第12話 初討伐・・・モグラ?的な話
野犬やウサギはノンアクティブで、滅多にリンクもしないため初心者が安心して狩れるmobです。
その後何らトラブルも起こらず、無事に南門を通過したサイハ達3人は依頼場所である農場目指して進んでいく。途中で多くのプレイヤー達が犬やウサギを狩っている。
「お~、賑わってんな!さすが初日!って感じだな!」
「確かに。」
おっかなびっくり剣を振り回している者。相手の攻撃を見事に盾でいなしている者。弓でねらい打っている者。魔法を駆使して戦っている者。パンツ1丁で見事な演武を披露している者。・・・噴水で踊っていた変態(紳士)はどうやら武踏士だったらしく、ほれぼれするような動きだ。
「・・・あの変態凄いPSだな、彼処だけ完全に別世界になってる。・・・いろんな意味で・・・。」
「なんとなくあの動き見覚え有るような気がするんやけど・・・、まぁええわ。」
「流すのかよ!」
そんな光景を横目に、農場を目指す。
~~~~~
それから10分程度進んだところにラッカさんとやらの農場はあった。
「すんませ~ん。ギルドから依頼受けて来たんですけど、ラッカさん居てます?」
住居らしき建物の扉をノックしながらそう声をかける。その時ふとある予感がして
「グランツ、ちょっとここに立ってみ?」
「?なんだよ?」
言いながらも、さっき自分が立っていた場所と入れ替わった。と、扉の奥からドドドドドッ!と凄まじい地響きがしたかと思うと、ドバンッ!と扉よはぜろ!とばかりに勢いよく開いた。そこには、場所を変わったグランツが立っていたので当然・・・
「へぶしゃ!?」
面白い悲鳴を上げて、グランツが吹っ飛ばされた!
「ああ!依頼を受けてくれたんだね!・・・?・・・!ああ!ゴメンよ!?大丈夫かい!?」
そういって建物から出てきた女性は、慌ててグランツへ謝りながら介抱しに行った。
「その男は、お笑い担当なので大丈夫ですよ。それくらいではどうという事はありません。」
「そ・・・そうなのかい?マンザイシとか言うやつなのかい?アンタたち。」
「誰が!お笑い担当だコラ!」「言わなくても判るだろうに。」
「まぁそれは置いといて。この農場のラッカさんて居てはります?」
「あ・・・あぁ。アタシがそのラッカだよ。」
「ありゃ。こりゃすんません。リディアちゃんは、この農場の主人が女性って聞いてなかったんでてっきりおっちゃんが出てくる思てたから。」
目の前の女性が農場の主人”ラッカ”さんだったらしい。農家の主人は爺ちゃんだと思いこんでいたからちょっと吃驚。不調法を謝罪した。
「いや、そんなことは別にかまわないよ。それより、さっきリディアって言ってたね?あの子が薦めてくれたのかい?」
「そうです。おすすめの依頼聞いたらその中にここのも入ってて、他のよりちょっと強めに言うてたんで受けたんですわ。これだけ期限ありやったし早よやった方がええやろ思いまして。」
「そうかい。ありがとよ、後であの子にも御礼言っとかないとね。」
リディアちゃんが料理を始めてからラッカさんと知り合い、意気投合したらしい。ラッカさんは【料理】スキルがかなり高いらしく、リディアちゃんの料理の師匠なんだとか。
「それより、現場はどんな感じなんですか?」
依頼の話に入ると、ラッカの顔が歪んだ。どうやら相当酷い状態らしい。
「・・・見てもらった方が早いね。こっちだよ。」
そう言って、奥にある扉に向かって歩きだした。自分達も立ち上がり、その後に付いていく。その扉を抜けると倉庫のようになっておりさらに奥に扉があった。その扉を開いて外にでると、驚きの光景が広がっていた。
「・・・ごらんの有様さ。」
「うお!デッカい穴凹だらけ!」
「これは・・・。」
「こりゃまた・・・想像以上やなぁ。」
目の前には大きな畑が広がっていた。ただし、大量の穴凹のある畑だった。コレではまともに作物を育てるのは無理だろう。
