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(3)

早く更新するとか言いつつも全然更新してないですね。すいません。

新年度から本格的に投稿を始めたいと思います。

たびたびすいません。


 4月25日。

 もはや通例となっているホームルームでのカズとハヤっちゃんの雑談も、いつも通りカズが怒られるだけで平和的(?) に終わり、午前の授業を終えた巧は教室で一息ついていた。昨日も母に頼まれたお使いの後、結局深夜まで荷造りを手伝わせられて巧は疲れきっていた。そのせいで今は昼休みにもかかわらず、昼食を取ろうともしないで机に伏せていた。

 そうしていると、ふと、頭によぎることがあった。昨日見た不可思議な現象は、一体なんだったのだろうか?

 昨日は、あれから忙しくて忘れていたが、結局、煙から出てきた悪魔や天使みたいなものは何だったのだろう?やはり幻覚だったのだろうか?それにしては生々しかった気もするが……。やっぱり実際に天使だったのだろうか?もう止まっているが、幻覚の天使に切られた頬は血が出ていた。幻覚ではなかったのだろうか?もし天使などがいるならば神はどうなのだろうか?

 だけれども、どんなに考えたって分かるわけもなく、巧は断念した。

 すると、隣から声が聞こえてきた。

「返事がない。ただの屍のようだ。………まだ無視だよ。どんなエロいこと妄想してんだか。……返事がない。夢の世界へ旅立ってしまったようだ」

「それ、両方とも死んじゃってるから」

 巧はそう返答した。多分、熟考していてカズの声が聞こえなかったのだろう。それでカズがそのことを面白おかしく言い、巧に応答してもらおうとしたのだろう。

「お、やっと反応してくれたよ。放置プレイとかひどくね?」

 カズの言葉にいちいち反応していたらキリがなし、面倒くさい。そこで巧はカズを適当にあしらい、本題を聞くことにした。

「そんなことをしたつもりはない。で、なんか用事か?」

「あぁ、お前が無視ばっかするから、忘れてたじゃねぇか。学食行こうぜ」

 カズは親指をたてて動かし、促した。そう言われ、巧は空腹感を思い出した。疲れてはいるものの、お腹が減っていない訳ではないので、巧は親友と共に食堂に行くことにした。

 そうすると、ふと、先ほどまで考えていたことを思い出した。そして先程の疑問をカズに聞いてみることにした。

「なぁ、かず。神っていると思うか?」

 先に席を立ち、廊下へ歩き出そうとしていたカズは立ち止まり、こちらを向いた。その問いに少し驚いたような表情をすると、すぐにもとの表情に戻して、答えた。

「神ってのは俺らの心の中にいて、ずっと俺らを見守ってるんだよ。俺らが信じていようといまいとな」

 巧は素直に感じたことを告げた。

「キザだな」

 カズは何か悟ったような真剣な表情で言う。

「実際には神がいようといないと関係ないんだけどな。俺は神に嫌われてるからね」

 そこで一度間を取ると、カズは続けた。

「だっていくら神に祈っても宿題は終わらないし、ゲームする時間は増えないんだぜ!神がどうしたってんだ!?興味ねぇよ」

「お前に聞いた俺がバカだったよ」

 巧は溜息を吐きながら席を立ち、食堂に向かうためにカズに続いて廊下に出た。

 そして正面を向き、度肝を抜かれた。

 そこにいるはずのない者がいたからだ。昨日、初めて会い、いきなり剣を突きつけた者。煙の中から急に出てきた者。綺麗な一対の翼を持つ者。巧が先ほどまで考察していた者。

 そこには昨日見た天使がいた。

 ――もし、もしも昨日のあれが幻覚ではなくて現実のものだとしたら……。あの天使は昨日の出来事について何か知っているのだろうか?

