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戦場の奇跡  作者:
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参戦


前話の手紙はフラグ。



「ウィルフィリア、すまないが、ワイバーの奇跡として、戦場に再度立ってくれないか? ワイバーに、強い敵将が配属されたらしく、兵の士気が著しく低いんだ。そこで、ワイバーの奇跡と呼ばれた君に、戦地に立って欲しい。そうして、兵たちの士気をあげてもらえないか?」



 陛下から命令と言う名のお願いを受けた数日後、私は激戦区、ワイバーに戻って来ていた。

 新たな猛将の派遣された地。私はここの兵を鼓舞するための存在(人形)らしい。

 ワイバーの奇跡、ウィン・ファリエル。それが、アルガディア大公爵家長女、ウィルフィリア・デル・アルガディアであることは、周知の事実。つまり、私は二重の象徴(エサ)だ。


 ―――兵士たちの憧れである、英雄。

 ―――貴族も戦地に立つと見せ付ける、貴族にとっての、人身御供のようなもの。


「ウィルフィリア、君はここにいるんだ。この地に来ただけで、伯父様の頼みは聞いた」

「え、嫌ですよ」


 まぁ、お目付け役のギル様もいらっしゃいますが。


「ウィルフィリア? 君は、アルガディア大公爵家の人間だよ?」

「それが何か?」


 戦場に立てば、貴族も庶民もありませんよ。


「言いたくはないが、民が望むのは英雄(シンボル)であり、(貴族)ではない。民も、貴族に戦わせたくはなかろう」

「関係ありませんよ。ワイバー(ここ)で考えるのは、戦えるか、否かです。私は戦えますから」


 激戦区では、一人の兵でも、大事な戦力なのだ。いても戦わないのならば、英雄の名が泣くでしょう。

 だから、ギル様? ギル様は大人しく、成り行きを見ていてくださいね?


「許せるはずないだろう。君が行くならば、俺も行くぞ」

「大佐」

「ギルトバード様、私はここでの指揮権を戴いております、リウ・リュヒア大佐と申します。以前、ウィルフィリア様の上官をしておりました」

「リュヒア大佐、何が言いたい?」

「私は、彼女の実力を知っています。そして、ここで生き延びるために必要な力も」

「回りくどい言い方はいい、要件を言え」

「大尉の参戦は、兵を鼓舞させましょう。ですが、あなたの参戦は、兵の気を削ぐ」


 ちょうど通りかかった大佐に助けを求めてみたが、お見事。というか、大丈夫ですか? ギル様。


「………るさない。ウィルフィリアの参戦など、許せるものか!」

「多くの民を失っても、大事な国民を奪われていいのですか? 国土を蹂躙させていいのですか?」


 ここで私が参戦すれば、兵たちの士気も上がり、先程言ったことを回避しやすくなる。逆ならば、言わずもがなだ。

 お父さんを殺したあの国を、私は許せない。だから、私は武器を持ち、戦地に立つ。それが、戦えないものたちを守ることになるのならば、尚更だ。


「大佐、お兄様をお願いします。誰か、案内をお願いします」


 私を、激戦の地へと。

 敵兵を屠る場所へと。


 私がまた、血に染まる場所へと――



 いやあ、反応が敵味方で真反対で面白いね。


「え、英雄様だ! ウィルフィリア様が参られた!」

「ウィルフィリア様万歳! 者ども、行くぞおっ!」


 味方からは宗教レベルの言葉が飛んでくる。


「ひいっ! あ、悪魔だ! ワイバーの虐殺魔が来たぞぉっ!」

「あ、あああ、赤い悪魔だ!」


 おいこら、悪魔言うな敵兵。ま、そう言ったやつの上半身と下半身、もう分かれてるけど。

 おかげで、味方からの好感度急上昇。味方の士気も急上昇。


「私はワイバーの奇跡、ウィン・ファリエル」


 後は、名乗りますか。


「体を真っ二つに分けられたい者だけ、かかってきなさい!」


 さあ、来い。片っ端から、切ってあげる。


「くそう、かかれ! かかれぇい!」


 甘い。甘すぎるよ。魔術兵への抵抗の仕方が、まるでなってない。これなら、魔術兵なら簡単に屠れるぞ。

 事実、私に襲い掛かって来た敵兵たちは、次々に見るも無残な姿へと変わっていく。


「ウィルフィリア様に続け! 勝機は我等にあるぞっ!」

「貴族様に先陣を切っていただいて、平気か貴様等ーっ!」

『おおおおおっ!』


 うおぅ、轟いとる、叫び声が轟いてるよ。怖いぞ、兵士等よ。

 おい、全員、周り見えてる? 目、イッてない? …………巻き添え喰らう前に逃げるべきかなー。

 いやー、敵を屠りながら考え事をすることになるとは思わなかった。でも、味方兵等よ、本気で危ないよ?


