第24話 決着!・・・決着?・・・的な話
『そろそろ続きを始めましょうか。』
その言葉と同時に、フェンリルさんの頭上に先の尖った氷の塊が現れた。ソレを見た瞬間、サイハは前方にダッシュをしていた。と、間一髪で氷の塊はサイハの頭上を掠めて飛んでいった。走り出すのがもう少し遅れていれば、直撃とは行かなくとも結構なダメージを貰っていたかも知れない。
今度は身体の下ではなくフェンリルさんの右側を走り抜けながら、右前足と右後ろ足に《一閃》を叩き込んだ。そのまま駆け抜け、刀を鞘に収めながら振り向き様に〈鮫牙〉を3本右後ろ足に向け投擲した。
『ぐっ!』
狙い違わず、3本全て命中したようだ。一連の攻撃でフェンリルさんのHPバーが少し減っている。7%って処か・・・。この辺りの敵だと《一閃》だけで倒せるんだから目の前の相手がどれだけ強いのかが良く分かる。今までの攻撃で大体1割ちょっと削ることが出来た。・・・こっちは1発でも良いの貰ったら終わるけどね!
「イキナリやなぁ。もうちょっとで風穴開くとこやったやん。しかも寒いし。」
『たやすく避けておいてよく言いますね。あと寒いのは諦めてください。私の能力の一端ですので。』
「さすが”氷雪の魔狼”とか言われるだけのことはあるわな。この世界でもそう呼ばれてるんかは知らんけど。」
『これでも”神獣”に数えられる者ですからね。』
わざわざ”神獣”の処を強調して言った。こちらを振り返りながら。
「そら済まんな。しかし、まだ氷雪で良かったわ。これが灼熱やったら近づきも出来へん処や。ほんなら続けよか。」
『では早速。』
そう言うなり、フェンリルさんの目の前少し上に先ほどよりも大きい氷塊が現れる。それを目にしたとたん、サイハは2度のバックステップで距離を取った。2度目のバックステップで地に足が着いた瞬間、こちらに向かって射出されようとした氷塊に《飛閃》を撃ち込み、
カシャ~~ン!
氷塊を打ち砕いた。
『っ!』
目の前で氷塊が砕かれたために、氷の欠片が目に入り一瞬目を閉じてしまったフェンリルさん。目を開けたときには、目の前からサイハが姿を消していた。慌てて辺りを見渡すが、その姿を視界にとらえることは出来なかった。そして・・・
『ぐっ!』
突然、右前足に痛みが走った。そこに視線を向けると、関節の辺りに何かが突き刺さっている。それを確認したところで、今度は左後ろ足に同じく痛みが走った。攻撃を受けた場所から相手がいるだろう場所に向けて蹴りを放とうと脚を上げた瞬間、足の裏を鋭い痛みが襲った。其れでも辛うじて蹴りを放つが、当たった感触はなかった。其れどころか、今度は右後ろ足に刺さっている場所に衝撃を受けてより深く刺さる感覚がった。その痛みにより、少し体勢を崩してしまった。
当然サイハが其れを見逃すわけはなく、未だ戻し切れていない左後ろ足、右後ろ足、腹、右前足、顎と連続して攻撃を叩き込み離脱した。再びフェンリルさんの周りの温度が下がり始めたからだ。
「もうちょい削りたかったんやけどなぁ。あれ以上続けとったら凍えるし、第一スタミナが保たんか。贅沢言うたらアカンな。」
今の間に、フェンリルさんのHPを3割近く削ることに成功している。但し、周囲を覆う冷気の中、ずっと張り付いて攻撃を仕掛けていたためにサイハのHPも2割ほど減っていた。直接攻撃を喰らったわけではないが、特に冷気に対する耐性が高いわけでも無かったので其れだけのダメージとなったのだ。しかし、そのお陰でいつの間にか【冷気耐性】を習得していたのは怪我の功名と言えるか。
『・・・よもやこれほどとは思いませんでした。まさかそんな低いレベルで、神獣たる私と互角以上に闘えるとは・・・。』
