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プロローグ

初投稿です。

文才などはありませんが、楽しくやっていけたらいいなと思ってます。

 一人の少女が血だらけで倒れていた。歪な形をした砂でできた塔に、力なく腕をぐたりとぶらさげ足をへとりと伸ばしてもたれかかっていた。

 彼女の気持ちを表しているかのように、空は漆黒の雲に覆われて、小粒の雨が降っていた。

 彼女は今にも死にそうなほど軽い息遣いで、腹部の切り傷から血を流し、倒れている。彼女の背中も、首から腰にかけていくつもの切り傷があり、雨が服に染み込んだ血と混ざり、にじんでいた。自分の血なのか他のものの血なのか、彼女の髪は元の色もわからないほどにくすんだ赤色に染まっていた。彼女の周りには鉄のにおいをした赤い液体が散漫していて、青白くなっている顔に所々に血が飛び散っていた。


──助けて……死にたくない。――


 彼女のスミレ色の瞳がそう訴えかけていたが、また同じくらい彼女は申し訳なさそうにしていた。

その弱々しい視線は彼女の目の前にいる男へと向けられていた。金髪で割と長身なその男は左右対になっている翼を背中に大きく広げ、体を少女と反対の方向に向けて立っていた。雨に濡れた姿はとても凛々しく、まさに天使というにふさわしかった。

 天使の身体のいたるところには少女と同じような何かに引っ掻かれたであろう傷があり、翼にも血が付いている。彼の立っているところの周りには、おそらく彼のものであろう羽が散乱している。彼の一対の翼の下には白いちぎられた後のような翼の付け根の部分が二対、無残に残っていた。

 常人ならば、立っているのがやっとなほどにふらついてもいいくらいの怪我をしているのに、天使はたくましい二本の足で力強く凝然と立っていた。

 左手には鞘に納まった剣が握られている。柄は黄金に輝き、七色に輝く宝玉が散りばめられていた。

 天使は慣れた手つきで剣を鞘から取り出した。太陽の光を浴びた剣はより一層甚だしく黄金に輝いた。剣から発せられる光は、何者でも包み込むことができるほどに暖かくきらめいていた。

 両手で柄をつかむと、天使は正面に視線を向けた。視線の先には一頭の獣……いや、化け物がいた。象よりもひとまわりもふたまわりも大きい胴体は、全身が魔性漂う黒い毛でおおわれていた。四本の大きな太い脚で巨体を支えていて、毛がぼうぼうに生えている太い尾がその末端に生えていた。黒光りする鼻からでる白い鼻息は荒々しくどこか蒸気機関を思わせた。目は充血しているのか、目の前にいる獲物を見て興奮しているのか、赤く禍々しく光っていた。ファンタジーの世界にでも出てきそうな化け物は、とてつもない殺気を目の前にいる天使に向けている。

 天使は頭だけ後ろに向かせ、後ろに倒れている少女に微笑みかけた。安堵、怒り、その他の感情を込めて彼女の方を見た。その笑みからは一切の邪念は感じられず、ただ優しさと少女を気遣う気持ちだけがみられた。

 雨はより激しくなり、少女と天使の間に冷酷なほどに冷たい滝の壁を作った。

 少女は天使を捕まえようと腕をあげようとしたが、身体中にある怪我のどれかに神経を切られたせいか、プルプルと不格好に小刻みに震えるだけで腕は上がらなかった。代わりに声をあげようとしたが、呼吸をするのがやっとな彼女は腰を後ろの砂塔に預け、腰から上の部分を前後に揺らし、空気をひねり出そうとしていた。肺の奥からもうほとんどない空気をやっとの想いでひねり出し、気管を通じて声帯から消え入りそうな掠れた声を発した。

「……や…やめて……」

 だが彼女の声が男に届くことはなく、豪雨の音にかき消されてしまった。

 直後、大きな音と光と共に落雷が鳴り響いた。それを合図にしたように天使が予備動作なしに獣めがけて走り出し、少女から遠ざかって行った。

 天使は剣を右手に持ち替え、物凄いスピードで獣めがけて体勢を低くし光並みの速さで、低空飛行でもするように大地を疾走した。

 尋常ではないスピードで近づいていることに気がついた獣は口に黒い炎を集めて、男に向けて放った。男は炎が当たる直前、右に垂直に曲がり炎をかわした。炎が着弾したところは白い蒸気もくもくとたっていた。

 男はそのまま獣の背後まで駆け抜けると、それに切りかかった。だが、獣は振り向くことなく、黒い毛に覆われた尾を一瞬右に引き、そのまま一気に左に振り抜くと、天使の右わき腹に向かって振り下ろした。

 天使は斬りかかりかけていた剣をどうにかやめ、剣刃で防御した。が、獣は尾をしなやかに曲げ、天使の右脇腹に当て、空に放り投げた。

 天使は右脇腹を左手で押さえながら、剣を離さないようにしつつ空中で体勢を直し着地した。剣をだらりと下げて天使は左手についた血を振り払った。

 膝を曲げて腰を低くし、いつでも走り出せるように体全体の重心が前にくるように前かがみになった。

 獣がドスドスと大きな音を立てて体を前かがみな天使に向けた。

 直後、獣めがけてもう一度馳せていった。

 だが、天使が剣を振りかざして獣を攻撃する前に、獣は右前足で男の左わき腹を蹴った。天使は2、3度地面をバウンドし、転がっていった。

 ガクガクしている剣を杖代わりにして助力し、立ち上がった。 天使は息があがっているのか呼吸が荒く、口から出た息が外の冷気にあてられて白くなっていた。

 自分が目の前にいる獣に勝てないことを悟った天使は目をつぶり、神経を研ぎ澄ませた。今すぐにでも意識を手放した方が楽であろうに 、男は意識を体に向けた。何度も自分の限界を超える速さで走った結果、もうほとんど感覚のない足。獣の重い攻撃を受け、血が滲み出ている両わき腹。剣を振り回し、敵の攻撃の防御に使い、もう動かすこともままならない腕。そして、手に握っている黄金にきらめく剣。


 ――勝ちたい――


 彼は願った。この剣で目の前にいる獣を倒すことを。

 すると、剣がすこしずつ光を帯びていき最終的には黄金に輝いた。神々しく光っている剣を握りしめ、獣めがけて光にも勝る速さで走っていった。

 獣は口元に黒い炎をぎらつかせて迎え撃った。獣は黒い炎を光をも超えるほどに速く走る天使に向けて放つ。

 だが、彼は空へ飛躍しかわした。

 そのまま獣に一層光を増した剣を振りかざした。

 獣もあわてて炎を放った。

 二つの強い攻撃が炸裂し、逃げ場を失ったエネルギーが圧縮され、一気に爆発した。爆風と爆音が爆発光のあとを追うように鳴り響いた。

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