「このままでは不利っ! 撤退だ! 撤退ーっ!」

「逃がすな! かかれー!」


 下手に後追いするのも危ないんだけど、大丈夫か? ま、いっか。とりあえず今日はこの辺でいいって言うことにしておこう。

 今日は、とにかく目的は果たしたんだからいい。敵兵はある程度屠った。これで少しはこの地もマシになるだろう。


「オースティア軍、撤退せよ! 命令だ、撤退せよーっ!」

「くっ、命令は絶対だ、撤退するぞっ!」

「ウィルフィリア様、撤退しましょう!」

「分かっています。撤退して、作戦を練り直すべきですね」


 その後、撤退した私たちですが――――ギル様に捕まりました。


「ウィルフィリア、無事か? 怪我は無いか? ああ、無事に戻ってきてくれてよかった」

「心配しすぎですよ、お兄様。私は大丈夫です、戦場というものを知っていますから」

「心配くらいさせてくれ。僕だって、本当ならば君と共にいて、君を守りたかった」

「お兄様は無理です」

「分かってる。だから、心配しているんじゃないか」


 戻ってきてすぐの私を捕まえたギル様はそう仰るのだが、はっきり言いますが、ギル様、あなたが戦場に立てば、すぐに殺されますよ? ワイバーの敵は、そう簡単には屠らせてはくれない。私が簡単に屠っているのは、経験があるからこそ、やり方を知っているからこそなのだから。


「本当に怪我は無いか? その服についている血は、全部返り血か?」

「そうですから、離して下さい。血を洗い流しに行きたいんです」

「……っ、ああ、すまない。確かに、こんな血だらけでは気持ちが悪いだろう」


 ギル様、心配しすぎです。私は大丈夫だと、何度言えば分かってくださるのでしょうか。

 そして、私が血を洗い流すために浴室に向かいたいと訴えると、ギル様はあっさりと掴んでいた私の肩から手を離してくださいました。さて、お風呂に入って、血を洗い流しますか。

 ――――ですが、シーラ、ノイ、クロッカ? あなたたちは呼んでいませんよ?


「お手伝いいたします」

「いりません」

「ウィルフィリア様、敬語は」

「やめません」

「ウィルフィリア様ぁ」

「手伝いはいりません。強いて言うなれば、この服の洗濯を頼めますか?」

「………分かりました」


 貴族のお嬢様として生きるようになってから、この三人の前で服を脱ぐことに関しては、嫌々ながらも慣れた。だが、体を洗ってもらうのは依然として慣れないので、それは遠慮します。

 ですが、何も仕事を与えないとものすごく何ともいえない表情をするので、とりあえずこの服の洗濯をお願いします。


 ああ、体を伝う水が、うっすら赤い。どれだけ私が血に塗れたのか、これを見ればよく分かる。私がどれだけ敵兵を屠り、その血をこの身に受けたのか、嫌でも分かる。

 この、赤に塗れたこの身が嫌いだ。他者の血に汚れたこの身は、どれだけ流してもきれいにならないから。



「……ウィルフィリア様? 大丈夫ですか?」

「どうしました? ノイ」

「いえ、ウィルフィリア様が中々出ていらっしゃらないので、心配になりまして……」

「ご心配をおかけしました。もう少ししたら上がりますから、飲み物を用意しておいてもらえますか?」

「畏まりました」


 さて、私がずっとこうやって入っているから、心配をかけていたようだ。まだ、体が血に汚れているような感じがするが、これ以上入っていても心配を深めるだけだから、とりあえず今は上がることにしよう。

 とりあえず、上がってすぐのところでタオルをもって待っているシーラとクロッカは放置。ノイは、飲み物を用意してくれてるのかな。


「ウィルフィリア様、ホットミルクにリシュのジャムを頂いたので、入れました。疲れが取れますからどうぞ」

「ありがとうございます、ノイ。いただきます」


 疲労回復にいいリシュは、やはりこの戦地で重宝されていたか。しかも、今はしっかりとジャムになってるのか。私が少尉として立っている頃は、リシュは果実をそのまま食べるしかなかったのに。それがどれだけ酸っぱかったことか。

 ああ、ホットミルクにリシュのジャムは、味が柔らかくなっていいな。ホットミルクだけでも落ち着くけど、それにリシュのジャムの甘みが加わると、また美味しさが増す。


「美味しいです、ありがとうございます」

「それはよかったです。お代わりもありますよ?」

「いえ、今お代わりといただくと、食事が摂れなくなりそうなので遠慮します。食事を摂らないと、先生にも叱られますしね」


 まだ病気の完治を宣告されていない私は、大公爵様に、戦地に立つならばとしっかりと条件を付けられた。

 一に、ギル様と共にあること。そして、大公爵家侍医の推薦する医師の診察を、毎食後、受けること。ちなみに、その先生は私がワイバーの奇跡と呼ばれだした頃にお世話になっていたワイリー先生だったりする。

 ワイリー先生の怖さは、入院してる頃からしっかりと身にしみ込まされたからねー。たっぷり怒られたりとかしたからねー。今回も、しっかりと先に言われてるしね。


「食事だけは、絶対に、抜かずに食べること」


 だけって言うのが、私をよく分かっていると言うべきかな。


「そうでしたね。私たちも、ウィルフィリア様のお食事に関しては先生から伺っておりますし」


 ちなみに、ワイリー先生が私を診察した結果は、毎回ギル様に伝えられ、ギル様から大公爵家の侍医、大公爵様、シャーリット様方へと伝えられている。

 つまり、ちょっとでも異常が出ると、その瞬間にワイリー先生と大公爵家の侍医からのドクターストップ、ギル様、大公爵様、シャーリット様からの撤退命令が下る。

 それを避けるためにも、食事だけはしっかり摂りますよ? 一応、薬も飲みますよ? 飲まなくていいって言うなら飲まないんだけど。


「さあ、これを飲んだら少しお休みください。それから食事にしましょう」

「そう、ですね。何かあったら起こしてください」


 さて、久しぶりの戦場で疲れたし、ノイたちの言うとおり、一度寝よう。

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