閑話 そのころ他のメンバーは・・・カゲミツの場合
『この紅茶美味しいですよ?この森で取れる茶葉を使ってますからね。あ、お茶受けにこのタルトもどうぞ。』
「マイペースやねフェンリルさん。おお、こりゃ旨いな。おみやにもらわれへん?」
「ウォ~~フ・・・(もうやだこの2人・・・)。」
コンコンコンコン。扉をノックする音がかすかに響く。
静寂・・・。しばし後・・・
「どちらさま?」
扉の中から、訪問者への誰何の声が飛ぶ。若い女性の声だ。しかし、あまり感情を感じさせはしない。
「おはようございます。カゲミツです。」
再び静寂・・・。しかし直ぐに
カチャリ。
鍵のはずれる音がし、扉が開き、その中から先程の声の持ち主であろう少女が姿を現した。年の頃は12~13と言うところだろうか。身長は150行かない程度、腰の近くまである美しいマリンブルーの髪を首筋で束ねた美少女が、髪と同じマリンブルーの瞳でカゲミツを見上げていた。
そう、美少女である。まごう事なき美少女。その辺に歩いている男共に聞いても、十中八九美少女と答えるだろう容姿だ。
その瞳に、愛らしい笑みでも浮かべてくれれば完璧なのだが、その感情を読みとることは出来なかった。それだけが非常に残念である。
「放っておいてください。」
地の文につっこむほどのハイスペック美少女である。
「?」
「気にしないでください。」
残念ながら、カゲミツには目の前の少女が何に突っ込んだのか解らなかったので、首を傾げるしかできなかった。
「アリア、お客様ですか?」
部屋の奥から壮年の男性らしき声が聞こえてきた。
「いえ、お客様ではなく生徒のカゲミツくんです。」
「おお、カゲミツくんですか。」
廊下を歩く音の暫し後、扉を開けて一人の男性が姿を現した。年の頃は30前後、170を超える身長に微かに緑掛かった銀の髪を背中に流した美丈夫だ。彼こそカゲミツの魔術の先生、ラクシードである。
「おはようございます、先生。」
「おはようございます、カゲミツくん。勉強は捗っていますか?」
「そうですね・・・、なんとか中級をそれほど威力を落とさずに詠唱破棄出来るようになりました。」
「そうですか。相変わらず熱心なようで嬉しいですね。ところで、今日は冒険はお休みですか?」
「はい。今日はみんなバラバラに活動してますね。」
その言葉を聞いた途端、ラクシード老の瞳が怪しく輝いた。立ち位置的にカゲミツには見えなかったが、同じくアリアの瞳も怪しく輝いていた。それはもうキュピーン!と聞こえるかと言うほどに輝いていた。
謎の寒気を感じたカゲミツは、何となくいやな予感を覚えたが何かを教えてくれるのだろうと前向きに考えることにした。
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数時間前に自分が感じた予感が見事に的中したカゲミツは、疲労困憊な様子で倒れ伏していた。それを観ているラクシード老とアリアの顔は、非常に満足げに輝いている。あの感情を感じさせないアリアですら非常に満足げに見える。3人とも、とても充実した時間を過ごしたようだ。カゲミツにしても、疲労困憊ながらその顔は満足げである。
「さすがカゲミツくんですねぇ。これだけの時間でソレをそこまで使えるようになるとは。教える側として、とても嬉しいですよ。」
いい笑顔でラクシード老が言った。間違っても「使えるようになるまでこの地獄は終わらなかっただろうなぁ・・・。」なんて事は思っていない。ああ、思っていないとも。
「ええ。さすがマスターに教えを請うだけのことはあります。」
少し頬を紅潮させたアリアもそう宣った。この2人がそろって教えるときは、ソレはもうスパルタなんて優しい言葉で済ますことが出来ないほど過激になる。
そう。ラクシード老には弟子が少ない。見つけるのが少し難しく、入門すること事態も難しいが問題は入門後にある。その柔和な見た目からは想像がつかないほどその修行は苛烈なのだ。怒鳴ったり、手を出したりするわけではない。柔和な仕草、口調のまま有無をいわさず出来るまで何時間でもやらされるのだ。故に、この国に所属しているもの達の間でもラクシード老は尊敬されると同時に恐れられてもいる。
実際、何人かのプレイヤーが入門したが現在も残っているのは、カゲミツを併せてもわずか4人しか居ない。ただし、その4人は全員が並の使い手ではない。修行が苛烈な分、見返りもまた大きいのだ。
今回カゲミツが教わり物にしたスキルは【並列思考】と【遅延呪文】。どちらもスペルキャスターにとって、非常に戦力アップに繋がるものだ。
「マスター。夕餉はどうしましょうか?」
と、唐突にアリアがそう切り出した。
「ん?おお、もうこんな時間でしたか。では今日の授業はここまでとしますか。今日は疲れたでしょうし、カゲミツくんも食べていきなさい。アリアのご飯は美味しいですよ?」
「はい・・・ご相伴に・・・与ります・・・。」
「では、3人分ですね。準備してきます。」
そう言って、若干ウキウキした感じでアリアはキッチンに向かった。
「では、我々も向かいますか。」
「・・・はぃ・・・。」
地獄を経験したわけだが、明らかに手持ちのカードが増えたことに内心飛び上がるような喜びを感じながら、現実には身体を引きずるようにして家に入って行く。今度仲間に会うときには、盛大に驚かせてやろうと心に誓いながら。
非常にお待たせしました!まさか1月以上あけてしまうとは思いませんでした・・・。
サイハの死闘の裏側の第2弾カゲミツ編です。確実に強くなってますね。その過程は主に地獄ですが・・・。
さて、とりあえず次ぎも閑話を投稿して、本編に戻ります。
・・・次は今月中に投稿できると良いなぁ・・・。