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戦場の奇跡  作者:
番外編
37/41

ギルトバードの不運な人生

 僕、ギルトバードは中々に不幸な、と言うか、不運な人生を送っていると思う。

 第一の不運は、幼い頃、目いっぱいかまって可愛がっていた可愛い妹、ウィルフィリアが誘拐されたこと。

 その日は、実は僕も一緒にウィルフィリアと一緒に出かける予定だった。だが、急に僕が体調を崩してしまい、ウィルフィリアだけが外出することになった。

 だが、その中でウィルフィリアは誘拐された。護衛についていた騎士たちは一人を除いて皆殺され、一人残った護衛は、誘拐犯の仲間で。

 僕はその当時、まだ七歳で、ウィルフィリアを見つける手段を何も考えることが出来なくて。

 そんな自分が、ふがいなかった。そんなときに体調を崩してしまった自分を、ひどく恨んだ。

 ジーン兄様は、護衛の兵を伴ってではあったけれど、それでもウィルフィリアを探しに行っていたのに。

 そんな中で、僕は、シルフィを身ごもっていた母やメイドたちに看病されながら、とにかくウィルフィリアが戻るのを待っているしかなかった。


 ―――そして、ウィルフィリアは戻ってこなかった。


 そんな中で時は流れ、僕は、ウィルフィリアがいなくなったことで、無理やりテンションを上げて、よからぬ行動を取ろうとする母や、ソレと一緒に暴走しようとする、新たに生まれた妹、シルフィを諌める役になっていた。

 ウィルフィリアがいなくなって数ヵ月後、新たに生まれた妹、シルフィは、良くも悪くも、元気な子供だった。


 ウィルフィリアが泣き虫で、静かで、家の中で遊ぶことが大好きだった子供だったのと違い、シルフィはあまり泣かず、元気いっぱいで、家の中よりも外で遊ぶことを好んだ。

 僕の可愛がっていた妹とは正反対の妹。それでも、やはり可愛くて。

 ある程度のことは許してやりたい。だが、この子の将来のためにはしっかりと叱らなくては。そう思ってきっちり叱るところは叱っていたら、いつの間にか、シルフィの教育係が僕になっていた。

 それもまた、ある意味、僕の不幸だと思う。


 シルフィの教育係を任されてから、何度侍医に胃薬を処方させただろうか。シルフィの教育でストレスが溜まり、それが胃に来た。


 結果、一度は倒れた。


 あれは焦った。気がついたらベッドの上で、そのそばには両親や兄、妹、そして、従兄たちまでいたのだから。


「大丈夫? ギル。侍医に診てもらったら、疲れてるんだろうって。そのせいで、胃が弱ってるみたいだって。しばらく、絶対安静よ、いいわね?」


 ついでに言うならば、僕はこの頃、十一歳だった。侍医曰く、十一歳の子供()に飲ませても大丈夫な胃薬を探すのには、少々骨が折れたらしい。

 つまり、それほどに、四歳のシルフィはおてんばもおてんば、椅子に縛りつけでもしないとまともに授業も受けれないような子供だったのである。

 そしてそんなシルフィを見ていた僕に、ストレスが溜まり、倒れたというわけだ。


 しかし、母に絶対安静を言い渡されてしばらく、侍医からのOKが出るまでは、本当に大変だった。母は付きっ切りで看病してくるし。まぁ、それは別に嬉しいからいいのだが、その間、僕の勉強を止められていたので、それが一番大変だった。

 ただでさえ、シルフィに手を焼かされて、自分自身の勉強も少し遅れ気味だったのだ。それなのに、今、この状態で勉強禁止とか、ありえないでしょう!!


「だぁめっ! シルフィはジーンが見てるから。だから、ギルは自分の体を治すことだけ考えなさい。勉強なんてもってのほか」

「しかし!」

「しかしも何もないの。いいから、ほら、口開けて。ご飯食べて、お薬飲んで寝てなさい」

「んぐっ」


 ちょ、お母様、無理やりスプーンを口に入れないでくださいよっ!

 文句を言いたくて急いで飲み込み、また口を開くのだが、それはお母様にとってはいい的でしかなかったようだ。


「おか………んぐっ」

「言いたいことは食べてから聞きますからね」


 ちなみに、母のこの言葉は嘘だった。消化のいい食事を取らされてすぐに、僕は母から薬を飲むよう命じられ、その後は寝るように命じられた。

 お母様、言いたいことはご飯食べたら聞いてくださるって言ったじゃないですか! そうは思っていても、母の目を見ると、そんな言葉は許さない、と暗に訴えていたので、やめた。お母様、怖すぎです。


 ちなみに、僕が侍医からOKをもらったあと、久しぶりにシルフィの勉強の様子を見に行くと、信じられないほどに静かになっていた。コレには驚いた。

 これは、後にジーン兄様に聞いたのだが、僕が倒れている間、兄様がシルフィ相手に懇々とお説教をしていたらしい。

 その中に、ギル()が倒れたのは、シルフィが大人しく授業を聞かないからだぞ、とも話していたらしい。

 つまり、僕を想って、シルフィは大人しく授業を聞くようになったというわけだ。よしよし、いい子だシルフィ。


 だが、シルフィのそんないい子も、ウィルフィリアが戻ってくるまでだったのだが。

 ウィルフィリアが戻ってきてからは、シルフィは初めて会った姉に興奮したのか、落ち着きのない子供に戻ってしまった。

 そんなシルフィを諌めるのは、昔と代わらず、僕の役目だった。そして、ウィルフィリアが戻ったことに歓喜した母が偶に壊れたときも、それを諌めるのは僕の役目だった。さらに、そんな母と一緒に壊れる父を諌めるのも、なぜか、僕の役目になった。


 ねぇ、兄様。どうして、僕にこんな役目が回ってくるんでしょうね。

 成人して、お酒を飲めるようになって、兄と一緒に酒を飲みながらそうやって愚痴っていると、兄からは慰めるように、肩を軽く叩かれた。

 兄様、慰めるくらいなら、代わってください。特にシルフィを諌める役、代わって下さい。事実、僕が倒れたときにやっていたでしょう? お願いします、代わって下さい。


 兄に訴えるものの、兄から返ってくるものは、慰め以外、何もなかった。

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