「まぁレベルが総てで無いんは確かやな。さすがにレベル1であんたに張り合えるとは思わんけど、レベルも二桁になったら其れなりに対処出来るよ。まぁ勿論あんたが本気やないからやけどな。」
『気付いていましたか。』
「そりゃそうやん。今の俺が其れなりに動ける言うてもあんたが本気やったら、こっちの攻撃も通らんしそれ以前に瞬殺されるやろ。」
そう。神獣は少なくともレベル70は超えている。いくらサイハが強く、身体能力が優れていると言っても本来ならば、レベル12程度でダメージを与えることなど出来ない。手にする武器が魔剣などの特別なものならばともかく、其れなりの物とはいえ何の変哲もない刀ならば尚更だ。
『では、次の攻防で終わりにしましょうか。コレを見事凌いで見せてください。』
再びフェンリルさんの眼前に冷気が集い、氷塊が生まれ始めた。先ほどの半分程度の大きさ。だが・・・
(おいおい、其れは洒落にならんのとちゃうか?殺る気満々やん)
刀を腰溜めに構えつつ、冷や汗が頬を伝う。其れも当然だろう。目の前に展開される氷塊の大きさこそさっきの半分程度だが、その数は尋常ではなかった。50は有るだろうか、まるで氷の壁で在るかのようだ。
(ふむ。先ほどの氷塊を砕いた技をするつもりでしょうか?しかし、其れで凌げるとは思いませんが・・・。まぁどちらにしろコレで終わるのですからお手並み拝見と行きましょうか。)
フェンリルさんはサイハの構えを見て、先ほど氷塊を砕いたのと同じ技で迎撃するのかと思った。其れで凌げるほど甘くはないぞ?と・・・
しかし、サイハの構えには先ほどと若干違う所があった。その違いは大いに結果に現れることとなった。
『アオ~~~~~ン!!』
「疾っ!」
フェンリルさんの雄叫びと共に打ち出される無数の氷塊にサイハが攻撃を撃ち込む!
轟っ!
刀を振り抜いた瞬間、凄まじい空気の塊が撃ち出されて殆どの氷塊を砕きながらフェンリルさんを襲った。
『なっ!』
先程のように斬撃を飛ばすと思っていたら、圧倒的な質量を伴った空気の塊の直撃を喰らい吹き飛ばされた。
~~~~~
数瞬意識が飛んでいたようだ。若干朦朧とする頭を振りながら立ち上がる。フェンリルさんは自分のHPを確認すると驚愕した。何と、7割強ものダメージを受けていたからだ。先程の謎の攻撃で3割近くのダメージを受けたことになる。いくら試練のために自身を弱体化していたとは言え、まさかレベル12の相手にそれほど追い込まれるとは思っていなかったのだ。
(本当に何という強さでしょうか。なかなか面白い魂を感じたので試練を与えてみましたが、よもやこれほど追い込まれるとは・・・!そう言えば彼はどうなったでしょうか?)
目線を正面に向けてみれば、その先に彼・・・サイハは居た。刀を杖代わりにして辛うじて倒れないようにしているが、確かに自分の脚で立っていた。どうやら先程の攻撃も氷塊を総て砕くことは出来ず、残った氷塊を受けたようだ。そのHPは1割を切っていた。まさに満身創痍ながら自分の脚で立っていることに惜しみない賞賛を送りたい気分だ。
「はぁ・・・はぁ・・・何とか、凌いだで・・・さすがに、これ以上は・・・刀振る、元気も、無いわ。」
こんな状態でもまだ軽口を叩ける強靱な心に、気分が沸き立ってくる。
『いえ、もうそのような必要はありません。先程の宣言通りコレで私からの試練は終了です。お疲れ様でした。』
ポ~~ン!
〈神獣フェンリルより与えられた”神獣の試練”が終了しました。おめでとうございます!〉
長い闘いが、ようやく幕を閉じた。
長らくお待たせしてしまいました。コレにてフェンリルさんとの闘いは終了です。次話辺りで少し話が進むと思います。
・・・戦闘シーンってこれで大丈夫ですかね?何となくでもイメージを掴んでもらえることが出来ていれば嬉しいのですが・・・。