採寸と対峙
王都を少し散策して家に戻ると、いつの間に連絡が行ったのか、シャーリット様がメイドさんと一緒にニコニコ微笑みながら、メジャーを持って待っていた。
あの、シャーリット様、メイドさんたち? 何でそんなにニコニコと微笑んでいらっしゃるのです? その手にあるメジャーが、何となく恐怖を誘うんですが、気のせいですか?
「お帰りなさい、ウィルフィリア、シルフィ、ギル。さ、二人はこっちへいらっしゃい。新しいドレスを作るんでしょう? 採寸しなくっちゃね、ほら、きっちり測って可愛いドレスを作りましょうね」
「いえ、あの………」
「そうですね。お母様、もう採寸の準備は出来ているのでしょう?」
「もちろんよ」
ちょ、なんかきっちり根回しされてる! シルフィ様、何でこのシャーリット様とメイドさんたちを見て、にこやかに反応できるの!?
「さ、行きましょうね、ウィルフィリア、シルフィ」
「そうですね。お姉様、参りましょう」
シルフィ様、手をしっかりと掴んで引き摺らないでください! シャーリット様、いろんな意味で幸せそうな笑みを浮かべないでください!
シャーリット様、その笑顔が怖いんですよぅ! 怖いですから! ほんっとうに、怖いんですよ!
「怖がらなくていいのよ、ウィルフィリア。じっとしてればすぐに採寸は終わるわ」
「いえ、そうではなく……」
怖いのは採寸ではなく、シャーリット様、あなたご自身です。
「さあ、お二人とも脱いでくださいね」
「え、いや、ちょっと待って……」
ちょっと待ってください。最後まで言い切れず、抵抗も許されずにシャーリット様に着ていた服を脱がされ、下着姿にされてしまった。……は、恥ずかしい。
「恥ずかしがる必要はありませんよ。私も同じです」
「シ、シルフィ様……」
「お・ね・え・さ・ま?」
「シルフィ」
「それでいいのです」
先生! 先生がここにいます!! 厳しい教師がここにいますよぉ!!
「さあ、ウィルフィリア様、シルフィ様、サイズをお測りしましょうね」
って、メイドさんたち! そんな場所触らないでください! あ、ちょ、セクハラでしょうそれ!
「動かないでください。正確に測れませんから」
「いや、でもっ!」
「いいから動かないでくださいね。奥様、申し訳ございませんが、ウィルフィリア様が動けないよう、押さえていただけますか?」
「あら、いいわよ。ウィルフィリア、動いちゃダメよ?」
「シャーリット様!」
「お母様」
「うっ! お、お母様……」
うう、シャーリット様、押さえないでください! ちょ、手が胸に触れてます! また、またですか、これええぇぇぇぇえ!!
「動いちゃダメよー?」
「お、お母様! 手! 手が!!」
「手がどうかした?」
「手が、胸に行ってます! お願いですからやめてくださいいいぃ!」
「いーや。こういうときに娘の成長を見なくてどうするの」
「お願いですから離してくださいー!」
うわあん、シャーリット様、胸揉んでますから! 女同士って言っても、これはちょっと、セクハラの域ですからっ!
「お姉様のほうはまだ終わらないんですね」
「あら、シルフィ。もう終わったの?」
「はい、何の滞りもなく。お姉様は、苦労してらっしゃいますね」
「ウィルフィリアは動いちゃうからね。シルフィも手伝って」
んげ! シルフィ様まで私を押さえる人間にっ! も、もう早く終わらせる方法を選んでやる! 必死で、耐え抜く!!
「あら、急に動かなくなったわね」
「こちらとしては測りやすくていいですね。ウィルフィリア様、このままジッとしていてくださいね」
が、頑張ります!!
「お疲れ様でした。オルシュを用意しましたよ、どうぞ」
採寸が終わってリビングのソファーに埋もれていると、メイドさんがそう言ってテーブルにオルシュを置いた。オルの果実をミルクで割ったオルシュは、オルガと並んで子供向けなのだが、うん、子供扱いだよね。まぁ、事実未成年だからそれでいいのか?
………結論付ける、美味しいからそれでよし。オルシュは癒される感じがするなー。
「それにしても、ウィルフィリアは痩せすぎね。もう少し食べなさい」
「いえ、あれで限界です」
「ダメよ。もう少し食べなくちゃ、病気も善くならないわ」
「十分食べてますから。ここのご飯、美味しいですし」
だから、それ以上に食べるように言わないでもらえますか? 今、十分に食べてますから。この家の食事、病院のご飯と比べるとよっぽど美味しいから、そのときよりはかなりいっぱい食べてますよ?
ついでだから言いますが、ここに来て、体重も増えましたよ? ……まあ、食っちゃ寝の生活だったしね。病院いるころから、立派に食べて寝ての生活だったんだしさ。おかげで筋力も落ちたけどね。
「あれでは食べてるとは言わないわ。ねぇ、シルフィ?」
「そうですよ。もっと食べなきゃ、元気になれません!」
「いえ、食べてますから」
ホント十分に食べてますから、これ以上食べさせようとしないでください。とりあえず今は、オルシュ美味しい。んまんま。
「お? ウィルフィリア、シルフィ、それ、何だ? オルガ……にしては白いな。オルシュか?」
「ギルお兄様! ふふ、内緒です。当ててみてください」
「うーん、ま、オルシュだろうな」
「随分あっさりと当てられてしまいましたね、シルフィ?」
「お姉様、敬語!」
「ああ、そうだったそうだった。これでいいです?」
「だから、敬語はやめてください!」
ああ、やっぱりどこかで敬語になってしまいますね。シルフィ様、少しくらいは容赦してくださいね。
「俺にはオルトをもらえるか?」
「はい、少々お待ちください」
そう思っていると、いつの間にかギル様がメイドさんにオルトを、水で割ったオルの果実ジュースを、オルトを頼んでいた。
「ウィルフィリア様、シルフィ様もお代わりは如何ですか?」
「あ、欲しい!」
「はい、少々お待ちください、シルフィ様。ウィルフィリア様は如何ですか?」
「あ、まだあるからいい……」
ですと、続けて敬語にはしない。敬語にしたら、その瞬間にメイドさんたちの誰か、若しくは、シルフィ様、ギル様、シャーリット様からの注意が走る。
「せめて、もう一杯くらいお飲みください。そのくらいの栄養をおとりになられてください」
「いや、でもこれ以上飲んだら、ご飯食べられなさそうだし」
「このくらいでしたら大丈夫ですよ。そう仰るのでしたら、飲まれた後、シルフィ様と一緒にお散歩でもしていらしたら如何です?」
「そうしましょう!」
うぉぅ! シルフィ様の反応が怖い!! シルフィ様が乗り気すぎる!!
「そうしましょうお姉様! 是非、お散歩をしてお腹を空かせましょう!」
「いえ、そのくらいなら……」
飲まなくてもいいんですが……。って、メイドさん、いつの間に私のカップにオルトを追加してるんですか!! 飲みませんよ!? いやだから、飲みませんってば!
「飲んでくださいね」
「飲みなさいね」
「飲むんだよ、ウィルフィリア?」
え!? ちょ、何でメイドさんのみならず、シャーリット様とギル様も!?
「ほら、飲みなさい」
ちょ、目の前で飲めと言わんばかりのその目はやめてください!
……………はい、勝てません。渋々ながら、カップに入れられたオルトを一気に口に含み、飲み込んだ。
うえ、お腹いっぱい。
どこからどう見ても
セクハラなお話でした。
母、独走。