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戦場の奇跡  作者:
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19/41

室内戦争


 さあお姉様、お散歩です。オルトを飲み終えて少しして、シルフィ様はにっこりと微笑みながら告げる。


「さあ、お庭を散歩しましょうお姉様」

「いえ、出来れば部屋で休みたい………んだけど」


 危なかった、また敬語になりそうだったよ。でも、それが本音なんですよ、シルフィ様。採寸で、シャーリット様をお相手するのに随分と疲れましたし、オルトだけではあまり休息にならなかったんです。

 だから、部屋で、一人(・・)でゆっくりしていたいんですよ。もちろん、メイドさんたちも抜きでお願いしたいですね、シーラ、ノイ、クロッカ?


「おかあさまぁ!」

「ウィルフィリア、せめてメイドくらいそばに置いておきなさい」

「しかし、メイドさんがいると落ち着かないんです」

「ダメよ。許しません」

「許してください」

「お母様、お姉様、無視しないでください!!」

「ああ、気にしないでね、シルフィ」

「気にしちゃダメよ」


 あ、無視されてたシルフィ様が反応したか。ですが、もうしばらく黙っていてくださいね。申し訳ございませんが。


「気になりますっ! ギルお兄様ー!」

「母様、ウィルフィリア」

「ゴメンね、シルフィ、ギル。もう少し黙っててね」

「俺もですか?」

「そうですね。申し訳ありませんが、ギル様も黙っておいてもらえますか?」


 今はシャーリット様を説得するための時間ですから、ギル様とシルフィ様は黙ってくださいよ。


「ふぅ。じゃあ、私は部屋にいますよ。一人で、いますね」

「シーラ、ノイ、クロッカ」


 シャーリット様、三人について行くよう言わないでもらえますか?


「三人とも、ついて来ないでくださいね?」

「ウィルフィリア様?」

「敬語は訂正しませんよ? いいからついて来ないでください、一人になりたいんですよ」


 だから、いちいちついて来ようとしないでください。何かあれば呼びますから、それまでは放置していてもらえますか。

 ………だから、ついて来ないくださいと、言っているでしょう? シーラ、ノイ、クロッカ。


「ウィルフィリア、三人は連れて行きなさい」

「嫌です」

「ダメよ」

「嫌だって言ってるじゃないですか。一人になりたいときもあるんですから、放っておいてください」


 だが、やはりシャーリット様は一人でいるということは許してはくれなかった。とにかく、シーラやノイ、クロッカを連れて行かせられた。……ちっ。

 もういい。ベッドのカーテンを閉めて、徹底的に外界と自分を遮断して、寝てやる。


「ああっ、ウィルフィリア様ぁ」

「呼ぶまで、絶対に近寄らないでくださいね」

「ウィルフィリア様」

「知りません。敬語でいいでしょう、もう。面倒くさい」


 だから、呼ぶまでは絶対に近寄らないでください。まぁ、基本的に呼ばないでしょうがね。

 これなら、誰かをそばに置いておくと言うものだけは聞いてるよ?


