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戦場の奇跡  作者:
番外編
39/41

ウィルフィリア VS 兄


 ある日のアルガディア大公爵家。その屋敷に設えられた鍛錬場。そこでは、ウィルフィリアとギルトバードが、模擬刀を持ち、打ち合っていた。


 事の発端は、ウィルフィリアがふと、軍に復帰したいと呟いたことだった。

 もちろん、家族は全員が反対し、結果、ギルトバードが、


「どうしても軍に復帰したいのならば、僕を倒してからにしろ!」


 と、娘を嫁に出す父親が言い出しそうな言葉を真顔で吐き、それをウィルフィリアが受け入れた結果が、コレである。

 そして、それを面白そうだと考えて帰って来たジーニアスと、ソレについてきたヴィルフォルト、ルイゼ、ロイズを観客に追加し、鍛錬場での試合と相成ったのである。


「先に申し上げておきますが、手加減は無用です」

「分かっている。国の英雄に手加減が出来るほど、僕は器用じゃない」

「そうですか、ソレは何よりです」


 ウィルフィリアはそう言うと、瞬時にギルトバードの懐へと入るのだが、それを悟ったギルトバードが咄嗟に避けた。

 そして、お返しとでも言わんばかりに、今度はギルトバードがウィルフィリアに攻め入り、剣を合わせる。


「うーん、やっぱり、男女の力の差は痛いですね」


 しばらくは剣を合わせ、自らの力の限り押し合っていた二人だったが、先にウィルフィリアに限界が来たらしく、上手にいなして、ウィルフィリアはギルトバードと距離を取った。

 だが、ギルトバードはそんなウィルフィリアに休む暇を与えまいと、すぐに攻め込む。

 全ては、ウィルフィリアを軍に復帰させないため。ウィルフィリアを、危険な場所へと近づけないためだ。


「っく! んっ!」


 結果、攻め込まれたウィルフィリアは、痺れる腕で必死に攻め込んでくるギルトバードの模擬刀を受け止める。

 勝てる。ギルトバードはそう確信した。


 それとまったく正反対だったのが、ウィルフィリアだ。男女の力の差に徹底的にやられ、腕が痺れている今、剣術だけでは辛い。だが、一応兄であるこのヒトに魔術を使うのも。

 そう思いながらギルトバードの刀を必死に受け止めていると、慢心したのか、ギルトバードに隙が見えた。


 激戦区、ワイバーで戦ってきたウィルフィリアは、そんな僅かな隙も見逃さなかった。その隙を突いて、ギルトバードの模擬刀を自らの模擬刀で打ち飛ばし、そして、足を払い転ばせ、その首に模擬刀を突きつけた。


「―――降参してください」


 これが本物の刀ならば、ギルお兄様は、もう死んでいますよ。小さく呟くウィルフィリアに、ギルトバードは大人しく降参の言葉を告げた。


「…………僕の、負けだ」


 負けを宣言したギルトバードは、肩を落としながら、飛ばされた剣を取りに向かう。

 そして、次は見物に来ていたロイズが、ギルトバードが使っていた剣を奪い取り、ウィルフィリアに向かって、こう叫んだ。


「ウィルフィリア、僕とも戦え! 僕に勝たなければ、軍に復帰させんぞ!」

「ロイズ殿下!?」

「兄様。殿下なんて呼ばない」

「うっ! ……ロイズ、兄様」


 そして、ウィルフィリアの訂正を聞いたロイズは満足そうに微笑み、そして剣を構え、ウィルフィリアの前に立つ。


「さあ、来い。ワイバーの奇跡の実力を見せてくれ」

「……極力、怪我をさせないよう努力しますが、失敗したときは、申し訳ございません」

「気にするな。僕が好きで相手を頼んでいるんだ」


 そして、ロイズのその言葉を聞いたウィルフィリアが、しっかりと剣を持ち直し、構えた。


「ギルお兄様、合図をお願いできますか?」

「分かった。二人とも、準備はいいな?」


 ギルトバードが問うと、ウィルフィリアとロイズは頷いて、それを返事に変える。

 そして、それを見たギルトバードが、大音声で、告げた。


「開始ッ!」


 その言葉と同時に、ロイズがウィルフィリアへと襲い掛かる。だが、ウィルフィリアは体をそらし、ロイズの揮う剣を交わす。ロイズはそうやってかわすウィルフィリアを追って、休む暇も無く次々と攻撃を繰り出すのだが、ウィルフィリアはそれも全て、悉くかわしていった。

