第31話 素材収集完了!・・・的な話
洞窟の入り口を潜ると真っ直ぐ奥へと延びる通路があった。
其れを20m程進むと広場のように開けた場所に出た。どうやらそこは、この洞窟が使われていた時代の作業員達の集会場のような感じだ。
「なんか広場だな。」
「確かに広場だな。言われなくても解るけど。」
「広場やな。わざわざ言わんでも解るけど。」
「・・・。」
いい感じにグランツが黙ったところで、カゲミツの質問がきた。
「それで?この後はどう進むんだ?先に進む通路は3つ程在るようだけど。」
そう。この洞窟は、1本道ではなく入って直ぐに通路が3つに分かれている。
「【走査】使てみた限り、マップはβ時代と変わってへんみたいや。左右の道は結構奥の方まで延びてて、繋がってる。真ん中はその半分辺りまでしかないんやけど、行き止まりが広場みたいになってるねん。んで、β時代は真ん中の道には採掘ポイント無かったから今回は左の道進む予定や。」
そう。この洞窟の真ん中の通路の先には広場がある。そこそこの広さで、それなりに人の手で整備されたような場所だ。その如何にもな場所故に何かあるんじゃないかと思って仲間と共に何度も調べたものだ。洞窟内の行ける場所は、床も壁も天井も調べまくった。結局なにもなかったわけだが。
「了解した。僕はここには来たことがないからサイハに従うよ。」
「俺も同じくだ!」
2人とも了承してくれてなによりだ。
「あいよ。ほんならそろそろ行こか。」
「うん。」「おう!」
3人で警戒しながら左の通路へ踏み出す。正式始まって初ダンジョンアタックの開始だ。
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「まぁダンジョンアタックや言うても、ここに出るんわ大したこと無いのんばっかりやけどな。」
通路を奥に進むうちに何度か戦闘も起こったがケイブバットやケイブリザードばかりだった。確かに通路は狭いが、この3人にとって特に手こずるような相手ではなかったのでどの戦闘も瞬殺で終わった。
「おう。其れにしても歯ごたえ無さすぎるだろうよ。」
「・・・何時の間に食べたんだ?」
「生肉貪るとか、そんなに腹減ってたんか?」
「食ってねぇよ!?そっちの歯ごたえじゃねぇよ!?生肉貪ったりしねぇよ!?判ってて言ってるよね!?」
グランツがいきなり叫びだした。今日も絶好調のようだ。
キキキッ
斬っ!
サイハがおもむろに腰の刀を振るうと、白い軌跡の先で蝙蝠が墜ちていく。
「いきなり叫び出すからmobが寄ってきたやんか。」
「全くだ。」
「・・・。」
サイハに斬られた蝙蝠は、一部が凍り付いている。勿論氷属性を覚えたわけではない。その腰に履いている刀のお陰だ。
”氷刃[冬神楽]”
フェンリルさんが仲間になったときの神獣の試練で手に入れた武器で氷属性を持つ刀である。
いつもの自作の刀ではない理由は、「せっかく手に入れたんだから使い心地を試してみないとね。」って言うものだった。白が『私の刀を使ってくれない・・・。』何て呟きながらショボンとしていたからでは断じてない。
「へぇ、結構使いやすいなぁ。素の威力も上やし鞘から出したら周囲に冷気発生するし。」
「ソレってあの時言ってた森で手に入れたって刀かい?」
「おう。」
「氷属性の武器ってまだ珍しいんじゃね?炎属性の武器入手したってのは掲示板なんかで見たこと在るけど。」
「まぁ、これが結構使えるんが判ったんは収穫やな。メインで使うんは自分で打った刀やけど。状況によってはこっちのんがええかも。」
そう、この”冬神楽”。状況によっては非常に有用なものになる。
その状況とは・・・ズバリ”暑い場所”。
鞘から抜いている限り絶えず冷気を発しているので、耐暑に使えるのだ!・・・結構なレア武器を冷房代わりに使うという発想はどうかと思うが。
そんな緩い空気とは裏腹に、その場所での襲撃はソレから3回ほど続いた。
「やっと終わったか。・・・”ハーミットバット”?初めて見るmobやな。」
一息着いてドロップの確認をすると、β時代には居なかったハーミットバットと名前の付いた牙や翼膜等が入っていた。
「そうなのかい?やはり正式公開で色々と変更がされてるんだね。」
「”ハーミット”の名前からして今まで居った”ケイブバット”より隠密性が高いんやろな。下手したら結構苦戦する相手かもな。」
それから数度の戦闘をこなしながら奥へと進むと採掘ポイントへ到着した。採取系統のスキルを持っていれば、通常の採取ポイント以外でも採取できるポイントが発見できたりするが此処までには無かった。
「この近辺にはなんも居らんみたいやからちゃっちゃと採掘するわ。2人もツールあるんやったら売れるもん採れるかも知れんで。」
そう。このゲームでは採取系統のスキルを持っていなくても、それらのツールを持っていれば採取することはできる。斧があれば伐採できるし鶴嘴があれば採掘できる。当然スキルありに比べて採取できる素材の種類やランクは低い物しか採れないが。
これは一部の生産系統にも当てはまり、裁縫ツールがあれば簡単な裁縫なら出来なくもない。さすがに鍛冶なんかはまともな物を作ることは無理だが。
「いや。僕はツールなんて持ってきてないよ。」
「俺もだ。周囲の警戒でもしてるぜ。」
「判った。頼んどくわ。」
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「おっしゃ。これくらい採れたらええやろ。」
それから暫く採掘に勤しみ、必要十分な素材を確保した。
「そろそろ戻ろか。2人とも助かったわ。」
「いや。ここは初めての場所だから楽しかったよ。」
「俺もだ。」
「ほんなら今度何かで埋め合わせするわ。ちょい先になるけど。」
入り口に向かって歩きながらそんなことを話す。
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襲いくるmobを瞬殺しながら歩いていると、入り口の集会所に到着した。
「ふぅ。襲撃の回数がやたらとあったな。」
「主におまえが騒いだからやけどな。」
「反省しろ。」
「・・・すんません・・・。」
そう、此処まで戻ってくる間に結構な回数mobに襲われた。その主な原因はグランツの騒がしさである。
確かにちょっとイジったりしたが、そのたびに騒ぐものだからmobが寄ってきたのだ。まぁどれも雑魚だったから何の問題もないが。
「ほんじゃ街戻ろか。」
そういって入り口に向かおうとしたとき。
『マスター、少しお待ちを。』
『ん?』
いきなりハクが実体化した。