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2:トリップ先で大冒険


 仲間と力を合わせて、お姫様を救うための大冒険。

 いささか王道すぎではあるものの、なかなかどうして心惹かれるストーリーではないか。

 そんなことを考えながら、俺はゆっくりと取り戻しつつある意識で周囲の様子を伺った。


 明るい。それを確認して安堵の溜息をもらす。

 ひとまずここはテ〇リスの世界ではないようだ。


 となればここはどんなゲーム世界だ……?


 周囲の様子から屋外、広大とは言えないがそれなりに自然がある。

 草木が生え空には太陽が輝いている。吹き抜ける風が心地よく、ゲームのBGMなのかどこかから陽気な音楽が聞こえてきた。

 ひとまず危険はないだろう。そう判断し、俺は周囲を見回しながら散策するために歩き出した。


「ここも変なゲーム世界だったらタダじゃおかないからな……」


 そうブツブツと呟きながら、当てもなく真っ直ぐに道を進む。

 なにせ一本道なのだ。曲がり角も分かれ道もなく幸い迷うことはないが、こうも当てもなく目印もなければ次第に歩き続けることに飽きてしまう。

 なんていうか、暇だな……。

 せっかくのゲーム世界なんだから、それなりにアクシデントぐらいあってもいいのに。


 そんなことを暢気に考えながら歩き続けていると、ふと進んだ先にブロックが詰まれているのが見えた。

 こんな自然の中にブロックとは些か不自然ではあるが、あくまでここはゲーム世界、俺にとっては異世界なのだから多少の不自然は許容しよう。

 そう考え、ひとまずブロック下まで歩い近付いてみる。面白いくらいに普通のブロックだ、茶色い、どこにでもある煉瓦の組み合わせ。


「なんだろ、家でも作る途中だったのかな。いや、でも案外に軽いぞ」


 拳をあげて叩いてみると、コンコンと軽い音が返ってくる。

 これならば俺でも壊せそうだ。もちろんだが建築には向いていない。せいぜい子供の遊具か、それでも脆さから最適ではない。

 となれば、これはまるで壊せと言っているようなものだ。

 ブロックを壊してアイテムを得るのはアクションゲームではお馴染みのこと、勇者が民家に入り込んでツボを割るのと同じだ。

 試しにと一つ力を入れて殴ってみると、俺の予想通り案外にあっさりとブロックが割れた。

 そしてその代わりに出てきたのが、一枚のコイン。


 チャリン♪


 と軽やかな音を立てて、一度跳ね上がると空気中に消えていった。

 なるほど、これがコインゲットなのか。

 こうやってコインを集めつつ、お姫様を救うわけか。なるほど納得、納得……



 ゲ ー ム 世 界 っ て こ う い う こ と じ ゃ あ り ま せ ん



「あの駄神、また妙なゲーム世界にトリップさせやがったな……」


 戻ったらどんな目に合わせてやろうか……、そんなことを考えつつ拳を握り、湧き上がる怒りをブロックにぶつけた。

 激しい音がしてブロックが割れる。チャリン♪という小気味よい金属音が今は妙に癇に障った。

 間違いなくゲーム世界。なるほど、そう考えれば別れ道も何もないこの一本道もアクションゲームならでは。


 

 驚きの自由度の低さじゃないか。

 


「あの野郎……っていうか、これがゲームならそろそろ敵が出てきても良いよな」


 そう考え、周囲を伺う。

 横スクロールアクションなら、前方か後方――画面で言うところの左右――から敵が表れて近付いてくるはずだ。

 これがゲームの最初のステージなら猶更。突然空から降ちてきたり画面外から猛スピードなんてこともないだろう。

 ならばと身構えながら進むと、案の定前方に何かの影が現れた。

 遠目すぎて詳細は見えないが、それは確かにゆっくりとこちらに近付いている。随分と遅い足取りなあたり、やはり初級の敵で間違いないだろう。


 はたして、殴って倒すのか

 それとも魔法か何か使うのだろうか

 勝てない敵に逃げなくてはいけないゲームもある

 いや、コインを集めるのならそれで武器を買って戦うのか……。


 とにかく、ここがどういうゲーム世界なのか分からない以上、最適な攻撃方法も分かるわけがない。

 ひとまず相手を見極め、無理と判断したら逃げるのも得策か……と、横スクロールでどうやって逃げるのかという疑問を抱きつつ作戦を練る。

 そうして俺が構えていると、前方の敵はゆっくりと、急ぐでもなくまるで焦らすような堂々たる歩みでこちらに近付いてきた。

 そして姿を現したのは…… 



 カメです。


 

 ミドリ亀です。


 

 スーパーマ〇オです本当にありがとうございました。




 あぁ、もちろん思いっきり踏みつぶしたよ!