「邪魔したら、後で暴れる」

「……何かありましたら、遠慮なくお呼びください」


 よし、諦めたね。……さて、寝るかなー。寝てれば時間も過ぎるし、体力も回復するしね。



「おーねーえーさーまー! お休み中申し訳ございませんが、起きてくださぁい!」

「………シルフィ、様?」

「お姉様!」

「……おやすみなさい」

「起きてくださいったらぁ!」

「寝かせてください、眠いんです」

「敬語はやめてください! そして起きてくださいったら!」


 いつの間にかぐっすりと寝ており、シルフィ様の声で目が覚めた。が、まだ眠たいので寝かせてください。


「食事の準備が出来ているんです、起きてください!」

「ご飯いりません。寧ろ寝かせてください」

「おねえさまーぁ」


 うう、うるさいですシルフィ様。いいから寝かせてください、起きるのも億劫なんです。



「……リア? ウィルフィリア?」


 ……次は、ギルトバード様ですか。どうしてこのご兄弟は、揃って私を寝かせてくださらないのでしょう。


「大丈夫か? ウィルフィリア。調子が悪いのか?」

「は………い?」

「具合が悪いから、起きられないんじゃないのか? 少し、こっちを向いて?」


 ギル様はそう言って、私に自分のほうを向かせ、私の額に手を置いた。


「熱は無いようだな。一応侍医を呼んだから、診てもらいなさい、いいね?」

「遠慮します」

「診てもらえ」

「遠慮します」

「診てもらえっつってんだろ」

「遠慮します。それより、口、悪いですよギル様」

「悪かったな。大体、自由奔放な母と妹を諌める立場としては、たまにはそうやって素で言いたくもなるんだ」


 ああ、なるほど? でも、侍医の診察はいりません。大体、最近やっと診察の頻度が減ってきたのに。一番最初の一日毎食後の診察から、一日二回、一日一回、二日に一回、とじわじわと減ってきてるんだから、診察を受けなくていい日に診察を受けるつもりはありません。

 というわけで、また寝るか。ギル様、侍医は呼ばないでくださいね? そして、もう起こさないでください。ぐっすり寝たいです。

 しかし、ギル様も苦労人だなぁ。自由奔放なシャーリット様、シルフィ様をお諌めするのはギル様のお役目なのですね。



「ウィルフィリア様、起きてくださいね」

「……………寝かせて」

「寝ている間に診察を進めてもかまいませんか?」


 ……もう、勝手にして。とにかく寝かせろ。



 ちなみに、目が覚めたら周りにはシャーリット様、シルフィ様、ギル様のみならず、大公爵様やジーン様までいらっしゃいました。


「大丈夫か? 調子が悪いと聞いて、飛んで帰って来たよ」

「無理はしないようにと、いつも言っていただろう? ほら、起き上がらないで」


 ………このお二人に、私が調子が悪いと嘘を言ったのはどこのどちら様でしょう? 調子は悪くありませんよ? ただ、眠たいだけで。


「それが、調子が悪いと言うんじゃないのか? 医師の診断によれば、疲れが溜まっているんだろうとのことだ。少し休んでいなさい」

「確かに疲れましたけど、大丈夫ですよ?」

「ご飯も食べなくていいと思えるくらい、ひどいのにか?」


 いえいえ、ご飯前にオルトを飲んだから、それでお腹に溜まっているだけですから。だからご飯、別にいいかな、と思っただけです。


「確かに熱も無いようだ、安心した」

「大丈夫ですよ」

「いいから休んでいなさい。ただし、消化のいいものを一口くらいは食べるんだ」

「遠慮します」

「食べなさい。父として、私からの命令だ」

「申し訳ございませんが、逆らいます」

「シーラ、ノイ、クロッカ」

「はい。ウィルフィリア様、麦を柔らかく煮込んだリゾットを準備しております」

「食べませんよ」

「食べてください」

「いりません」

「食べてください」


 シーラ、ノイ、クロッカ? いつの間に麦のリゾットなんて準備した。


「リシュの実を入れましたから、体力の回復にいいですよ」


 リシュの実か。リシュとは、疲労回復に言いといわれている果実である。リシュの果実は、普通に食べる分にはすっぱいが、火を通すと甘みが出るため、リゾットという料理法以外でも、砂糖と一緒に煮込んでジャムのようにすることもある。

 どちらにせよ、体力の回復に言いといわれているため、軍にいるころにもよく食べていた。……そのまま。おかげですっぱかったっけ。


「いりません」

「食べてください」


 シーラ、ノイ、クロッカ。諦めてくださいよ、いい加減。私は食べないといっているでしょう? 大公爵様、あなたも命令しないでください。


「食べないというのなら、また、侍医に診てもらうよ?」


 また? ああ、そう言えば、ギル様が一度、侍医を呼ぶから診てもらえ、と仰ってましたね。そのあとに寝たんだけど、寝てる間に来たのかな。


「食事と、診察どちらを取る?」

「………おやすみなさい」


 どちらも取りません。とにかく寝ます。

 だから、人の睡眠の邪魔はしないでくださいね? 次、起こされたら本気で暴れますから。

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