 ロイズは次から次へと、剣を揮い、攻撃を繰り出す。ウィルフィリアは自身の持った剣をあげることなく、腕は下げたままでかわし続ける。


 だが、それでもウィルフィリアの目は、厳しいままで何も変わらなかった。


「隙が見えるのを、待っているのか? ウィルフィリア」

「ええ、そうですね。ロイズ殿下の攻撃は重そうなので、受けたら最後のような気がするんです」

「まったく、ずるいぞ、ウィルフィリア。僕にばかり、攻めさせて」

「さすがに、殿下相手に攻撃ばかりは出来ませんから」

「気にするなと、言って、いるだろうっ!」


 とにかく必死でウィルフィリアに襲い掛かるロイズだったが、その攻撃は全てかわされている。

 そしてそんな時、外野はのんびりと話をしていた。


「うーむ、ロイズの息がかなり切れてるな。これは、ウィルフィリアの勝ちだろう」

「でしょうね。大体、ロイズは僕より弱いでしょう? その僕が勝てなかったんだから、ロイズにも無理でしょう」

「しかし、ギルがこんなにあっさり負けるとは思わなかったな。ギル、お前一度騎士団と試合したよな?」

「ええ、負けましたが」


 騎士団の人間と試合をするほどの実力者、ギルトバード。彼は、手加減されていたといえど、それでも善戦だった。

 だが、ウィルフィリアはそんなギルトバードを、軽くいなした。力で押されているように見えて、それでも隙を見てギルトバードを打ち倒した。

 そして、ギルトバードを打ち倒したウィルフィリアは、少しの休憩を挟んだだけで、次はロイズを相手している。


 そうやって見物者たちが話をして、試合から目を離している間に、ウィルフィリアはギルトバードを相手にしたときと同様、隙を見てロイズの剣を討ち飛ばし、その首に剣を向け、降参を勧めていた。


「ありゃ、いつの間に」

「しまった、目を離している間に」

「何が起こったのか、まったく分かりませんね」

「よし、ウィルフィリア。次は僕とやろう!」


 そんな二人の決着を見れなかった見物席の面々は次々に口を開き、そして、次はヴィルフォルトがウィルフィリアに試合の申請をした。

 が、すげなく断られた。


「申し訳ございません。さすがに、久しぶりに二連戦は辛いです。肉体的にも、精神的にもかなり辛いので、ご容赦ください」


 ウィルフィリアは模擬刀をもった腕を力なく垂らしながら、ヴィルフォルトの頼みを断る。

 そして、そのウィルフィリアの腕を、静かに近づいたジーンがぎゅっと掴んだ。


「いだっ!!」

「………なるほど、一番の原因はこれか。ウィルフィリア、僕の手を力いっぱい掴んでごらん」


 ジーンはそういうと、ウィルフィリアの腕を掴んでいた手を離し、そして、その手を掴むようにと前に出す。

 その手を掴むウィルフィリアの手には、殆ど力が入っていなかった。


「ギルの攻撃を受けた時点で、大分やられていたな? だから、ロイズの攻撃は殆ど避けたんだろう」

「……………」


 ジーンの言葉に、ウィルフィリアは答えを返さずに黙りこくるのだが、だが、ウィルフィリアの正直の表情筋は、そのとおりですと告げていた。


「シルフィ、ギル、侍医を呼べ」

「っ! そこまでしなくともっ!」

「一応、だ。大人しく診察を受けなさい。そして、診察を受けたらしばらく休んでいるんだ、いいね?」

「だから、大丈夫だとっ!」

「い・い・か・ら、言うことを聞きなさい」


 そしてその後、ギルとシルフィによって呼ばれた侍医に、未だ痺れる腕の診察、という名の一種のイジメ(ウィルフィリアの独断)を受け、強制的にベッドに横たわらされたウィルフィリアであった。

 ちなみに、ウィルフィリアの腕の痺れは数日取れず、その間のお世話を、シーラ、ノイ、クロッカの三人がとっても嬉しそうに焼いていたそうな。


 そして、本気で軍の復帰を考えたウィルフィリアだったりする。



 ―――だって、軍に復帰すれば、この最強的に過保護なこの方々から逃げられそうだもん。


 その望みは、叶うことは、ない。


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