 ついでに中身が抜けた甲羅も思いっきり蹴っ飛ばしたとも!!

 それを受けたク〇ボーらしき物体が吹っ飛んでいったよ!!



「あの駄神! 泣かす! 女だろうと容赦なく泣かす!!」


 どこにというわけでもないが、とりあえず天に向かって中指を突き立ててみる。

 随分と不謹慎な行為ではあるが、そりゃ誰だってこうなるだろう。怒るのも仕方ない。


 そりゃ大冒険だけど。

 古典でありながら今もなお人気のある大冒険だけど。

 囚われたお姫様を救う大冒険だけど!!


「誰がゲーム世界でまで配管工になるかぁ!!」


 そう喚く俺の背後に、ドシン!と何かが勢いよくぶつかってきた。


「ぐぇ……な、なんだよ」


 スーパー〇リオの初期にこんな特攻をしてくる敵はいただろうか?

 そんな考えと共に俺が咳き込みながら振り返れば、そこに居たには緑色の恐竜。

 背丈なら俺より幾分大きいくらい。乗って動くには適したサイズだ。

 愛嬌のある顔つきに、人懐こい瞳。


 そう、ヨッ〇ーである。


 というか、リアルで見ると結構怖い。


「うわ、これはちょっと引くな」


 目の前に立つ恐竜のあまりの生々しさに僅かに後退りすると、ヨッ〇ーがそれに合わせて一歩近づいてくる。

 一歩引けば、一歩近付かれる。一向に縮まらない距離。

 それどころか歩幅では向こうに若干の利があるようで、ヨッ〇ーの顔がどんどんと目の前に迫ってくる。

 何かを求めるような円らな瞳。それが俺を真っ直ぐに射抜く……。


 これは、乗ってくれということなのだろうか?

 確かに、このゲームにおいて彼は移動用キャラクターとしてお馴染みだ。

 

「な、なら失礼して……」


 そう、恐る恐る顔色を――黄緑色の顔色を――伺うように、ゆっくりとその体に跨った。

 ひんやりとした爬虫類独特の冷たさが俺の太ももに伝う。なんというか、こういう生々しさは遠慮したいところだ。

 だが案外に安定しているもので、両足が地面から離れてもずり落ちるようなことはない。あいにくと乗馬の経験はないが、あれと似ているかそれ以上の乗り心地だろう。

 うむ、悪くない。

 そんなことを考えながら、俺は目の前のヨッ〇ーの頭を軽くなでた。


 ポン!!


 と、背後で軽い音がしたのはその時だ。

 それに疑問を感じて振り返れば、そこにあったのは一つの……卵。

 白地に黄緑色の水玉模様。それがコロンと地面に転がっている。

 これは見覚えがある……多分、いや、間違いなく……。



 産んだ。



「あの……なぜ、今このタイミングで産卵を……?」


 恐る恐る尋ね、ヨッ〇ーの顔を覗き込む。

 そうすれば彼は――多分、彼は――つぶらな瞳でこちらを見つめ返し、ポゥ…とその黄緑色の頬を赤く変色させた。

 いやはや、さすが爬虫類。肌の色を変えるなんて器用だなぁ。

 ……本当…………。


 ポン!


 と、また卵が勢いよく弾き出された。




 メスです本当にありがry




「ハーレム!? これがハーレムってことか!?」


 どういうことだ!と空に向かって怒鳴る。が、勿論だが返事はない。

 だがこれはあの自称神様的に言わせればラブイベントなのだろう。献身的な女の子、もといメスに好かれるという理想のシチュエーション。

 わぁい、俺ってば女の子に跨ってる!エロいな、これはR-15指定かけておけばよかった!!


