表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場の奇跡  作者:
戦場の奇跡
29/41

戦場の奇跡

 何故分かったのか、よく分からない。ただ、嫌な気配がした。

 リーディル・フェン・ディド・ファーミンゲイルとの対峙の真っ最中だったが、その嫌な気配で、私の集中は途切れた。そして、その隙をファーミンゲイルが逃すわけがなかった。


 ―――ファーミンゲイルの剣の切っ先は、私の腹を穿っていた。


 まったく、さすがは兄弟だよ。見事に、弟のつけた傷に上乗せしてきやがった。この調子ならば、短いうちに、出血多量で死ぬだろうね。


「すまないな、大尉。弟の敵だ、死んでくれ」


 うん、死ぬのは死ぬ。だけど、ただ死ぬわけじゃないよ。……ファーミンゲイル、あなたを殺して、この嫌な気配の根源をたどって、そして、死んであげる。

 だから、今は無理にでもこの体を動かさなくては―――


「禁術・燃焼」


 だから、禁術を使って、無理にでも体を動かすよ。この術を発動させるのに必要な血は、十分に流した。だから、私の血よ、最後は燃え尽きてしまってかまわない。ただ今は、力を貸して欲しい。

 学校で習いはしたものの、よほどのことがない限り使うなと、先生に言われてたっけ。ねぇ、先生、いいよね。今がそのときだよね。

 自分の血が燃えていくのを感じながら、ファーミンゲイルを見ると、ファーミンゲイルの表情は、戦慄に染まっていた。


「……っ、な、何をした!? おい、大尉!」


 それが、リーディル・フェン・ディド・ファーミンゲイルの最期の言葉。ファーミンゲイルがその言葉を紡いだ瞬間に、私の腕は、私の持つ剣は、ファーミンゲイルの首を落としていた。

 うーむ、さすが禁術。体の動きがいつもと比べ物にならないくらいによかった。さすが禁術。対価は半端ないと言うか、死がほとんど確定している術だけど、その寸前に必死でやるなら、いい術だ。


 さあ、嫌な気配を感じるほうに行かなくちゃ。

 禁術のおかげで、神経が過敏になっている今なら分かる。この嫌な気配は、魔術の気配だと。

 つまり、隣国か自国の兵が、何か危険な魔術を使おうとしていると言うことだ。



「大尉! よかった、ご無事でしたか!」


 そうしていると、目の前から一人の味方兵がかけてくる。その味方兵は、私の腹部を染める血を見て、顔を青ざめた。


「大尉、その怪我は!? 返り血、じゃないですよね!?」

「うるさい、大事無い」


 そういった瞬間、既に貧血になり始めているのか、体がふらついた。味方兵は、その姿を見て、しっかりと目付きを変える。


「全然大丈夫じゃないじゃないですか! 本陣へ戻りましょう。ギルトバード様も待っていらっしゃいます」

「本陣には、お前一人で戻れ。私は、まだやることがある」


 この嫌な気配を何とかしなくては、下手をすれば、このワイバーの地全てに被害が及ぶ。それは、避けなくちゃいけないんだ。


「ダメです、大尉!」

「―――ゴメン」


 これ以上騒がれると面倒だから、少し、眠っててよ。今の私、禁術で身体能力かなりあがってるから、動いたの見えなかったでしょ? 何も分からない間に、意識奪われたでしょ? いい子だから、そのまま眠っていて。

 だって、私はワイバーの奇跡なんだから、このワイバーの危機は救わなくちゃいけないよね。

 私は、英雄。私は戦場(ワイバー)の奇跡。


 ああ、一歩ずつ、確実に嫌な気配のするほうへと近づいてる。近づくに従って、この嫌な気配の原因が少しずつ分かってくる。これは、絶対に止めなくては。

 ―――だって、これは爆破魔術じゃないか。しかも、集まっている魔力量からして、範囲はワイバー含み、周囲の町もいくつか滅ぼせるレベル。

 その中心となっているのは、隣国の兵。それを悟った瞬間に、私は魔術を行使して、その敵兵を殺す。一秒ほど間を置いて、周りにいた兵がその兵の死に気がついた。そして、驚愕の目付きでこちらを見る。


「あ、あ、あ、悪魔だ! 悪魔が来たぁっ!」

「私はワイバーの奇跡、ウィン・ファリエル。消し炭になりたいものからかかってきなさい」


 静かに、冷静に敵兵にそう告げる。まぁ、向かってこないなら来ないで、無抵抗で殺すだけだけどさ。


「い、やだ! 死にたくない、助けてくれぇ!!」


 ………なんて、みっともないんだろう。何で、死を覚悟していない人間が、このワイバーに来たんだろう。もう、いいよね。こんな醜いもの、見ていたくないよ。


「ひいっ!!」


 一人、また一人と、ここにいる隣国の魔術兵たちの首を落としていく。なのに、この地に集まる魔力は、散る気配を見せない。………手遅れと言うことか。

 こうなると、とめるための方法は二つしかないが、その両方とも、今の私に出来るかが謎だ。


 この状態をとめる方法は二つ。一つは、同量の魔力を持って、相殺させること。

 そしてもう一つは、それを上回る魔力を持って、押し殺してしまうことだ。


 だが、今の私では、相殺させることすら微妙だ。何せ、ファーミンゲイルとの戦いに集中するのにかなりの魔力を使ったし、禁術を使うのにもかなりの魔力を消費している。その状態で相殺させられるか、と言われると無理と答えるだろう。

 だが、それは今じゃない場合は、だ。今はとめられるのは私しかいない。私がやらなければ、ワイバーも、周辺の町もこの魔術に巻き込まれて、滅んでしまう。


 自分に残された魔力を、一気に放出する。放出された魔力が、あたりに集まる魔力と相殺されて、少しずつ消えていく。

 そして、その消えていく量に比例して、私の視界がどんどんとグラついていく。最初は少し視界が滲む程度だったのに、今はぐらんぐらんと、真っ直ぐ立っていられないくらいに目の前が歪んでいる。

 でも、まだあたりに集まった魔力は完全には消えていない。寧ろ、殆ど残っている。この魔力量では、間違いなくワイバーを巻き込む。

 もう、爆破魔術自体を消すことは出来ないだろう。だから、少しでも被害を少なくするよ。

 爆心地になるここにいる私は、きっと生きていられないでしょう。爆発の影響と、禁術。この二つのせいで、私はきっと死ぬ。それはそれでいい。

 それで、この国の人を守れるのなら。それで、私がお父さんたちのところへ行けるのならば。


 私は、戦場の奇跡。

 戦場で魔術を纏い、敵陣へ単身突っ込んだ、魔術兵。

 ファーミンゲイル兄弟を殺した、オースティア国の、英雄。


 私はここで死ぬ。

 でも、後悔なんてしていない。


 だって、だって。これで、たくさんの人を、守れたよね―――?







 すぐそばで、耳を劈くような轟音が響いた。


次からエピローグ………予定。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