「モールの被害は昔から少しはあったんだ。数も少なかったし弱いからあたし達でも駆除できてたんだ。・・・その被害が大きくなり始めたのは7ヶ月ほど前だったかな。最初はモールの数が増えて、荒らされる頻度が上がったんだ。でもその辺りまではあたし達でなんとか対処出来てたんだ。」
知り合いや他の農家同士で協力してモールの駆除を行えていたらしい。モールは魔獣ではなく野獣で、それほど強くなく特に戦闘訓練をしたことのない人でも結構簡単に倒すことが出来る。ただし、少々動きが早く主に地中を移動するので駆除するのは大変だ。
「ところが、4ヶ月ほど前からモールじゃなくビッグモールが畑を荒らすようになり始めたんだ。1匹なら数人で掛かればあたし達でも何とかなった。・・・それがどんどん数が増えてきてごらんの有様さ。」
ラッカさんの話を聞きながら、俺は畑に感じた気配に向けてアルものを投げつけた。
「グウィ!?」
アルものとは、ロープの先に返し状のギザギザが付いた苦無を付けた投擲武器だ。どうやら狙い違わずヒットしたようで、喰らった魔獣が悲鳴を上げた。
「よっしゃ、ヒットした。釣り上げるから頼むわ。」
言いながらロープを引っ張りあげる。返しのお陰で、抜けることなく釣りの如く空中に引っ張りあげられるビッグモール。
「なら先ずは焼くか。《ファイヤーボルト》!」
すかさずカゲミツが火属性の初期アーツを喰らわせた。
「グワゥ!?」
キャラレベルは低いが引き継いだ高いスキルのお陰か、初期アーツにも関わらずビッグモールのHPの4割強を削り取った。ちなみに、火属性はモールなんかの野獣系の弱点属性であり、ビッグモールの弱点も同じくである。最初の俺の投擲で5%程、釣り上げるときに5%程与えていたので、残りは半分弱になっている。
「ならとどめは俺がもらうぜぇ!喰らいやがれ!《パワースラッシュ》!」
「・・・!!」
グランツの放った両手剣の初期アーツ《パワースラッシュ》の直撃を喰らい、断末魔をあげる暇もなくビッグモールは光になって消え去った。
〈只今の経験により、レベルが1上がりました!BP2、SKP1入手しました!〉
1匹倒しただけでレベルが1あがった。さすがにレベル1で相手にするような奴じゃないだけはあるな。
「おお!レベルアップだぜ!」「僕もだ。流石にEXP高いな。」
2人も同じく上がったようだ。当然だわな。
ラッカさんは、突然の戦闘シーンに驚いたようで、しばし呆然となっている。
「お・・・驚いたね。あたし達じゃどうも出来なかった魔獣をこんなあっさりと倒しちまうなんて!流石冒険者って奴だね!」
すぐに復帰して興奮したように叫びだした。
「そりゃ一応本職やしなぁ、一般の人等が手を出せん奴を狩るのが仕事の一つやし。」
「そりゃそうだろうけど、前にきた冒険者達はそんなに手際良くなかったよ。」
「まぁ冒険者言うても、仕事の向き不向きあるしな。・・・それより、これからが本番やからラッカさんは家入っといて。ちっと危なくなるかも知れんから。」
「判った!あんた達も無茶するんじゃないよ!」
そう言ってすぐに家の中に避難してくれた。これで安心して暴れられる。
「俺たちの仕事はたいがい無茶するもんだがな!」
「無茶と無謀は違うぞ?脳筋。」「脳筋言うな!」
「グランツイジりは後にしとき。こっからが本番やで。」
「了解だ。」「後でもイジるな!」
「これは、この依頼今日中に終われそうやな。・・・来るで!」
対ビッグモール戦の火蓋が切って落とされた!
この世界に降り立って、初の戦闘シーンでした。
ビッグモールは、本来ならレベル1が3人で簡単に倒せるようなmobではなく、少なくともレベル5が4人は欲しいような相手です。主人公のサイハ以外の2人もβテスト時代に15位以内に入っていた上位陣のため、PSが高いです。