ホームルーム。
「ホームルーム始めるぞー。席に付けー」
担任教師の声で、騒々しかった教室が徐々に静まる。
先ほどつまずいた問題を再度考えていたノートとリノも、それぞれの机に戻って行く。
「来月は魔法技能大会だが、その次の月には中間試験が迫っている。もちろん、この学優コースの生徒も大会に参加する事は可能だけど、その先の試験対策も忘れないようにな」
学業優先と言えど、もちろん魔法を学ぶ授業もある。とは言え、魔法専門コースの生徒には到底敵わないので、学業優先コースの生徒にとってこの大会に参加する事は単なる息抜きのようなものになっている。
この学校には、正確に言えばこの世界の学校には体育祭や文化祭が存在しない。魔法でどうとでもなってしまうからだ。それを禁止しても違反を見分けにくく、許可したら際限が無くなる。その結果、魔法技能の競争と向上を目的とした大会に落ち着いたのだ。
「とりあえず集計を取らなければいけないので、大会に出るつもりの生徒は挙手してくれ」
教師が黒板に種目を列挙していく。
窓の外は鮮やかな夕焼けが滲む。ノックのように流れるチョークの音を聞きながら、ノートは横目でリノを見ていた。
ノートの魔力の事を知るのは、このクラスではリノだけだ。チカラを使わないように自粛していた事は、結果的には周囲に隠していた事にもなる。それを唯一見破ったのがリノだったのだ。
言うまでもなくノートは大会に興味が無く、参加する気もない。でもきっとリノは参加したいはずだ。言葉では諦めたような事を言っても、さりげなく魔法について熱心であったり、こっそり練習しているのを知ってる。
リノのそういう所が好きだった。
素直で、でも負けず嫌いで。他人に心配をかけないように、つらい事を受け入れようとする反面、それに抗おうと隠れて努力したり。恐らくはそれを、苦ではないと笑って否定するであろう強さと健気さ。
どれも自分には無いもので輝いて見える。そして何もない自分が、リノが欲しがっている才能を努力もせずに持っている。まるでごっそり奪ってしまったかのように思えた。
またいつもの自己嫌悪に陥る。ノートは物心付いた時からずっとそうだった。どうして必要としていない自分にこんな才能が。
その時だった。
横目で見ていた先でいつの間にか目を合わせていたリノが、口の両端をゆっくりと上げていって、無邪気な満面の、意地悪そうな笑顔を作り出していた。
嫌な予感しかしない。
そう悟った所で時すでに遅く、高々と右手を挙げたリノは興奮を抑えきれないといった様子で元気一杯にこう言った。
「私と! あとノート君も参加します!!」