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戦場の奇跡  作者:
番外編
40/41

あの日の約束

「にいしゃま、いっちょにおでかけめーなの?」

「ごめんね、ウィルフィリア。兄様、お腹が痛いんだ」

「ぽんぽんいちゃいの?」

「そう。だから、今日はウィルフィリアだけで行ってきてね」

「にいしゃま、らいじょぶ?」

「ありがとう。ウィルフィリアは優しいね。大丈夫だから、ウィルフィリアは楽しんでおいで」

「あい。にいしゃま、こんどはいっちょね」

「そうだね。次こそは一緒に行こう」


 ああ。これは、夢だ。ウィルフィリアが誘拐されたあの日。ウィルフィリアが出かける前の、ちょっとしたやり取り。

 あの日、僕はウィルフィリアと一緒に、出かける予定だった。だというのに、突然腹痛を起こし、心配したお母様にお出かけを禁止され、出かけるウィルフィリアを見送った。

 思えば、あの子の心からの笑みを見たのは、あのときが最後だろう。次は一緒にお出かけしようと、無邪気に笑いかけてきたあの子。このあとに起こることを一切知らず、ただ笑っていた愛しい妹。

 僕は今でも、ウィルフィリアの誘拐に関わった奴等を許せない。何年経っても、何十年経っても許すことはないだろう。それは、お父様もお母様も、兄様もシルフィとて、同じだろう。


 可愛いウィルフィリア。僕の可愛い妹。

 君と、何年間離ればなれだったろう。

 君と共に過ごした時間は、どのくらいだったのだろう。


 もっと、一緒に過ごしたかったよ。

 昔の約束は、結局果たせないまま、かな。

 ―――一緒に、お出かけしよう。


「こんどはいっちょね」


 それは、約束。幼い僕とウィルフィリアとの約束。

 果たせなかったね。君と僕がお出かけしたのは、せいぜい城だったし、二人じゃなかった。

 僕は、一生君を忘れない。僕たち(・・)は君を忘れない。

 ウィルフィリア、君は確かに生きていた。君は確かに、僕らと共にあった。


 ―――でもね、今、もしも君が生きていたら、とよく思うよ。

 ウィルフィリアが生きていて、そばで笑ってくれていたら、と。


 ウィルフィリア、家は君がいなくなったあの日から、シルフィが生まれるまで、ずっと暗かった。シルフィが生まれてからは、シルフィが元気だったから、ウィルフィリアがいなくなった悲しみも大分緩和されたのだが。

 ウィルフィリア。シルフィ。可愛い妹。

 なあ、シルフィ。お前だけは、幸せになってくれ。ウィルフィリアの分も、幸せに。


 僕は、シルフィを絶対に幸せにするやつを探して見せる。あの子が幸せになれる相手を。ウィルフィリアの分も、ウィルフィリア以上に幸せにできる相手を。

 ウィルフィリアを幸せにできなかった分、僕はシルフィだけでも幸せにしてみせよう。


 ―――そしていつか、帰ってきておくれ。ウィルフィリア。アルガディア大公爵家ヘ。いや、アルガディア大公爵家じゃなくていい。このオースティアに。





 その時は今度こそ、一緒にお出かけをしよう。

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