オースティア
ワイバーで爆発が起こった翌日、爆心地と思われる場所で、焼け焦げてはいたが、ウィルフィリアが使っていたはずの剣が発見された。このことから、オースティア軍は爆発の場所にウィルフィリアがいたとして、ウィルフィリアを、若しくはウィルフィリアの遺体を捜すことを決意した。
そして、その爆心地で見つかったウィルフィリアの剣は、ギルトバードとともにアルガディア大公爵家へと戻ることになった。
―――ウィルフィリアが戻るまでの、ウィルフィリアの代わりとして。
そしてその後、爆心地に程よく近い場所で爆発に巻き込まれた兵士の話から、ウィルフィリアが爆心地にいたこと、爆発の規模を抑えていたことを知ることになる。
そして、その話をした兵は、その数日後、重度の火傷により、命を落とした。
このことから、国王は、ウィルフィリアの生存を絶望視した。生きていて欲しいと願いつつも、生きていることを信じられなかった。
「お兄様、お願いします! ウィルフィリアはきっと生きていますから!」
「ウォルフ。だが、あの兵によると、ウィルフィリアは爆心地にいたんだろう。……言いたくはないが、恐らく、もう生きてはいないだろう」
「ですが!」
「低い可能性にかけて探すよりも、国の復旧に時間をかけたほうがいい。どうしてもというのならば、ウォルフ、自分で探せ」
だからか、国王はウィルフィリアの父親でもあるアルガディア大公爵、弟に頼まれても首を縦に振ることが出来なかった。
―――彼は、ウィルフィリアの捜索を、ウィルフィリアの遺体の捜索へと切り替えた。
「ウィルフィリアの遺体、若しくはウィルフィリアのものと思われるものを捜索せよ」
王は兵士たちにそう命じ、兵たちも、かの有名な英雄のもの、英雄の遺体ということで、やる気が上がったらしく、必死で探した。
せめて、身に着けていたものだけでも、アルガディア大公爵家へ帰すために。英雄を、安心できる場所で休ませるために。
だが、そうやって探して数ヶ月経ったというのに、ウィルフィリアの身につけていたであろうものは、焼け焦げていて判別がつかず、そして、ウィルフィリアの遺体も発見されなかった。
あの爆発では、いくら爆心地にいたといえども、焼け焦げたとしても骨は残るはず。王はそう考え、捜索の輪を国中に広めた。あの日、空から何か降ってこなかったか。あの日、運び込まれた患者でウィルフィリアらしき者はいなかったか。そして、仮にウィルフィリアらしき者がいた場合、その遺体はどうしたのか、とにかく探し回っていた。
それでも、どうしてもウィルフィリアは見つからなかった。
あの爆発から、既に半年。ついに、王は捜索を諦めた。
「ここまで探して見つからないのだ、諦めろ」
「諦めきれません! あの子は……、あの子はきっと………」
「それが、どれだけ叶わぬ願いだと思う? お前も分かるだろう、ウォルフ?」
「ですが……、諦め、きれません。あの子は、きっと生きているのですから!」
「もう少し現実を見ろ。……確かに、生きていると信じたいのは同じだ。だが、現実も見なくてはならない」
さすがに、半年と言う間見つからなかったのは、諦めるための口実になる。半年間ずっと探し続けていたと言うのに、ウィルフィリアは見つからなかったのだから。
既に、死んでいるであろうウィルフィリア。彼女の大好きな、育ての親の元へ逝っているであろう、ウィルフィリア。ウォルフガングとて、それは分かってはいたのだが、納得したくなかった。
彼女を、ウィルフィリアを今さら育ての親に返したくなかった。
ウィルフィリアは正真正銘、自分たちの子供なのだから。自分と、愛する妻の血を引いた、まがうかたなき、アルガディア大公爵家の姫なのだから。
「もう、国としては捜索にお金を使うことは出来ない。今後は、ワイバーの復旧費に充てる」
「……っ、家が、独自に探すのはいいのでしょう!?」
「それは問題ない」
そうして、国としての英雄の捜索は打ち切られ、その後はアルガディア大公爵家での捜索となった。
生きていて欲しい。生きていると信じたい。だが、直接爆心地となったワイバーの様子を見たギルトバードとジーニアスは、どうしても、信じられなかった。
恐らくここが爆心地であろう、深く、地面が抉られた場所。彼らの可愛い妹は、爆発の瞬間、ここにいたのだ。
「ここで、ウィルフィリアが………」
「ああ、報告では、いたらしいが……」
そのことを考えるだけで、胸に何かが突き刺さるような錯覚を、ギルトバードとジーニアスは覚える。考えるだけで、辛かった。これでは、仮に生きていたとしても、かなりの重傷だろう。
それに、報告によれば、ウィルフィリアは爆発の前、ファーミンゲイル兄と戦い、傷を負っていた。しかも、かなり出血していたと、彼らは聞いていた。
どれだけ痛かっただろう、どれだけ辛かっただろう。ギルトバードとジーニアスは、魔術に長けていないため分からないが、魔力を限界まで消費することは、命の危険に陥ることもあると、習っていた。
―――そして、それがまた、どれだけ辛いかということも。
「もう、望んじゃいけないんでしょうか、兄様」
「……あの場所を見ると、そう、考えたくはなるな」
それでも、彼らは諦めない。彼らの愛するウィルフィリアを見つけ出す。
「だって、シルフィと母様が塞ぎこんで、大変だしね」
ギルトバードは、ウィルフィリアを探す理由を王子王女に問われた際、淡く微笑んでそう答えたと言う。