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57 可愛い!


「勿論かまわないよ?ここはウィゴ様専用の場所ではないし」

不貞腐れるウィゴと対照的に、シバがにこやかに言った。

ウィゴがこういう反応をする気がしたので、順番が前後してしまったが兄さんとこの東屋を使用する許可を取って置こうと思ったのだ。

「すいません、ウィゴ様。確認する前に連れて来てしまって」

一応謝ると、自分が腹を立てることが理不尽だと理解しているウィゴが、膨れたまま言った。

「別に良い」

「ありがとうございます」

可愛くて頭を撫でたくなるが、我慢した。

代わりにシバが撫でてくれて、手を振り払われていて面白かった。


「ああ、じゃあ、ウィゴ様が戻った後もしばらくうちの兵を残しておいてあげるよ。姫も人目を気にしてじゃ散歩も楽しめないだろうからね」

「良いんですか?ウィゴ様の為の人達でしょう?」

シバに尋ねると明るく笑い飛ばされた。

「問題ないよ。人員は十分いるし、君の姫様を守ることも、ウィゴ様には劣るとは言え、結構な重要案件だよ?」

また私の分からないことかと眉を寄せると、笑うシバの指が私の眉間を撫でた。

「しわ」

眉間をくりくりと指先で押してしわを伸ばす様にしているシバを見上げる。

「どうしてジュジュの主が王族と並ぶんだ?」

ウィゴが私の代わりにシバに尋ねてくれた。

「それはですね。ジュジュちゃんの姫様に危害が及ぶと、物凄く機嫌を損ねる人がいて、面倒なことになるのがわかってるから、皆そんな事態は望まないだろうと私が確信しているからですよ」

回りくどいが、私もウィゴも理解した。

「王族に気に入られているのか」

そうとしか取れないですよね。

シバが肯定の代わりに微笑んだ。

やはり兄さんを後宮に入れた人物は王族か。まあ、そうでもなければ男の兄さんがこんなところに入れる訳もない。


「安心してお散歩して。外だと気分も変わるでしょ?」

シバににこやかに言われ、頷く。

「はい。昨日は、割と上手く話せまし、あれ?」

上手く話せたっけ?確かに外で、普段とは兄さんの雰囲気が違った。

でも私は、そんな兄さんに動揺して、緊張して、失敗して、怒られて。

シバが私を見て苦笑いしていた。

「上手くは話せなかったけど、姫様との散歩は楽しかった?」

私も苦く笑って答えた。

「はい。失敗して咎められた結果ですけど、初めて手を繋いで歩きました。嬉しかったです」

「そう。良かったね」

シバが優しく笑んで頭を撫でてくれた。

「君達が並んで歩く姿を見てみたいなあ。姫も相当綺麗だと言うし、君のこの艶やかな黒髪と姫の金の髪と、その衣装と、素晴らしく美しいだろうね。ああ勿論、二人とも本来の姿でね」

私も、兄さんはきっと化粧と胸の詰め物なしの本来の姿であの衣装を身にまとう方が美しいと思う。

そればかりでなく、シバがあの美しい兄さんと並べて、私のこの疎ましかった黒髪を褒めてくれることが嬉しかった。


「え!?ちょっと待て!」

シバの方を向いていた私の頬を、小さな手が掴んでぐるりと振り向かされた。

ウィゴが変な顔をしていた。

「はい?」

首を傾げると、ウィゴが眉根を寄せ、可愛く険しい顔をした。

「お前が悩んでいるのは兄のことだろう?姫の本来の姿って何だ?もしかして」

「あ!言ってませんでした?」

睨まれた。

「聞いてない」

ウィゴにははっきり伝えていなかったかも知れない。

「すみませんでした。そうです。うちの姫が兄です」

賢い頭で予想はついていただろうに、ウィゴが口をぽかんと開けた。可愛い。

固まっている隙にサラサラの髪を摘まんで梳いてみた。

重たい私のものとも、しなやかで柔らかい兄さんのものとも違う、細くて硬質な手触りだった。

「はあ?どうして男が後宮に?兄が女なのか?」

混乱しているウィゴは私の手にも気が付いていない様だ。

この際だと、可愛い頭を撫で回した。

「ウィゴ様、流石にそう言う直接的な台詞は小声でお願いしますよ」

シバの咎める声に、すぐさまウィゴが不味いと言う顔をした。

自分を欺いていた私達兄妹を責めるのではなく、すっかり守る側にいるウィゴが愛しい。

「どうしてここにいるのかは私も良く分かりません。でも兄は男です」

さらさらと髪にふれながら、シバの苦言に従い小声でウィゴに答えた。

「そんなことして、城の人間に知れたらどうするんだ!処罰は免れないだろう?お前もだぞ?」

ウィゴが私の袖を掴み小声で叫ぶように言った。


「姫は類まれなる美姫らしいですから見かけで知れることはないし。王の渡りもない。姫は面倒な誰かに、ジュジュちゃんは王子に守られてる。ジュジュちゃんが仕事中に下手なへまをしなければ大丈夫ですよ」

明るいシバの言葉にウィゴが反論する。

「下手なへまをしそうだろ!」

「そんな事ないですよ。と言いたいけど、まあしそうでは有りますね。でもそこはジュジュちゃんに頑張ってもらわないと。既にここに来ちゃってるんだから仕方ないでしょう?」

ウィゴの頭に手を添えたまま、後ろで頬杖をつくシバを振り返った。

「ねえ」

シバが私に微笑む。

「はい。頑張ります」

特に、兄さんを兄さんと呼んでしまうこととか。

ウィゴが私の頬を掴んでまた自分の方に向けた。

「駄目だ。お前が頑張ったってきっとばれる。お前、もうここから出ろ」

「え?」

ウィゴが一生懸命な顔で私を見つめる。

「兄から離れていれば、お前まで罰が及ぶことはない。俺の近くにいれば何かあった時も守れる」


しばらくウィゴの柔らかい茶色の瞳を見つめていたが、どうにも我慢が出来なかった。

「んーーーー!可愛い!」

ぎゅうとウィゴの頭を抱き締めると、腕の中でウィゴがもがいた。

「やめろ!何するんだよ!」

背後から楽しげなシバの笑い声が聞こえた。

「その勢いなら『ジュジュ』で良いんじゃない?」

私の腕を掴み解こうともがくウィゴを全力で抱き締めながら、サラサラの髪に頬を寄せた。

「心配してくださって有難うございます、ウィゴ様。大好きです。わた、しの、ジ」

腕の中で大人しくなったウィゴの髪に口付けて、抱き締めたままシバを窺った。

シバが面白そうに笑っていた。

「駄目です。恥ずかしくて口に出せません」

「だよね。分かるよ」

シバが頷いた。

「苦しい」

もがき始めたウィゴを解放すると、赤い顔で不貞腐れていた。

可愛い。

「ウィゴ様。もう一回ぎゅうしていいですか?」

「駄目だよ!」

ウィゴが叫び、その可愛さにシバと二人微笑んだ。






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