第18話 道場行って・・・的な話
「こんにちわ~。」
自分が門下生になっている道場の門を潜りながら挨拶をする。挨拶は大切だよね!でも必ず返事があるとは限らないんだよね。事実道場の中は、閑散としていて静まり返ったままだ。
「こんにちわ~。」
やはり返事はない。
「こ~んに~ちわ~。」
「喧しいわ!何度も何度もデカい声出しおって!」
中から不機嫌そうな顔を隠すこともなく1人の老人が現れた。道場主のゲンサイ老だ。
「なんや、居るんやん。返事せぇへんからアカンのやで翁?」
「・・・やはりお前さんか。来る度に喧しくしおって。何の用じゃ?」
「喧しいて単なる挨拶してるだけやん。翁がさっさと返事してりゃコッチも1回の挨拶ですむんやで?それはええとして、案山子借りるで。」
「挨拶何ぞ要らんと言っておるだろうが。誰も使っておらんから好きに使え。」
「師匠に対する礼儀やん。」
「・・・ならば師匠を敬わんか!」
「案山子借りるで~。」
翁が青筋立てて何か言ってるが華麗にスルーした。
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案山子相手に新しい刀の使い心地を確かめた。通常攻撃は勿論、4つのアーツにアーツと通常攻撃を絡めた連携などを繰り返す。1時間も振れば新しい刀も手になじんだようだ。
翁は一言も発さず、道場の縁側で横になり頬杖を突きながらそれを眺めていた。態度は不真面目だが、その眼は真剣な光を宿していた。この道場は、チュートリアル時にアーツの練習用にと仮入門にされるが、チュートリアルが終わるとほぼすべてのプレイヤーが別の道場へ入門する。その主な理由はどれだけ修練しても最初に教わる4つのアーツから増えることはなく、それがどれも地味でそれほど高威力にもならない事。そしてもう1つは、この道場主の態度だろう。こちらが案山子相手に練習していてもアドバイスするわけでもなく、寝ころんでいるか酒を呑んでいるかなので、入門しても直ぐに辞めていく。
「ふぅ。こんなモンでええか。」
「その刀はどうしたのじゃ?新しいようじゃが。」
修練がひと段落着いた時に、師匠が声をかけてきた。この師匠は、こちらが修練している最中は絶対に声をかけてこない。
「ん?そや、新しい1振りやで。狩り行く前に手になじませとこ思てな。」
「ほう。その刀の銘は?」
「まだまだ試しに打った刀に名前なんか付けへんよ。」
「・・・打ったじゃと?お前さんが打ったと言うのか?」
「まさか忘れたんとちゃうやろな?俺が鍛冶師やってこと。入門の時に言うたはずやで?俺にとって、戦闘言うんは素材の入手手段の1つやからアーツが少なぁても関係ないて。全く、これやから翁は・・・。」
「呆けて物事を忘れるほどの歳では無いわ!確認しただけじゃ!」
「あ~さよか。」
「・・・・・・・・・・。」
顔を真っ赤にして拳をプルプル震わせている。何故か判らないが、ご立腹らしい。
「さて、馴らしも済んだし狩り行ってくるわ。」
「勝手に行け!」
「ほんじゃ~。今度は酒でも持ってくるわ。」
「・・・す、好きにせい!」
「翁がツンデレても気持ち悪いわ。」
「ムキィ~!?」
何やら叫んでいる師匠の声を背に、道場を後にした。
第18話、お待たせしました。筆が遅くて申し訳ありません。
主人公は師匠のことを翁と呼んでいます。なかなかイジリ甲斐のある人物です。