お披露目?
うわぉ、お久しぶりです、ジーン様。今日はどうなさったんですか? お珍しいですね、家に戻っているなんて。とりあえず、私はこの兄弟団らんの場から逃げてもかまいませんか?
とりあえず、こそーっと席を立ち、さりげなく部屋を出れないか画策してみる。
「どこへ行くんだ、ウィルフィリア」
が、あっさりとジーン様にバレた。ジーン様、目が怖いです。はい、席に着けということですね、分かります。
「ほら、おいでウィルフィリア。オルガを準備してもらった、飲みなさい」
私が渋々ながら席に戻ると、ギル様がそう言って、オルガを下さる。
ちなみに、オルガというのは、オルという果実のジュースで、中に入っているモノによって呼び方が違う。例えば、オルガだとハチミツが入っていて、オルトだと水割り、オルレだとお酒が入っているため、私には飲めない。お酒を飲んでいいのは、成人して体と、お父さんたちに口をすっぱくして教え込まれたしね。
今回ギル様が用意してくださったのはハチミツの入ったオルの果実ジュース。甘くて美味しいです。
「もっと飲みたければお代わりもあるから、遠慮なく言うんだよ」
「はい。ありがとうございます、ギルさ……ギルお兄様」
優しく告げてくれるギル様に、ついつい、ギル様と呼びかけた。ギル様と呼んでいいのは、私の心の中だけだ。口では、ちゃんと兄と呼ばねば、うん。
「さて、今日は何故僕がいるか、不思議に思っているようだね、ウィルフィリア」
「………」
「ああ、隠さなくていい。と言うか、表情がそのとおりだと言っている」
「う!」
もう少しポーカーフェイスを覚えるべきかな、あっさりとジーン様に考えを読まれてしまった。
でもまぁ、確かに疑問なので、教えていただけるのなら嬉しいです。
「至極不満だが、伯父様から命令が下ってね。来月、城でパーティを催すから、参加しろとのことだ。―――事実上、君の発表だな」
うえ!? 何で? え、陛下、何故私の発表で、陛下がパーティを開催するんですか。
「ああ、安心しろ、まだ本決まりじゃない。ウィルフィリアが陛下に直接頼み込めば、そのパーティをやらなくなるかもしれないぞ」
「文句を言いたいなら、城に戻るときに一緒に連れて行くが、どうする?」
「パーティは嫌ですが、陛下に直接何か告げるのは、さすがにちょっと……」
「なら、一応一緒においで。言いたいことは大体分かるから、僕が言ってあげよう。ウィルフィリアは、いるだけでも効果があるはずだ」
「ジーン兄様、僕も行きたい!」
「私も! 私も行きたいです、お兄様!」
ジーン様、いるだけで効果があるって、どういうことですか。そしてギル様、シルフィ様、何故にあなた方も行くんですか?
……っていうか、私は一言も行こうとは思ってないんですが。
「まあ、明日の昼から登城するから、一緒に来なさい。ギル、シルフィ、お前たちも行くんだろう?」
「はい!」
「私もですっ!」
あぁ、私が意見を言う暇もなく、あっさりと行くことが決まってしまったようだ。
うわぉ、ギル様もシルフィ様も、やる気たっぷりだ。
そして翌日、昼。仮病を使おうとも考えたのだが、それをするとある意味、恐ろしい感じもするのでやめた。
結果、お昼ご飯を食べてすぐにシーラたちに捕まり、ドレスを着せられ、そして着替え終わるとすぐにジーン様に捕まった。
「さあ、行こうか?」
「………はい」
ジーン様、その笑顔が怖いです。
「大丈夫だよ、伯父様は言えば聞いてくださるから。ね?」
うう、ジーン様の恐怖の笑顔を受けた後のギル様の笑顔は、本当にお優しい。
「私もお手伝いしますから!」
ありがとうございます、シルフィ様。そのグッと力の入った手が可愛らしいです。
「ほら、早く馬車に乗って。伯父様が待ち草臥れているよ」
そしてジーン様、やっぱり怖いです!!
「兄様、ウィルフィリアを怯えさせないでくださいよ」
「ん? 怯えさせているつもりはないぞ?」
「事実、怯えてるようですよ?」
ギル様、気づいてらしたんですか!? いやだからジーン様、怖いです、怖いですって!!
「何故そんなに怯えるんだ?」
「いえ……」
「今後のために、是非教えてくれ」
そう言われても何故怖いのか分からないんですよ。ただ何となく、恐怖を感じるんです。
だから、そんなジッと見ないでください! うう、ギル様、隠れさせてくださいお願いします!!
「これは、さすがに傷つくな」
「申し訳ありません。ですが、説明は出来ないですが、怖いんです」
「僕としては、頼ってもらえて嬉しいな」
「まったく、ずるいぞ、ギル」
「ウィルフィリアを覚えさせた兄様が悪いんですよ」
すみません、ギル様。この中では、ギル様が一番頼りになるんです。
だって、ジーン様は怖いし、シルフィ様は年下だし、寧ろ守りたい感じだしね。
「まあいい。あぁ、そうだ。城に行くんだ、父様にも挨拶に行くんだよ、ウィルフィリア?」
う! 来た、苦手な人もう一人、大公爵様。シャーリット様もだけど、未だに親とは思えないんだよなぁ。あくまで、私から見れば貴族様って感じで。
私の中では、私の両親はファリエルのあの二人でしかないから。時が流れれば少しは変わるかもしれないけど、今はまだ、そうなんだ。
だから、はっきり言うと、大公爵様もあまり会いたくはない。シャーリット様は大分慣れてきたけど、大公爵様を前にすれば、どうしても緊張しそうなんだよね。
「父様も怖くはない。恐れなくていい」
「すみません、ジーン様」
それが、また顔に出てたかな。ジーン様が、慰め? 励まし? とにかく優しい言葉を下さった。
「何かあれば、またギルに隠れればいい。そうすれば、ギルも、僕も守る」
「はい。ありがとうございます」
本当に、お優しいな、この家の方々は。ジーン様は怖いけれど、かけてくれる言葉は本当に優しいし、ギル様はさっきからよしよしと頭を撫でて下さっているし、シルフィ様は、大丈夫とでも言うかのように、私の手をその両手で握ってくださっている。
うん、大丈夫、大丈夫。私は一人じゃないんだから。私のそばには、ジーン様も、ギル様も、シルフィ様もいてくださる。だから、大丈夫だ。
「ありがとうございます、ジーン様、ギル様、シルフィ様。もう、大丈夫です」
「そうか、それはよかった。そして、ジーン兄様、だ。ジーン様じゃない」
「僕もだな。まだ、慣れないか?」
「私もシルフィです。シルフィ様と呼ばれても、反応しませんよ?」
あ。ナチュラルに様をつけて呼んでしまっていたか。とりあえず、ギル様の反応が一番優しいかな。シルフィ様、お願いですから反応は返してください。
「……もう、城までそんなに時間はかからないな。さあ、心を決めておきなさい」
………今さらながら、帰りたい。