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6:トリップ世界のハート・ロッカー

 そうして気が付けば、灰色の土地が続く酷く殺風景な世界に居た。

 見渡す限りなにもない、どこまでも灰色一色だ。だがその地面が規則正しくマス目わけされているあたり、やはりここはなにかしらの世界なのだろう。

 少なくとも、俺が生前過ごしていた場所ではない。


 例えるならば、方眼紙の上に立たされている。そんな感じだ。


 身形を確認すれば、衣服は何も変わっていないがベルトにピッケルと数本の旗が刺さっていた。

 今一つピンとこないが、それでもピッケルを手に取って眺めてみる。

 あちこちに使い込まれた傷が残っているが、手入れはきちんとされているようだ。鋭利さも失われていな い。


 道具としては十分に使えるだろう。

 武器としても申し分ない。


 だが爆弾処理には……?


「いったいどうしろってんだ?」


 用途の分からないピッケルを再びベルトに戻し、俺は首を傾げながら周囲を見回した。

 方眼紙の世界は相変わらず何もなく、ピッケルを使って登るような山もなければ砕く岩一つない。


「こんなゲーム聞いたことないぞ」


 灰色の世界でピッケルを振り回し、旗を立てる。

 そんなゲーム聞いたことが無いし、面白いとは思えない。仮にあったとすればクソゲーもいいとこ、開発者の神経を疑いかねない。

 だが今俺が居る世界は間違いなく灰色一色で、変わったところと言えばマス目分けされているぐらいだ。

 なにかしらのイベントが起こる気配もなければ、敵も味方も現れそうにない。当然だが、処理すべき爆弾も見当たらない。


 いったい何をすればいいのか。

 例えば、一定のマスを踏めば仕掛けが発動するとか?

 それともまずはここから脱出するべきなのだろうか。灰色の世界を抜け、辿り着いた先に爆弾があるのか?


「ったく、せめてヒントの一つくらい寄越せよな……」


 自称神様に文句を言いながら、仕方なくその場に座り込む。

 そうして半ば八つ当たりのようにピッケルで地面を軽く叩けば、カツン!と威勢のいい音がして地面にヒビが入った。


 あれ、今俺そんなに強く叩いてないよな?

 案外に脆いのか?


 試しにともう一度ピッケルで地面を叩けば、やはりカツカツと音がして叩いた箇所が崩れていく。

 これは掘り進んで地下にいけということなのだろうか?

 だがあの自称神様が言っていたのは爆弾処理だ、決して酸素カプセルを取りながらブロックを掘り進んでゴールを目指すゲームではないはず。


 ならばこれは掘り進んでいいものなのか?

 安易に掘り続けたら足場が崩れて……なんてことになってみろ、地下がどれ程あるか分からないが、最悪そのまま死……


 ……死んでも良いんだよな。

 どうせ元の場所に戻るだけだし。


「考えてても時間の無駄だ、とりあえず掘ってみるか!」


 よし!と袖まくりをして気合を入れ直し、俺はピッケルを大きく振りかぶって地面を叩いた。


 カァン!!


 と甲高い音が響き、小石が飛ぶ。

 やはり地面は脆いようで、灰色の世界は俺が叩いた箇所を中心に 小さなクレーターが出来ていた。

 よし、もういっちょいくか。

 そうして再びピッケルを振り上げた俺は、ふと地面に青いナニカを見つけて手を止めた。この灰色の世界に、青は一際目立つ。


 いったいなんだと小さな小石を払いのければ、そこには青文字で1とだけ書かれていた。


 1だ。

 本当に、たった一文字、1とだけ書かれている。


 これが何かしらの、それこそこの世界が何のゲー ムか判断する重大なヒントになるのは分かっているのだが、いかんせん検討がつかない。

 しばらく悩んでいたが埒が明かず、俺は試しにと隣のマス目へと移動した。

 ここにも1と書かれているのだろうか。

 いや、もしかしたら別の文字が書かれているかもしれない。

 マス目ごとに書いてある文字が違うのなら、繋げれば一つの言葉になるのだろうか。それが爆弾を停止するパスワードになっているのか……?


 色々と憶測を立ててつつも、俺は再びピッケルを振り上げた。


 カァン!!


 と、灰色の世界に再び甲高い音が響く。

 そうして幾度か地面を叩いたのち、崩れていく地面から今度は赤い色が見え、俺は慌てて転がる小石を払いのけた。


 ……3だ。

 数字の、3。


 それが何を意味するのか。

 この、灰色のマス目に隠された数字が、用意されたピッケルが、旗が、いったい俺に何をしろと訴えているのか。

 そう、例えば


 灰色のマスをピッケルで掘って、そこに隠された数字をもとに、周囲に埋まっている爆弾を見つけだせ……とか。



 はい、マインス〇ーパーですありがとうございます。



「……なんなの、あの神様バカなの?」


 最早怒鳴る気力もなくなり、俺は思わず地面にしゃがみこんでしまった。

 そりゃゲームブックからは進歩したかもしれない。あれから考えれば大分マシなのかもしれない。

 なにせパソコンゲームだ、デジタルだ。インストールもなにもなく最初から入ってるけど。


 だがいったいどこの世界にマイン〇イーパーの世界にトリップさせる神様がいる!?

 いや、確かにいるんだけど!

 いるからこそ、今俺がここにいるんだけど!!


