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1:最初のトリップ

 そうして再び意識を取り戻した俺は、見覚えのない場所に立っていた。

 先程の眩いほど白い世界とは違う。どちらかと言えば薄暗く、周囲には色とりどりのブロックが詰まれている。

 どこかの倉庫だろうか?

 だが変な話だ、あの自称神様を信じるのであれば俺はゲームの世界にチート能力を持ってトリップしたはずだ。


 だが今一つ、そういった感覚はしない。

 特に体が軽いわけでもないし、身体的な変化も感じられない。当然だが内に秘めた能力なんてものも無い。

 それどころか、若干の動きにくさを感じていた。


「む、なんだこれ……チートどころか身体が硬いぞ」


 直立不動、まさにそれだ。

 まるで何かに体中を挟まれているような動きにくさに俺が小さく首を傾げると、おかしな音楽が鳴り響いた。


 なんというか、最近のゲームとは考えられない単調な音楽だ。

 でもこれはどこかで聞いたことがあるような……と俺が必死になって記憶をひっくり返していると、ズシン…と轟音がして地面が揺れた。


「うわ、わ、なんだ!?」


 突然のことに驚きつつもなんとか立て直し、周囲を見回す。

 だがこれといって変わったことはない。周囲には相変わらずブロックが山になっており、人の姿も気配もない。

 それにしても変な形のブロックだ。それぞれ形や置き方が違うため変に隙間が出来ている。これを詰んだ人は随分と雑な性格だったのだろう。

 いや、今はそんな雑な性格だろう関係ない、とにかく誰か人を探さなくては……。

 そう考えて歩き出そうとした瞬間、またズシン……と地面が揺れた。


「なんだよ……なんか落っこちてきたのか?」


 重いものが地面に落ちる。そんな音だ。

 だが見回せど異変はなく、俺はどうしたものかと眉間にしわを寄せ……



「貴方って真っ直ぐで素敵な人ね」



 と、背後から聞こえてきた甘い声に驚いて振り返った。

 だがどういうわけか、振り返った先には誰もいない。あるのは四角いブロックだけだ。

 おかしいな、こんな近くにあっただろうか……色も派手な黄色をしているし、あれば気付いているはずなんだけど。


「なんか変だな。これがゲームトリップゆえの異変ってやつか?」

「ねぇ、無視しないで。背が高くて、真っ直ぐで、みんなあなたのこと待ってるのよ」

「また!! ど、どこにいるんだ!?」

「ここよ、ここ!」


 再び聞こえてきた声に、俺は慌てて周囲を見回す。

 だがやはり女性の姿はない。声から察するに若い少女、それもセオリーで言うなら美少女のはずなのに、その姿がないとはどういうことか。

 くそ、やっぱりあの自称神様が何かとちったのか……見えない美少女なんて誰が喜ぶのか。


「姿を見せてよ。俺、君のこと見えないんだ」

「んもう、見えてくるくせに。あ、もう貴方の番だわ」

「へ? 俺の番? ちょ、待って、俺なにすればいいの!? どういうこと!?」


 わけが分からない!と訴える俺に対し、姿の見えない声の主は「縁があったら下で会いましょ」とあっさりと別れの言葉を告げた。




「なぁ、下ってどこ……うわ!?」


 わけの分からない話に俺が疑問符を頭上に浮かばせていると、突然足元がガクンと揺れた。

 そうして、俺の立っていた一角だけが徐々に下がっていく。落下というほど早くもなく、ガクンガクンとぎこちない動き。

 まるで舞台装置だ。それも、このぎこちなさは古い舞台のちゃちな装置。

 これが、あの声の主が行っていた「下」に行くということなのだろうか……。

 そう考えた俺は、足元から声が聞こえてくることに気付いた。


「早く来て」とか「待ってるわ」とか……。


 その声はどれもが可愛い女の子の声そのもので、こんな異常事態だというのに俺の胸が期待に湧いた。

 そう、ハーレムだ。

 話の流れが今一つ分からないが、異世界トリップなら最初は大体そうだろう。追々話の筋を追っていけばいいのだ、ゲーム世界なら猶更。

 つまり、今の俺はこの状況を理解するよりもまず女の子。

 俺を待っている、そして俺を慕ってくれる、『下』に居るまだ見ぬ美少女達……!



 そう考え、俺が期待に胸を躍らせ下の景色を覗き込めば、そこには多種多様な美少女達の姿が……無く、無数のブロックが綺麗に敷き詰められていた。


 おかしい、美少女はどこだ?

 俺を急かすツンデレ美少女は、俺に会うことを待ち望んでいた大和撫子は?

