「おにいちゃん」
即興小説で書いたものを加筆修正したものです。
旨い話には裏があると言うが、これはご多分にもれずそれではないかと思う…
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香ばしく甘い匂いが、鼻腔をくすぐる。フライパンで炙られた肉と玉ねぎがこれでもかと自己主張してくるのに、思わず喉が上下する。いよいよ堪えきれなくなった頃に、待望の声がかかった。
「おにいちゃん、ご飯出来たよー!」
ハリのある、幼さを帯びた声。もう随分とその声にも慣れてしまった。気付くと俺の家に転がりこんでいた彼女は。
曰く、「妹」。
……俺の生活があまりにもだらしがないために、母が派遣してきたらしい。
妹、妹、妹。
「妹」とは一体どういうことだろうか。
……だって、そもそも、俺に妹はいないはずなのに。
一人暮らしを始めたのはもう数年前なので、その間に新たに妹ができる可能性はなきにしもあらずだが、そんな話は聞いてない。
両親は不仲というほどではないがよくある冷め切った熟年夫婦。
うん、ないな。
仮にそうだとしても推定妹の年齢が大きすぎる。
俺が小4ぐらいの頃に生まれた計算になる。残念ながらそんな覚えはない。
親父の隠し子という可能性もあるが、あのポンコツ親父にそんな甲斐性があるはずもない。
あればもう少し楽な生活を送れたはずだ。
つまり、推定14歳ぐらいの少女が、俺の妹を自称して押しかけてくるはずが、ないのである。
……うん。夢か!夢!
押しかけ女房系幼な妻妹(素直ツインテ)ってラノベの読みすぎでは……と我ながら思わないこともないが、おそらく夢である。
最初は困惑した俺だったが、すんなりと彼女の存在を受け入れていた。
「どうしたのおにいちゃん、マユのご飯いらないの…?」
「たべます」
推定妹の悲しい顔はこちらまで悲しい気持ちになる。俺は秒速で返事をした。
「さ、めしあがれ!今日は力作だよー!」
目の前に置かれた皿の上にはふんわりと湯気のあがるハンバーグ。なかなかうまそうである。推定妹のはノーマルな丸い形だが、俺の分はなんと、ハート形である。
「頂きます」
「召し上がれ♪」
しかし、しかしだ。現実世界において母親以外の女とまともに会話をしたことがない俺にとって、この年頃の女子はまぶしすぎる。
「キモーい」「臭ーい」がデフォだった俺にとってトラウマにも近い。
しかしながら飯はうまい。
俺はどうしたらいいんだ。
そんなことを考えながら、これまたうまく炊けている飯を腹に掻っ込んだ。
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「検体052、なかなかうまくなじんでいるじゃないですか」
「しかしなあ、こいつは現実だと思ってないようだぞ」
「まあ、いいんじゃないですか、夢見心地ってやつですね」
「052が上手くいけば、予算も上がって研究しやすくなるはずなんだが…」
「人類ロリコン化計画で少子化対策とは、いつ見ても身の毛のよだつ国策ですよね」
「国家なんてそんなもんさ」