「駄目だ、色々と考えると泣けてくる。とっとと クリアしてあの自称神様を殴ろう」


 決意を新たに、俺は灰色の地面へと視線を向けた。

 開いた数字は1と3、このゲームの仕組みから考えると、1の周囲8マスには爆弾が一つ、3の周囲には三つ隠されている。

 だがそれだけではまだ爆弾の場所を特定することは出来ない。情報が少なすぎる。

 せめてあと数か所。そうだ、このゲームは特定のマスを開けば、周囲も連動して開いたりするはず……。

 上手いこと一角を開ければ、後はとんとん拍子でゲームが進む。


 そう考え、俺は適当な場所に狙いを定めてピッケルを振り上げ……



 地面を叩いた瞬間、真っ白な光に意識を失った。



 序盤で爆弾堀当てた時の、あの虚しさといったらない。




 そうして案の定もとの場所に戻り、俺は目の前で横になっている自称神様を眺めていた。

 ピクリとも動かない。が、死なないのだから大丈夫だろう。


 何があったのかと言えば、話は数十分ほど前に遡る。

 どうやらプリンを作っていた自称神様は油断しきっていたのか、俺が戻ってきたことにも気付いていないようだった。

 そんな隙だらけな自称神様の背後にそっと近付き、振り返った瞬間を狙って顔面を鷲掴みにしてやったのだ。

 自分で言うのもなんだが、なんとも見事なアイアンクロー。

 それを受けた自称神様は驚いて、「びゃっ!」という間抜けな悲鳴と共に気絶した……と。こういうことだ。


 つまり、不意打ち過ぎたらしい。

 というか、神様としてそのメンタルの弱さは大丈夫なのか?


 試しにと肩を叩いてみてもピクリともしない。名前を呼んでみようにもこいつの名前を知らない。

 つまりやることなしだ、ならばせめて……


「日頃あれだけ迷惑をかけられてるんだ、パンツでも見てやろうか」


 そんなふしだらなことを考えたとき、――危機を察したのか――自称神様が小さく唸りをあげて身動ぎしだした。

 どうやら意識を取り戻したらしいが、なにかブツブツと呟いているのは意識が混濁しているのか。


「あなたが落としたのは銀の斧……金の斧…… そ、それとも……私の意識!?」


 ガバッ!と自称神様が跳ね起きた。


「おい、なんだよ今の」

「はっ! 六郎君いつのまに!?」

「いつの間にも何もお前を……いや、なんでもない。ただいま」

「おかえりー。あまりに早かったから気付かなかったよ。凄いね!」

「あぁ、三マス目で爆弾叩いたからな」

「……ゴクロウサマデス」


 何かを察したのか、自称神様が露骨に視線をそらす。

 なんだよ、何が言いたい。

 どうせ引きが悪いだの運が悪いだのと言いたいんだろう。

 分かってるさ、お前みたいな駄目神様を引いた俺に運などあるわけがない。


 だがそれを認めるのも癪で、俺は今回のトリップについては深く責めずにさっさと次へと話を進めた。

 ……正直に言えば、気絶させてしまった手前さらに責めるのは流石に良心が痛むのだ。

 見た目だけなら、本当に『見た目だけ』なら自称神様は可愛らしい女の子で、そんな彼女を気絶させたというのは男として居心地が悪い。

 おまけに、前回の流れでちゃんとプリンまで用意されているのだから、今回ぐらい水に流してやっても良いだろう。


「それで、次のゲーム世界はどこだ?」

「んっとね、今回は流行を取り入れようと思って」

「流行?」

「そもそも、六郎君に『チートでハーレムなゲーム世界にトリップ!』って言ったのに、最近ハーレム要素なかったでしょ?」

「チート要素も無かったように思えるけどな。もっと言えば、そのどれ一つも達成してないけど」

「……ふぐぅ」


 痛いところを突かれたのか、自称神様が胸元を抑えて唸る。

 どうやらグサッといったようだ。

 だがすぐさま自信を取り戻したようで

「今度こそは大丈夫だよ!」

 と胸を張った。この回復力には見習うものがある。


「今度は完璧! なんてったって流行のゲームだからね!」

「へぇ、そいつは楽しみだ」

「止めてよその棒読み……いいもん、いっぱい女の子がいる世界で、六郎君きっと私に感謝するから!」

「はいはい、頑張りますよ」


 仕方ねぇなぁ、と応じてやると――というか、応じるしかないのだが――自称神様が少し不満そうな表情で俺を見送ろうとした。

 ……が、その前に。


「なぁ」

「うん?」

「行く前にもう一個プリン食っていいか?」


 実を言うと、こいつの作ったプリンは案外に美味しかった。

 どうせ次のゲーム世界も碌なことにならないのだから、食べていったところで然程のタイムロスにもならないだろう。

 そう伝えれば、美味しいと褒められたことが嬉しかったのか自称神様は一瞬にして表情を明るくさせ、どこにあるのか分からないが『台所』へといそいそと向かっていった。


 


 二つ目のプリンを食べ終えた俺の意識が白んでいくのは、それからだいたい十分後くらいのこと。

 あいにくと時計もなく、聞けば時間という概念のないこの場所ではどれだけ経ったかわからないし、プリンのついでにお茶を飲んでいたので大分かかってしまった。



 まぁ良いさ、次の世界に行ったって、どうせここに戻ってくるんだから。





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