 だがどれだけ見ても美少女のびの字はおろか人の姿もなく、相変わらずブロックだけが詰まれている


 赤・ピンク・紫・青、そして先程俺の足元にあったものと同じ黄色。

 形はそれぞれだが、赤は凸型、ピンクはエル字型、黄色は四角……と一定の決まりはあるようだ。

 上と違うことと言えば、それらが綺麗に敷き詰められていることくらいか。一番右端、縦一列だけ空いているのは何か理由があるのかもしれない。


 しかし、形も様々なブロックをこうも積みあげるとは見事なものだ。

 だが俺だってこういうのは得意だ。自慢じゃないが、とあるゲームでは負け知らずだった。



 そう、画面上から降りてくるブロックを横一列に積んで消す…………。



 テト○スです本当にありがとうございました。



「あのバカ神が!!」


 ことの真相が分かり、俺は怒りの矛先をどこに向けていいのか分からずひとまず吠えた。

 そうだ、これはテト○スの世界だ。昔懐かしの落ちものゲーム、ブロックを器用に積んでいく、携帯型から据置まで長く愛される定番ゲーム。


 俺はその世界にブロックとしてトリップしてしまったのだ。というか世界もクソもあるか!!


「あれか! 俺は長い棒か!! 何がチートだ、使い勝手がいいだけじゃねぇか!!」


 詐欺だ!!と訴えたところで、下がる動きは止まらない。

 これはつまり、俺というブロックが画面上から現れて、今まさに右に空いた縦一列に入ろうとしているのだ。

 あぁ、そりゃ気持ちよく消えるだろうな。見事に揃えたもんだ。確かに長い棒で一気に消すのは気持ちいよな、ちくしょう!!


「早く来てー!」

「待ってるわー!」


 可愛い美少女の声だが、それにはもう騙されない!

 あれだろ、どうせピンクとか赤のブロックなんだろ。そう考えれば、先程うえで俺に話しかけてきた姿なき声の主の正体も分かる。


  黄 色 い ブ ロ ッ ク だ よ ち く し ょ う


「あぁもう誰がこんなゲームトリップして喜ぶんだよ、つうかトリップしてすぐに消えるじゃねぇか」

「きゃー、素敵ー! 真っ直ぐで男らしいー!」

「うるせぇ、凸型ブロック!」

「ったく、本当にお前はモテて羨ましいよなぁ」

「ブロックに嫉妬されても嬉しくねぇよ! つか、それならお前は乙型やめろ! 使いにくいんだよ!」

「べ、別にあんたと一緒に消えて嬉しいわけじゃないんだからね!」

「俺のツンデレ像を崩さないでくれるかなエル字ブロック! っていうか、あ、まずい着地する……」



 トスン、と俺の脚が地面についた瞬間


 眩い光につつまれ、また意識が白んでいった。





「どこの世界にテト○スにトリップされて喜ぶ奴がいる!!」

「びゃー、暴力反対暴力反対!!」


 白んだ意識が戻ったと思えば、再び自称神様が目の前に居たので、とりあえずアイアンクローをかまして今に至る。

 そりゃもう、事態を確認するより先に手が出てしまった。おかしい、女性はおろか同性にすら手をあげたことのない平和主義なのに……。

 だがあんな目にあえば手も出るというもので、俺は自称神様の顔面を鷲掴みにする指に更に力を入れた。


「頭蓋骨がピシって言った! 死ぬ!」

「神様って死ぬのか?」

「いや、死なない」

「よし、なら存分にくらえ!」

「びゃぁー!!」


 わたわたと逃れようとする自称神様に、俺は最後の一撃とばかりに満身の力を入れてやった。

 その瞬間に「びゃ!!」と悲鳴があがったが、まぁ良いだろう。死なないらしいし。


「酷いよ六郎君、ゲームの世界にトリップさせてあげたのに……」

「そのゲームが問題なんだ。落ちものゲームってなんだよ、凄い速さで第二の人生終わったじゃねぇか」

「ならどんなゲームがいいのさ?」


 こめかみを擦りながら、自称神様が俺を見上げてきた。

 よっぽど俺のアイアンクローがきいたのか、若干涙目になっている。可愛い、なんて思ってしまったが、すぐさま脳内で否定した。

 見た目だけだ、こいつは見た目だけだ、内面は人をテト○ス世界にブロックとしてトリップさせるような奴だ。まともなわけがない。

 ぶんぶんと首を横に振り自分自身の血迷った考えを打消し、俺は改めるようにコホンと咳払いした。


「普通ゲーム世界にトリップっていったらファンタジーが王道だろ。冒険だよ、冒険」

「冒険かぁ」

「そう。危険な冒険をチート能力使いつつ進んで、お姫様を助けるんだよ」


 いささか古典的ではあるが、それでも誰もが憧れる王道ストーリーだ。

 勇者と姫、それをサポートする仲間たち。友情と努力そして勝利。最近だと努力の部分にチートが入るようだが。


「仲間と冒険してお姫様……おぉ、そういうことか! 分かった!!」


 ポン!と手を叩いて、自称神様が表情を明るくさせた。

 どうやら俺の説明が通じたらしい。


「そういうことなら早く言ってよ。とっておきの世界に行かせてあげるから!」

「本当だろうな……」

「まかせて! 仲間と共に囚われのお姫様を救う大冒険!」

「む、今回は期待できそうだな。よし、行っててやろう」



「そういうわけで、行ってらっしゃい!」



そんな陽気な声と共に、俺の意識が薄らいでいった。



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