「なんて言うか! 戻ったら覚えてやがれ!!」


 ギャーギャーと喚く俺の視界の隅に、またも何かが映り込んだ。

 それは緑色の、俺よりも背の高い男……。スーパー〇リオの緑と言えばもちろん例の弟なわけで……。

 彼は楽しそうにこちらに手を振りながら、パタパタと駆け寄って

「待ってよー! おにいちゃーん!!」

 と、可愛らしい声をあげてきた。


 今回ばかりは、ハーレム補正で男の娘なようだ……。



「冗談じゃない!!」


 そんな悲しいハーレムに俺は眩暈を覚えつつ、勢いよくヨッ〇ーの脇腹を蹴った。

 もちろん加速のためであり、その瞬間に駆け出すヨッ〇ーの速さと言ったらない。危うく振り落されるところだった。

 だが俺はしぶとくしがみつき、なんとかそのままゴールまで走らせる。

 途中にあった土管やキノコなんて全て無視して、空からゆっくりと降りてくる星も見なかったことにした。

 


 そうして最後に、俺は高台から一本の旗に飛び乗り、棒にしがみついてスルスルと降りていく。



「せめてなろう読者の年代を考えろ……」



 そんなことを呟きながら目の前の城へと入れば、どこか遠くで花火のあがる音が聞こえてきた。





「で、なにか、言いたいことは?」


 自称神様を踏み潰しながら、威圧的な声で尋ねる。

 足元では自称神様がじたばたともがいているのだが、あいにくと容易に抜けられるほど俺は優しくない。

 むしろ「暴れるな」と踵でグリと踏みつければ「びゃ!」と悲鳴があがった。


「酷いよぅ六郎君酷いよぅ……」

「うるさい、黙れ」

「女の子にこんなことするなんてあんまりだよぅ、そりゃちょっと理想と違ったかもしれないけどさ」

「ちょっとどころか掛け離れていましたが?」

「お姫様を救う大冒険じゃん、仲間もいたじゃん、なにが不満なのさ!?」

「両足で踏まれたいか?」

「ごめんなさい!!」


 びゃー!と悲鳴を上げながら謝罪の言葉を叫ぶ自称神様に、俺は仕方なく踏みつけていた足を離してやった。

 俺の足元から必死に這い出る姿のなんと情けないことか、てとうてい神様とは思えない。おまけに今回も涙目だ。


 だがしばらくすると身形を整え、何かしら自信を取り戻したのか改めて胸をはった。


「ふむ、どうやら不満のようだな。では次のゲーム世界の望みを言うがいい」

「まだ踏まれたりないか?」

「ごめんなさい、今回なにが駄目だったんでしょうか? どうか教えてください」


 弱いなこいつ、本当に神様なのか……。

 そんな疑いを抱きつつ、それでも次のリクエストを考えてみる。

 正直に言えば、こんな茶番はすぐにでもやめにしたかった。目の前の自称神様は向上心こそあるようだが、どうにもそれが現実に伴っていない。

 だが一度死んだ身なので「トリップを辞める」と言い出すのも不安があった。辞退したその後に何がある……?考えるのはまだ少し怖い。


「そうだな、まず今回は何が……っていうか、全体的に駄目だ」

「なぜに?」

「ゲーム世界だぞ? どうしてゲーム世界に行ってまで配管工なんだよ、職に就くならもっと珍しいのがいい」

「珍しい……」


 ふむ、と自称神様が小さく呟く。

 だが事実だ。ゲーム世界へのトリップといえば特殊なジョブがお馴染みだろう。勇者・賢者・時に魔王、最近は役に立たなさそうな職で活躍するのも少なくない。

 とにかく、せっかくゲーム世界に行くなら特殊な職だ。誰もが「えぇ!?」と思うような職で無双する。これに限る。

 そう伝えれば、自称神様はうんうんと頷いたのち「分かった!」と嬉しそうに顔をあげた。


「分かった! 分かったよ六郎君!」

「そうかそうか、良かったな」

「やめようかその棒読み。というか今回は本当に六郎君の理想通りだよ!」

「……へぇ?」

「獣を操る職でピンチを救う!」

「獣……」


 そう言われ、ちょっとだが俺の胸が弾む。

 獣を操るということは獣使いだろうか。誰も操れないドラゴンや狂暴なモンスターを操り戦う……なるほど、特殊だしかっこいい。


「ふぅん、悪くはないな」

「でしょ! それじゃ行ってみようか!」


 さぁ!と嬉しそうに片手をあげる自称神様に、俺は今一つ上がり切れないテンションで、それでも彼女の言い分に応えるように頷いた。

 そうして、今回もまた意識が白んでいく。

 もちろん、薄れゆく意識の中で


 「次もヘマしたら覚えてろよ……」


 と、脅すことは忘れなかった。




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