これを夢だと思いたい
何で、私の目の前に国王陛下がいらっしゃるのでしょうか。
「うん、久しぶりに会ったけど、やっぱりウォルフにも似てるよね。シャーリットだけに似たかとも思ったけど、やっぱりウォルフにも似てて安心した」
「あの………、陛下?」
「伯父様」
「……陛下?」
「伯父様だって言ってるだろう? そう呼ばないと、反応しないよ」
「お、伯父様……」
「うん、なんだい?」
陛下、何てお茶目な方なんですか。っていうか、何でいるんですか?
「せっかく戻ってきた姪に、会いに来てなにか悪いかな?」
「ですが……」
「何? 臣下と王の立場とか何とか言ったら、また何回もこうやって来るからね」
「なんでもないです……」
まさにそう言おうとしてたしね。しかも、私、この家に戻る前は完全に庶民だしね。だから余計、そういうのを考えちゃうんだよね。
「ならいい。しかし、本当に戻ってきてくれてよかったよ。……ファリエル中佐に、感謝しなくては」
「父を、ご存知なのですか?」
「ああ。ウィルフィリアのことを漁っていたのが、報告で上がってきていたからよく知っている」
「母からの手紙で、父がウィルフィリア様のことを調べていたとは、聞きました」
調べて、調べぬいた結果、お父さんたちの中でも私はウィルフィリア様だと言う結論に至ったのだろう。
「それが、よからぬことを企んでいると考えた私たちは、愚かだったんだろうな」
「どういう、ことですか」
「ファリエル中佐が、ウィルフィリアのことを調べている、つまり、またアルガディア大公爵家に何かを起こすために調べているんだと、思ったんだ」
「じゃあまさか、お父さんがワイバーに配属されたのは……」
「私の指示だ」
考えたくなかった。でも、これで理由がはっきりした。家族がいる人は、激戦区、ワイバーには配属されない。
立派に家族のいたお父さんがワイバーに配属された理由、それは、私のせいなのだ。私がいたから、私が、ウィルフィリア様だったから、お父さんはワイバーに配属され、ファーミンゲイルに殺された。そしてお母さんは、自殺した。
「あぁ、すまない。泣かせるつもりはなかったんだ」
陛下がそう仰りながら、ハンカチを取り出して私の頬を伝っていた涙を拭う。
「君の育ての親の自殺の原因も、ウォルフに聞いた。本当に、申し訳ない」
謝らないでください、陛下。あなたは王。王たるものが、一般庶民の私に、頭を下げないでください。
「姪っ子に謝って何が悪い? 私が、君から育ての親を奪ったのだから、このくらい当然だ」
「ひょっとして、私の二階級特進は、コレも関わってますか?」
「ああ、ファリエル大尉か。僅かだが入っているが、大半は、ファーミンゲイルを斃したことを称えた結果だ」
……ていうか、私がウィルフィリアだと分かったのって、本当にいつだったんだろう。ワイバーに行ったときは当然ながら、分かっていなかっただろうし。
「ワイバーの奇跡、ウィン・ファリエル。国としては、ファーミンゲイルを倒してくれたのは嬉しいが、伯父としては、そんな無理をしないでくれと、言いたいな」
「すみません」
「ああ、責めている訳ではない、すまないね」
私がファーミンゲイルを倒したのは、ただの自己満足に過ぎない。とにかく、お父さんを殺したあの国が許せなかっただけ。
「理由がどうあれ、君は英雄だ。君がファーミンゲイルを討ったことによって、ワイバーも激戦区ではなくなり、兵の被害も減った。君のおかげなんだよ、ウィルフィリア」
知らない、分からない。私はただ、ファーミンゲイルを討ちたかっただけ、敵国の兵を滅ぼしてしまいたかっただけ。それなのに、英雄とはこれ如何に、って感じだよ、もう。
「陛下、私は英雄ではありません。私はただの、私利私欲に塗れたただの人間です」
「伯父様だと言っているだろう。それに、人間誰しも私利私欲に塗れていたりするものだ」
「しかし」
「しかしも何もないさ。君は英雄だ。ただ、もうしばらく安静が必要で、民に顔を出したり出来ない、英雄だ」
なんだよ、それ。私は英雄なんかでいたくない。貴族でもいたくない。でも、私がアルガディア大公爵家に戻るのは、お母さんの願いだったから。
「さあ、病気が落ち着くまで、きちんと医者やウォルフ、シャーリットの言うことを聞いて、いい子にしているんだよ?」
「はい」
「じゃあ、私は帰るか。また来るよ」
「あ……」
「見送りはいい。横になったままでいなさい」
「すみません、失礼します」
むむ、お話の間は命令で横たわったままだったから、見送りくらいはきちんと起き上がってやりたかったのだが、陛下からはまた制止の声が飛んできたか。
「ウィルフィリア、陛下とどんなお話をしたの?」
あの、シャーリット様? 目が怖いですよ?
「お姉様、私も聞きたいです。伯父様とどんなお話をされていたんですか?」
「僕も聞きたいね。伯父様がわざわざ人払いまでしたんだ。何を話したのか、僕も知りたい」
シルフィ様、ギルトバード様、あなた方もですか。
「大したことはお話していません。ただ、私の育ての親のことと、私の階級の特進の理由をお尋ねしていただけです」
本気で疑問だったんだよ、殉職もしてないのに、二階級特進って。だから、それに関して話していただけですよ?
だから、その目やめてください、シャーリット様!!
「だって、陛下ばかりウィルフィリアと二人で……」
「そんなの、僕らも思いますよ!」
「私もですっ!」
何このお子様三人。……って、シャーリット様! さりげなくベッドに登ってこないでください!!
「母様、ずるいです!」
「いいじゃない、ギルやシルフィは、小さい頃はよく一緒に寝てたけど、ウィルフィリアはそれが出来なかったんですもの」
だからですか。………ま、いっか。誰かと一緒に寝るって言うのも久しぶりだし、ベッドも暖かいしね。
「ウィルフィリアも嫌がってないようだし、いいでしょ、ギル?」
「え? ウィルフィリア、いいの?」
「はい。別にいいかな、と」
そう言ったら、シャーリット様に抱きしめられたけどね。……シャーリット様、手! 手がどんどん上に来てる! ちょ、胸触らないでください!!
「うーん、まだ成長期、かしら?」
「シャーリット様!!」
「お母様」
ちょ、必死の訴えに、そんな修正入れないでください!
「お、お母様! お願いです、やめてください!!」
「あら残念」
残念って、何ですかシャーリット様。
とりあえず、シャーリット様のおかげで疲れたので、少し休むことにします―――