 そこまで考えると巧の体は勝手に前へと歩き出した。足に動け、と命じるよりも早く体が動いていた。無意識というわけではないが、足が勝手に動く。一歩、また一歩と。カズが隣から「おい、どうかしたか?」と、声をかけてくるが頭に入ってこない。巧の意識はすでに足を動かすことにしか使っていなかった。次第にその間隔も大きくなり速くなっていく。そして最終的には走っていた。何も考えずに足だけが前に動く。

 天使は巧から遠ざかるようにゆったりと歩いているだけなので、すでに残り5メートルくらいまで詰めていた。

 急に天使が左に曲がる。左には確か階段があったはずだ。急がないと撒かれてしまうかもしれない。まだ残っているかどうかも判らない思考でそう考える。そして、すぐ後に巧も天使を追いかけて左に曲がる。

 だが、曲がってすぐに何かにぶつかり、巧は弾き返されて尻もちをついた。でもそんなことはどうでも良かった。足が止まって意識が戻ったのか、回復した思考で前を向いた。ぶつかったのが天使かと思ったからだ。

 だが、そこに天使はいなかった。少女が一人いるだけだ。この少女にさっきぶつかったのだとしたら天使はどこにいるのだろう?まだ冷めきっていない驚きを胸に抱えつつ、巧は周りを見回した。

 けれども、天使はおろか人すらも目の前の少女以外にはいなかった。

 自分は何をしていたのだろう。急に(さいな)まれたような気分になり、巧は俯いた。

 ――俺は何を考えているんだ。昨日の奴に会ったところでどうするんだ。あいつは剣を持っていた。しかもそれだけではなく、俺にそれを向けていたんだ。まともな奴じゃないことは明白だ!会ったところで何もできやしない。だったら何もしなくていいじゃないか。あんな奴とはかかわらない方がいいに決まっている。今までだってそういう風に生きてきたんだ。今まで通り適当にやればいいじゃないか。

 今まで通りでいいのか、変わらなくていいのか、という別の心の声を無理矢理に押し殺しながらそう考えた。

「す、すみません。大丈夫ですか?」

 すると、急に前方から声が聞こえた。さっきぶつかった相手だろうか。

 巧は声の主を求めて視線を上に持っていく。まず目に付いたのは制服のスカートだ。制服を着ているということはうちの高校の生徒なのだろう。おそらくぶつかったのは彼女だ。だとするとこちらも謝らないと。「すいません。そちらこそ怪我はありませんか?」と謝罪を言い終わる頃には巧はぶつかった相手の目と合っていた。

 水晶のように透き通った淡い瞳。その瞳には何となく見覚えがあった。

『仲良くしましょ』

 不意にそんな言葉が脳裏に響いた。

 だがすぐにその考えを振り払い、巧は目の前の少女――とは言ってもこの高校の生徒ということは同年代か年上なのだが――に目を向けた。

 ぶつかったときの衝撃を階段の手すりを押さえて耐えたのか、ほっそりとした腕が手すりをつかんでいた。

 華奢だが豊かな体つきで、出るとこは出て引き締まるとこは引き締まっている。青碧がかった髪が長く伸びている。人外のものとさえ思えるそれは美しく、また麗しかった。それはまさに美少女というのに相応しかった。

