病院にて2
この日から、看護婦さんたちがしょっちゅう話しかけてくるようになりました。……って言うか、看護婦さんたち、私を何歳の子供と思って話してくるの? あの先生、何て説明した!?
「今日は天気もいいし、車椅子に乗って、お庭に出ようか。きれいなお花がたくさん咲いてるよ」
「何か甘いお菓子を持っていって、お庭で食べようか。太陽の光が温かくて気持ちいいから、きっとお菓子も美味しいよ」
……いやいや、本当にさ、それって何歳の子供用? まぁ、外は行きたいから行くけど。車椅子なのが少し残念だけど、無理すると傷が開くらしいから仕方ないか。
「ほら、ウィンちゃん、車椅子持ってきたよ。自分で移れる?」
そして、呼び方もファリエル大尉から、ウィンちゃんになりました。隣のおばちゃんたちと同じ呼び方か。
「……やってみるけど、無理なら手、貸してください」
「うん、頑張って」
そう言って見守ってくれる看護婦さんたちの視線が生暖かいんですが。
そう思いつつも、怪我に響かないようにゆっくりと車椅子へ移動する。うん、響かないようにって言うのは無理だ。地味に痛みはある。
ま、車椅子までは自力で動いたけどさ。地味にずきずきしてるけど、我慢できるレベルなので気にしない。
「うん、ウィンちゃん頑張った!」
「大丈夫? 痛かったりしない?」
「少しは痛いけど、まぁ平気です」
だから、外外。太陽の光って、最近まともに浴びてないから恋しいんだよねぇ。
「ふふ、じゃあ、行こうね。少しでも辛くなったら、すぐに言ってね?」
「分かってます」
無理しすぎて、ワイリー先生から説教を受けるのはゴメンです。予告されたしね、無理したら説教だって。
そうして久しぶりに出た外は、本当にいい天気だった。太陽の光が燦々と降り注ぎ、熱を帯び、私の体を適度に照らした。
「うん、ほんっといい天気。気持ちいいでしょ?」
「ええ。温かくて、本当に気持ちいいです」
ワイバーにいたときは、こうやって天気を楽しむ余裕なんて無かった。毎日が戦いだった、毎日が、生きるか死ぬかの生活だった。今日は、もうそんなことは考えなくていい、考える必要がない。
病院での生活は、こんなにも平和なものなのか? 怪我の痛みこそあれど、それでも、もう仲間を失う心配もしなくていい、そんなこと、考える必要はないんだ。
「ほら、持ってきたお菓子、食べようか。甘くて美味しいよ」
「………私は、ウィンちゃんに、まだ普通の食事とかを許した記憶は無いんだけど?」
………いつ来たの、ワイリー先生。大体さ、療養食? 病人食? まぁどっちでもいいけど、アレ、飽きるんだよね。
正直にそれを告げると、傷に響かない程度に叩かれた。
「飽きる飽きないじゃなくてね。食事のメニューも、ちゃんと体調を考えて構成されてるんだから、文句言わない」
「じゃあ、少しくらいお菓子を容認してください」
「……もう少し傷が塞がるまで、我慢して?」
「ケチですね」
結局、おあずけですか。何ですか、その鬼畜的な行動は。お菓子が食べられると、目の前に垂らして、眼前でおあずけとか、イジメ以外何者でもないじゃないですか。
あーもう、せっかく久しぶりにお菓子が食べられると思って歓喜したのに、喜び損。戦地では殆ど甘いものとか食べられないしさ。戦地での食事って、基本は簡易食だから、あんまり美味しくないんだよ。だから、久しぶりに甘いものが食べられると思って、嬉しかったんだけどなぁ? 甘いものとか、お父さんもお母さんもいるころに、お母さんと一緒に食べたのが最後だし。
…………お母さんが死んだ後、私はすぐに軍に入ったから、甘いものなんて食べられなかったからね。
「………す、少しだけなら、許可しようかな」
そう思いながら、ずっと先生を見てたからかな? 意外とあっさりと許可が下りた。
「そういうところは、年相応の子供なんだね」
「甘いものを食べたがって、何が悪いんですか」
「悪くない、悪くない。ただ、もう少し傷が塞がるまで待ってて欲しかったかな、って思ってね」
問答無用。許可が出た以上、お菓子は美味しくいただきますよ。看護婦さんも、しっかりとお菓子くれたしね。うん、甘くて美味しい。
「おいしそうに食べるね」
「だって、食べるの、相当久しぶりですし?」
やっぱり甘いものって、癒されるよね。庭は、太陽の光もよく当たるからそれでも癒されるし、甘いお菓子も癒してくれるし。
………何コレ、なんか幸せなんだけど。
「ところで先生、仕事はどうしたんですか?」
「患者さんも一区切り付いたみたいだし、ウィンちゃんが外に行くのが見えたから、休憩兼ねて出てきたの」
あーね。今、患者誰も来てないのか。………って言うか、この病院来てから、自分以外に患者見てない気がするんだが。
「入院してるのはウィンちゃんだけだし、最近はそんなに、患者さん来ないからね」
「私だけって、王都の人は平和なんですね。……あー、寧ろ、家で治療受けるとか、そんなですか?」
「そうですね。今も医師の数人は、往診に行っていますよ」
……お貴族様は、治療のために家から出てくることはないのか。だから、この病院で私以外の患者を見ることがないのか。
「さ、そろそろ病室に戻ろうね。太陽の光も、浴びすぎると毒だからね」
「そうですね」
太陽の光は気持ちいいけど、たまに、後から頭痛くなるんだよね。
「部屋に戻ったら、しばらく休んでてね」
「何故です?」
「太陽光は体力を奪うからね。それに、無理して傷に障ってもいけないからね。いい?」
「分かりました」
傷に障って、治るまでに時間かかるのも困るしね。傷が塞がれば、少しくらいの無茶は容認してくれるだろうし。
「ワイリー! 患者来たぞ、戻って来い!!」
「……っと。じゃあ、後お願いね」
「はーい。さ、ウィンちゃんも病室に戻ろうか」
「お願いします」
うん、久しぶりの外も満喫したし、同じく久しぶりの甘いお菓子も満喫したし、後は病室に戻って、寝るか。
「さ、ウィンちゃんはしばらく寝てようね」
病室戻ったら、すぐに看護婦さんたちにも言われたし。あ、ベッドに戻るのには手を貸してもらいました。だって、車椅子に移動するとき、痛かったし。戻るときは、看護婦さんたちが注意を払ってくれたらしく、痛くなかった。
よし、痛みもないし、太陽の光のおかげで程よく疲れたし、ぐっすり眠れそうだ。と言うわけで、おやすみなさーい。