35 君も同じだろう
みなさん春休みですか?読んで下さって嬉しいです。ありがとうございます。
最近イリが暗いですね。もう少し続きますが元気を取り戻す前に見捨てられないかちょっと心配です。
更新早いですが、ゆっくり読まれて下さいね。
「はい」
昨日昼寝して作成をサボってしまった兄さんの単語集を、二日分差し出した。
ソファにもたれる兄さんからは見え辛い窓辺の椅子に座って、一言もしゃべらず書きあげたものだ。
「ありがとう」
にっこりと冷たく微笑む兄さんが、いつものように指先で紙を摘まんで私の手から引き抜いた。
シバにも言われたように、やはり悲しいのと同時に腹立ちも感じる。
「兄さんって、」
「何?ジュジュ」
私から離れるためにあからさまにソファの端に寄った兄さんが、笑顔で聞き返す。
「兄さんって、本当に私の事が嫌いなのね」
兄さんから目を逸らし、苦く笑いながらそう言って立ち去ろうとする私の背中を、全く感情の読めない兄さんの声が刺した。
「それは君も同じだろう?ジュジュ」
予想を上回る冷たいその言葉に返事をする気にもならず、嗚咽を耐えて自室に入った。
兄さんが私を嫌いだと認めた。
『ジュジュ』と言う言葉には何の意味もなかった。
私が兄さんを嫌っていたと知られていた。
全てが辛かった。
「イリ。飯食わねえのか?持ってきたぞ」
食べたくはなかったが、運んで来られてしまったのなら残す訳にはいかなかった。
仕方なくベッドから起き上がり、ドアを開けて待つ怪訝な表情のジョエの脇の下をくぐって居間へ出た。
先に食べて自分の部屋に引っ込んでいてくれればいいのに、兄さんは席に着いていた。
食事にもまだ手をつけていない様だった。
兄さんに視線を合わせることなく席に着き、無言で食べ始めた私をジョエが眺めているのを感じた。
勿論兄さんも見ているだろうが、兄さんの表情を窺う気にはならなかった。
「イリ。何で喧嘩してんのか知らねえけど、無視とかその辺の女みたいなくだらねえことすんな」
さっさと食べ終わって自室に戻ろうとした私の肩を、ジョエが掴んだ。
「その辺の女よ。食器は後で戻すから置いといて」
ジョエの手を振り払ってドアを開けた。
その後お風呂の支度をして、食器のカートを押して部屋を出る時も、戻って来た時も、兄さんはソファに座っていたが、そこに視線をやることもせず通り過ぎた。
自室に入る際ジョエに頭を叩かれたが、無視した。
兄さんが余計に私を嫌うのは確実だろうが、唯一の友達であるジョエにも失望されているだろうなと、酷く辛かった。
「昨日はどうだった?」
シバが聞いてくれたので助かった。
昨日聞いてもらったせいか、シバに聞いてほしくて仕方なかった。
「私のことが嫌いだって認められて、腹が立ったので無視してます」
シバが優しい茶色の目を見開いた後、楽しそうに笑った。
「そう。今日も?」
唇を引き結んで頷く。
「女だねえ。結構怒らせると面倒なタイプだね、ジュジュちゃん」
「だって、何かしゃべると泣きそうだし。顔見るもの怖いし」
シバが眉を上げた。
「怖いの?」
「目が、凄く冷たいんで。嫌われてるってはっきり聞いてからあれを目の当たりにするのは、ちょっと怖いです」
「見てないんでしょ?そんな目してないかも知れないよ?意外に君に無視されて傷ついた顔してるかもよ」
「ないです」
シバ様が声をあげて笑った。
「そうかなあ、例え嫌いな奴からでも完全に無視されると割と堪えると思うよ。まあ、喧嘩も今の関係を打破するには良い手だよ。兄さんと完全に決裂したら私の所においで。兄代わりとして、仕事か良いお婿さんを世話してあげるよ」
驚いて隣に座るシバを見上げると、にっこりとほほ笑まれた。
「ジュジュちゃんのことはかなり気に入ったからね。その分君の姫様の評価がガタ落ちしてるけど。だから、安心して兄さんと喧嘩しておいで。部屋にいられない程嫌になったら、ここでそう言ってくれれば良い。ウィゴ様も喜ぶよ」
首を傾げると頭を撫でられた。
「今も使用人だろ?王子の部屋付の侍女としてならいつでも入れてあげられるよ。もっと良い仕事がしたいのなら、すぐには難しいけどね」
「でも私、本来ならお城で働けるような人間では」
シバが笑いながら私を睨むふりをした。
「どうして?髪色のせい?それとも兄さんの仕事のせい?貧しさのせい?彼にはそういう差別意識を持たない人間になって欲しいんだよ。君もそうだろう?」
頷いた。
「ほらね。彼の近くにぴったりな人材だと思うよ。それに加えて良い子だし。言うことないよ」
シバがにこにこと笑い、自分自身を丸ごと認められたようで嬉しかった。
「まあそれは姫様のところの仕事が終了してからでも構わないんだし、取り敢えず好きに喧嘩しておいで。ああでも、君もいつまでも無視してないで思ってることは伝えなくちゃ駄目だよ。お互い本心を隠してちゃずっと平行線だよ」
確かにそうだと思った。




