表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場の奇跡  作者:
今を進む
15/41

王都近辺探索


 そして結局、しっかりとシルフィ様と手を繋がされたままで馬車に乗り込み、王都近辺のアルガディア大公爵家領地内にある、商店街に来ていた。

 ……うおぅ、人いっぱい! 店いっぱい! 知らないものいっぱい! 都会ってすごいな!! ……あれ! アレなんだろう、見たこと無い!!


「ウィルフィリアったら、可愛い」

「お姉様、楽しそうです」


 ―――…………っは!! しまった、このお二人の存在をきれいさっぱり忘れて、自分の興味に集中してたよ! 危ない危ない。


「すみません、興奮しすぎました」

「いいのですよ、お姉様。このような街は、初めて見たのですか?」

「ありがとうござ……、ありがとう、シルフィ」


 ふう、やっぱり少しほかの事を考えると、すぐに敬語になってしまう。シルフィ様のじとーっとした目から避けるには、頑張って普通に話さなくては。

 事実、頑張って普通に話したらシルフィ様がすっごく嬉しそうな表情を見せてくださるしね。


「ウィルフィリア、シルフィ。どこか、行きたいところや見たいところはある?」

「お姉様の行きたいところで!」

「ウィルフィリア?」

「あの、そう言われても、何があるのか分からないので、何とも……」


 そう思っていると、今まで黙っていたシャーリット様が、空いた私のもう片方の手を握り、言う。ちなみに、振りほどこうとしても振りほどけませんでした。シャーリット様、意外と強いですね。

 そして、シルフィ様? 私に任されても、この街のことは全然分かりませんから、何とも言えませんよ?


「じゃあ、シルフィ。ウィルフィリアに見せたいもの、何かおっしゃい」

「えっと、んっと……」


 え? ちょ、シルフィ様、歩きながら考えるんですか? と言うか、私は両手がお二人の手で塞がっているので、大変歩きづらいんですが、考慮してくれそうもないですね。

 それに、シルフィ様もシャーリット様も、楽しそうにしてらっしゃるから、伝えようにも伝えづらいんだよね。ちなみに、護衛の兵士さんたちは、その様子に気づいたらしく、温かな瞳で見つめられましたが、気づいたなら進言してください。



「着きましたよ! お姉様、見てください」


 しばらく歩いて、ようやくシルフィ様は歩みを止める。そうして、見てくださいと言われ、シルフィ様の指差すほうを見てみると、……圧巻だった。


「ここは、ジェムの茶葉屋です。先ほど飲んだレッティに使った茶葉も、ここで買っているんですよ」

「へえ、すごいですね……」


 そう思いながら、店内に置いてある茶葉の一つに手を伸ばす。が、それは、その手を繋ぐシャーリット様に止められた。


「ダメよ、ウィルフィリア。ここの茶葉は、気温、湿度などを考えて、そこに置かれているの。動かしたら、茶葉がダメになってしまうわ」

「そうだったんですか」


 なるほど、そういう理由があったのか。それはそれは、絶対に触っちゃいけないよね。

 しかし、茶葉にもきちんと管理方法があったのか。家の茶葉って、確か直射日光が当たらないように、くらいのことしか考えてなかったもんなぁ。………お手ごろ価格の茶葉だったし。


「おや? 元気な声が聞こえると思っていたら、シャーリット様ではありませんか。それと、シルフィ様に…………、まさか、ウィルフィリア様?」

「ええ」


 店の奥から、一人の男性が出てきて、シャーリット様に挨拶をする。そして、シルフィ様にも挨拶をして、そして視線が私に移り……、しばらく止まった。

 そして動き出したかと思うと、すごい速度で店の奥へと戻っていく。―――何!?


「父さん! 父さん!! ウィルフィリア様だ、戻ってこられた!」

「何ぃっ!」

「来てみろ、いいから!」


 うおぅ、すっごいばたばた音を立ててるんだけど、何事?


「ウィルフィリア様! よく、よくぞご無事で……」

「あ………」

「この爺、ウィルフィリア様にこれをお返し出来る日を、夢に見ておりました」


 そして、店の奥から出てきた初老の男性はそう言って、私に何かを差し出した。……これは一体、何でしょう?


「これは、ウィルフィリア様が誘拐されたその日、身につけておられたものです。店の前に、落ちておりました」

「ゲイリー、あなた、まだ持っていてくれたのね」

「もちろんです、シャーリット様。この手でいつか、必ずお返しすると決意し、持っておりました」


 曰く、これは小さい頃私が使っていた帽子で、誘拐されたその日、しっかりと被っていたものらしい。

 私の被っていた帽子は、迷子防止を兼ねてか、アルガディア大公爵家の紋章が刺繍されていた。犯人は、そこから私の身元が分かることを恐れて、帽子を取って捨てたらしい。それが、この店の前にあったということだ。


「あの日、私がこの帽子が店の前に落ちていることにもっと早く気づいていれば、ウィルフィリア様誘拐の場面をしっかりこの目で見、ウィルフィリア様をお早くご家族の元へ戻すことが出来たかもしれないと、ずっと思っておりました。ですが、今、こうやって本来の持ち主にこの帽子を返すことが出来て、本当に幸せです」

「何度も、捨ててもかまわないと言ったのに、持っていてくれたなんてね」

「捨てられるはずがありません。ウィルフィリア様は、絶対にお戻りになられると信じておりましたから」


 初老の男性はそう言って、私にしっかりと帽子を手渡そうとするのだが、私の両手、シャーリット様とシルフィ様の手で塞がってるんだよね。

 そう思っていると、その意思が伝わったのか、お二人がほぼ同時に私と繋いでいた手を離した。


「えっと、その、ありがとうございます」

「そのお言葉だけで、もう、最高の幸せです」


 小さな帽子。この手に受け取ると、その小ささがよく分かる。

 私が、ウィルフィリア・デル・アルガディアが誘拐されたのは何歳の頃だったろうか。私の記憶に残らないほど幼い頃。シルフィ様は、お生まれだっただろうか。

 小さい頃の私は、一体何をしていたのだろう。小さい頃も、街へ出てきたり、していたのだろうか。


「お姉様、そろそろ行きましょう。まだ、お姉様に見せたいものがあるんです」

「ああ、すみませんシルフィ様」

「シルフィです」

「ああ、重ね重ねすみません、シルフィ」

「むー、まだ敬語ですけど、あまり気にしないことにします」


 ありがとうございます、シルフィ様。ところで、次はどのお店へ行くのですか? 尋ねてみるのだが、答えが返って来ることはなかった。

 そして、歩き出すとすぐに、帽子はシャーリット様に奪われ、兵士たちの下へ行き、そして私の両手は、しっかりとお二人と手を繋ぐことになった。


 その後、いろいろな店を回ったのだが、その全てで驚かれ、喜ばれ、本気で大変な一日でした。

 あー、久しぶりにこんなに歩いたから、明日は筋肉痛かな。



そしてやっぱり、翌日に

筋肉痛に襲われたウィルフィリアであったとさ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