないか…。あーあ。うまくお姫様みたくなる様育てられてたと思ってたのになぁ…」

テレビ番組はCMに入った様で、しんみりとした音楽の中、女優が悲しみの表情を浮かべている。今ちょっとした話題になっている映画の宣伝だ。そのまま、夜は更けていった。

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