第30話 ダンジョン到着!・・・的な話
始まりの街は大陸の西部に位置する。西には森が広がり、その先には港町がある。南には肥沃な大地があり、主に農業を生業にする者達が住んでいる。東には広大な草原が広がり、その道は王都へと繋がっている。
そして北には、西に比べれば規模は小さいが森があり其れを抜ければ荒れ地が広がっている。その先に進めばこの大陸屈指の山、”ノーズワール山脈”がそびえ立っている。
そこは昔から豊富な鉱脈が多数存在し、其れによって発展を遂げた街がある。
その名も”鉱石の街マテリア”。今又一組の冒険者達がその街に向か・・・うかと見せかけてその手前の荒れ地奥にあるダンジョンを目指していた。だから今回その街は、特に舞台にならなかったりする。
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「鉱石採取?」
「せや。」
なにやら目の前の脳筋はきょとんとした表情を浮かべている。特に可愛らしくはない。
「・・・なんか変なこと考えなかったか?」
「気のせいや。(なんや知らんけどたまに鋭いんよなぁ)」
「・・・まぁいいや。鉱石なんかの素材ってここに大量にあるんじゃねぇの?」
「有るんやけどな、今回受けたクエで使う素材は自力で手に入れたいねん。」
「どんなクエストなんだ?」
話を聞いていたカゲミツが質問してきた。
「うちの翁からのクエで、武器1本打って来いって感じやな。」
其れを聞いたグランツは、なにやらキョトンとした表情を浮かべている。そこにカゲミツが声をかけた。
「どうしたんだ?グランツ。いつも以上に面白い顔して。」
「いや、翁って誰?ってか、さらっと貶しやがったな!流すところだったわ!」
なんで知らないんだ?・・・そういや、特に言ってなかったか。
「翁言うんは俺が行ってる道場のじぃさんや。」
「サイハが行ってる道場って最初のとこだろ?へぇ、あそこでクエなんて貰えるんだ。」
「おう。なんやら”流派門主の試練”とか言うクエらしいわ。」
「”流派門主の試練”?なにやら通常のクエストとは違う感じだな。」
お、さすがカゲミツ。そこに目を付けたか。
「特殊クエストってなってるな。誰でも発生するタイプみたいやけどな。まぁ、なんか発生条件あるんやろうけど、受ける奴のjobで内容変わるって言うてたし。」
「へぇ、なら他の道場なんかでも受けられんのかな?」
「あるんちゃうか?知らんけど。」
「うし!今度道場行ったときに聞いてみるか!」
「まぁ、それなら自力採取をしたがるのも納得か。それで、何処に行くんだ?」
「この街の北の方に鉱石扱ってるところ有るやろ?そっちに行きたいねん。」
「北というと、”マテリア”か?確かにあそこの鉱山ならいい素材が手に入るだろうな。」
カゲミツが納得という表情を浮かべている。その後ろでグランツも頷いている。この2人もβ組だからマテリアは知ってるだろう。しかし・・・
「残念、ちと違うんや。北に行くけどマテリアまでは行かへんで?あそこの鉱山は確かにええ素材出るけど、国が管理してるから一般の人間は採掘出来へんねん。一時許可証みたいなん発行されてるけど、めちゃ高いしな。」
「そうなのか?」
さすがのカゲミツもソンナ細かい話までは知らなかったようだ。まぁ、職人でもない限り特に関係ない話だしな。ふつうのプレイヤーが鉱石なんかを入手しようとするなら、mobを狩るだろう。大概のmobは何かしらの素材を(確率は低いけど)落とすし。
「んじゃあ、何処に行くんだ?」
俺の説明を聴いていてグランツが聞いてきた。
「北の森抜けたら荒れ地あるやろ?街道外れて荒れ地の奥の方に行ったらダンジョン在んねん。そこでも鉱石採れるからそこ行くつもりや。」
「そんなところにダンジョンなんて在ったのか?」
カゲミツもグランツも驚いている。そのダンジョンの存在自体知らなかったようだ。
「在んねん。職人連中でもあんまり知ってる奴居らへんのちゃうか?かなり奥まったところにあるし、入り口も判りにくい。そこ行くまでに出るmobもそこそこの強さでうま味も少ないから、がっつり探索するような場所でもないしな。」
「よくソンナ場所知ってたな。」
「俺がそこ見つけたんはほんまにたまたまやけどな。まぁそこ行きたいんやわ。」
「解った。ならそこに向かおう。」
「だな!特に目的在る訳じゃないしな。」
「ほんならちょっと準備してから行くか。」