 そこで巧は自分がまだしりもちをついていることを思い出して起ちあがった。座っている時は長身に見えた彼女も、立ってみるとそれほど低くはなかった。

「私は大丈夫です」

 先程の問いかけに彼女はそう答えた。

 下から見ても麗しかったが、正面から見るとおもわず見惚れてしまうほど愛らしかった。

 そのことを気付かせまいと巧は声を発した。

「じゃ、じゃあ、俺は行くから」

 そう言い残すと巧はそそくさとその場から逃げるようにはなれた。後ろからなんか鋭い視線を感じるが、巧はそれを無視して元来た道へと早歩きして歩いていった。

 カズのところへ戻るとすかさず先ほどの奇妙な行動について尋ねてきた。

「お前、急に走り出したと思ったら……。星野にぶつかりに行くとか、どんだけだよ……」

「星野ってなんだよ?」

「お前がさっきぶつかった相手だよ。星野ほしの愛彩音あやね。おまけにここの男子にかなり人気あんぞ。今のところ学校一の美少女だって」

「ふーん、そうか」

「やけに詳しいな。なんで学年一位なんてことがわかるんだよ」

 たいして興味はないが、今のカズの高揚ぶりで勝手に話されると面倒くさいので適当に質問を投げかけてみる。

「俺がこの一カ月足らずで作り上げた情報網をなめんなよ」

 やはりというか、なんというか、カズは興奮気味に答えた。

 こいつは自分で言うには現実のことに興味はない。そんな奴が美少女とはいえ、現実のことに興味があるということを自ら言ったことは、素直に驚いていた。

「巧は狙わないのか?お前ならいけるんじゃないか。あいつもお前のこと見てたし」

「それはぶつかった上に変だったからだろ」

「いいじゃん、行けよ。当たって砕けろよ」

「砕けんのかよ。やだし、そんな先の見えない薄暗い洞窟を手探りで進むのなんて」

「お前の場合はそれに目隠しを自分から付けてるんだろ」

「そうかもな」

 確かにカズの言うと通り、自分で視野を狭めているのかもしれない。でも視野を広げることができるのならば、とっくにそうしている。できないからどんどん洞窟の奥深くまで進んでしまうのだ。

「でも、だったら気付かずに洞窟から抜け出してるかもしれないだろ」

「それはないだろ。いくら目隠しを着けていても外の光はそれをす抜けると思うけど」

「そういうもんか?」

「そうだろ」

 そういうものなのだろうか?

 巧はよく分からず、お手上げという風に両手を挙げた。この話はよく分からず、話していて心地よいものではないから、巧は話を変えることにした。

「カズは?お前は狙わないのか?」

「あぁ、俺はああいう完璧な奴、無理。容姿端麗、成績優秀。おまけに性格もいい。お嬢様すぎるだろ。次元が違うよ。狙うだけ無意味。俺はどっちかってと、こっちが守ってあげられるような人の方がいいよ」

 巧はため息の後に言った。

「あっそう」

「それにさ、何か星野ってそんなに話さないし孤高の女王様って感じじゃん。なんかSっぽいし」

 そのようにカズが話していたのに巧は気付かずに、階段のほうを向いて天使のことを考えていて、聞いていなかった。

 階段の前まではちゃんと追えていたのに、曲がった途端に見失ってしまった。階段を使って別の階に移動するほどの時間はなかったはずだ。にもかかわらず、見失ってしまった。いや、そもそも前提がおかしいのではないか?相手は確実に人間ではない。天使である可能性もある。人ではないものを人の感性であれ・・のことをはかるのはよくないことかもしれない。翼があるの天使なのだから、高速で移動することができるかもしれない。人ではないのだから、瞬間移動などもできるのかもしれない。考えるだけ無駄だろう。今までのことは忘れて学食にでも行こうか。

 そう考えると、急にカズに話しかけられた。

「お前ってもしかしてMか」

 カズのほうに振り返ると、けだものを見るような目つきで睨まれていた。

「何がどうなったらそうなるんだよ。俺よりもお前のほうがMだろ」

 巧は何も考えずに普段感していることを適当に言った。

 一瞬何かを考えたのか少し間をおいて、カズが口を開いた。

「やっぱりこういうのが友達同士の会話だよな」

 カズはなぜだか嬉しそうにしていた。

「なんかお前ってさ、最近醒めてたじゃん。なんか俺たちとも距離を置いている感じでさ。うん。やっぱ親友同士の会話はこうじゃなきゃな。別に俺は親友がMでも大丈夫、気にしないから」

 巧は溜息をついた。こいつはダメだ、頭がいかれている。巧はそんな『親友』は放っておいて学食に行こうとした。その前に階段のほうに目を向けるが天使は見えなかった。やっぱり気のせいだよな。忘れよう。

「お前、星野に気があるのか?」

 そう結論付けていて、『親友』の発言に反応できなかった。

「は?」

「ずっとあいつのほうを見てるからさ。そうか。お前はあいつを攻略しようと言うのか……。頑張れ。俺は応援しているからな、親友」

「どういう理屈で俺が星野を攻略するんだよ」

「お前もまだまだ子供だな。恋愛などの感情は理屈じゃないんだよ!」

 こいつと話しているとひどく疲れる。巧は溜息をついて、親友を無視して食堂に向かって歩いた。

 すると後ろからカズが「無視はひどくねぇか?ギャグ言って無視されると精神的にくるんですけど」などと言いながらついて来る。

 感情は理屈じゃない、か。

 巧はカズをもう一度無視して食堂に歩いて行った。

 そしてふと考える。このままでいいのか。俺はこのまま変わらずに、選択肢も無い道を進むだけでいいのか。そんなんで俺の人生はいいのか、と。


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