「了解だ。こっちも少し準備したいから、いったん解散しようか。」
「おう!なら何処で待ち合わせする?」
「こっちの時間で2時間後に北の門に集合でどうや?」
「それでいい。」「俺も。」
「ならそう言うことで。」
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こうして2時間後に合流を果たした3人は、街道を北に向けて出発した。
途中の森の中で、本来ならアクティブなはずのウルフに遭遇したがなぜか襲われることはなかった。
確実に俺の称号の効力だろうなぁ。俺個人だけじゃなくPTメンバーにも適用されるようだ。2人とも首を捻っていたが、特に害もないことだしさっさと森を抜けることにした。ウルフ種は襲ってこないけど、他は来るからな。
襲い来るmobと戦いながら、無事に森を抜けた。その先に広がるのは岩だらけの大地と、所々にある申し訳程度の植物だ。
「ほんならこっから街道外れて奥行くで。」
「解った。」「おう!」
道を外れて、荒れ地の奥に向かって進み続ける。ここにはアクティブな魔物も多いが、見晴らしがいい分奇襲には遭いにくい。当然警戒は怠っていないが。現に【走査】の範囲内にいくつかの反応がある。殆どはこちらに気が付いていないが、一部は明らかにこちらに気が付いているような動きをしている者がある。
奇襲をねらってるんだろうが、筒抜けだったりするんだよなぁ。
「カゲミツ。130m先、岩の陰。」
「了解。《エアロバレット》」
詠唱破棄で発動した空気の塊が、魔物の隠れている岩に直撃して岩を砕き散らす。
「ギャヒッ!?」「グギャッ!?」「ゲギッ!?」
驚いて岩の陰から飛び出したゴブリンだったが・・・。
目の前には、すでに2人の前衛が攻撃態勢に入っていた。
「おらよ!《クラッシュスイング》!」
「お疲れさん。《一閃》」
斬っ!
「「「ゲギャッ~!!」」」
グランツの攻撃で2匹が、残り1匹もサイハによって瞬殺された。
「問題なく片付いたな。」
「おう。」
「ああ!しかし、この剣スゲェな!前に使ってた奴より強いのは解ってたけど、まさか1撃とは思わなかったぜ!ありがとな!」
「かまへんかまへん。この辺りは最初の街周辺より強いからな、戦力アップは当然や。特に俺のリクエストやしな。」
工房で2人と別れた俺は、もろもろの準備の一環でグランツに渡す大剣を打っていた。まぁそれなりの出来にはなったと自負している。グランツも気に入ったようでなによりだ。
「僕の杖もだ。今までの物よりも、増幅率が段違いだ。」
グランツの剣と共に、当然カゲミツ用の杖も制作して渡した。工房にあったメテオライト、簡単に言えば隕鉄とアカラの木を使った杖。どちらの素材も魔法の増幅率を上げる効果がある。
「おう。さて、サクサク進むか。」
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其れから幾度かの戦闘を繰り返しながらも、特に危なげなく目的地に到着した。
「ここが目的地や。」
「やっと到着か。目的地・・・つっても、何処にも入り口らしい所ないぞ?」
「言うたやろ?入り口も判りにくいって。」
目の前には崖が聳えている。確かに、何処にもダンジョンの入り口らしきところは見あたらない。
「えっと・・・あぁ、ここや。」
そう言って崖の一部に手を突き出すと、何の抵抗もなく貫通する。
「はあ!?手が崖に刺さった!?」
「・・・そうか、幻惑による隠蔽か。」
そう。何故このダンジョンが余り知られていないのか、それはこの入り口の判りにくさにある。ここのダンジョンの入り口には、理由は解らないが魔法によって隠されている。β時代にここを知っているメンバーで最下層である5階までくまなく走破したが、特に特別な物は発見できなかった。
しかし、そんなことはお構いなしにこのダンジョンには結構お世話になった。そこそこ良質の鉄や、結構珍しい種類の鉱石が手に入るからだ。だから翁からのクエを受けた時、真っ先にここが思い浮かんだ。
そうこうしていると、隠蔽が切れてダンジョンの入り口が姿を現した。
「これが入り口や。ほんなら行くで。」
「おう!」「了解だ。」
サイハが入り口を進み、その後を2人が着いていく。その姿が奥に消えた頃、再び入り口は幻惑によって隠蔽された。
3人で初めてののダンジョンアタックが開始された!
遅くなりました!やっと書きあがりました。
楽しんでいってね!