来訪者は偉い人
そうして、少しフラフラとしながらも、迷わないようにゆっくり、シャーリット様やギルトバード様、シルフィ様と一緒に庭を歩いていると、突如、知らない人が目に映る。
この方は一体どなたなのか。そう思っていると、突如シャーリット様が膝を折る。そして、ギルトバード様とシルフィ様は、軽く腰を曲げ、頭を下げた。このお三方がこのような態度を取る方、つまり、この方は、王子殿下ということか。
「お前がウィルフィリアか。……確かに、面影がある。あぁ、無理に傅こうとしなくていい。傷に響くだろう」
「ありがたきお言葉です」
「だから、そう傅くなといっている。俺とお前は、いとこ同士だぞ。ギルやシルフィくらいの態度でいいんだ」
「しかし」
「俺がいいと言っているからそれでいいんだ」
「ロイズ、無理をいいすぎだ。ウィルフィリアは、まだ僕たちにも敬語なんだぞ? それを、王子であるお前が先に、気軽に話しかけられるはずがないだろう」
ギルトバード様、王子殿下にそのようなお言葉遣いで、本当に問題がないのですか。いくらいとこと言えど、いくらギルトバード様、あなた方にも王族の血が流れていると言えど、臣下の立場ですよね?
「お気になさらなくて結構ですわ、お姉様。伯父様も、お従兄様方も、みな、このような方なのです」
国王陛下、あなたもですか。
「あぁもう、なら、まだ傅いていてもどうでもいいから、とにかく、ウィルフィリアと話させろ、愛でさせろ!」
「シルフィ、ウィルフィリアを車椅子に戻して、その車椅子を押して、こっちに来てくれ」
「はい。お姉様、車椅子に戻ってください。ロイズ兄様のところへ行きましょう」
ロイズ。それが殿下のお名前。つまりこの方は、第二王子であらせられる方か。
「やあウィルフィリア。病気のほうは大丈夫?」
「お気にかけていただき、ありがとうございます、ロイズ殿下」
「出来れば、シルフィと同じようにロイズ兄様、ロイズお兄様と呼んでくれ」
「少しずつ、慣れたらでお願いします」
大体、まだ実の兄弟でさえも身分の違いを感じて敬語でしか話せないのにいきなり殿下に普通に話すなんて、絶対に無理です。
「やはりここにいたか、ロイズ」
「げ、兄上」
「げ、とは何だ。ったく、執務をサボってから来るな。行くのなら、すべきことを全て済ませて行け」
そうしていると、来客者が増えました。ロイズ殿下が兄上と仰る方、つまり、この国の第一王子殿下にして、王太子殿下ですね、分かります。
「ん? あぁ、君がウィルフィリアだね。久しぶりに会えて嬉しい。幼い頃、何度か一緒に遊んだのだが、覚えているかな?」
「申し訳ございません、王太子殿下。覚えていません」
「王太子殿下……か。ウィルフィリア、いとこなのだから、名で呼んでくれ。ヴィルフォルト、だ。ヴィル兄様なり、ヴィルお兄様なり、殿下と言う呼び方じゃなければ、好きに呼んでいい」
「ヴィ、ヴィル兄様?」
「そうだ、それでいい。ウィルフィリアはかわいいな」
「兄上ずるい! ウィルフィリア、俺も兄と呼んでくれ!!」
「ロ、ロイズ……おにい……さま」
ダメだ恥ずかしすぎる!! 恥ずかしすぎて死ねるよ、これ。
って言うか、何で偉い人を兄とか呼べる立場になってるんだよ、私! 私は庶民でいたかったのに!
「しかし、ヴィル兄様とロイズが揃って来たと言うことは………」
「……すまん、来るかもしれん」
「来るって、どなたがですか?」
『――――父上だ』
……ちょっと待てーっ! このお二方のお父上と言うことは、この国の国王陛下でしょう! 何で、来るんですか!? 何で、お子様方にそう言われておられるんですか、陛下!
とりあえず、来ないことを祈るべきか? っていうか、シャーリット様、一人避難なさらないでください! 避難するのなら、私も一緒に避難したいです!
「……っ!」
『ウィルフィリア!?』
ヤバイ、手術の傷の痛みか発作の痛みか分からないけど、とにかく、痛い!
「シルフィ、医者を呼んで来い! 母様、ウィルフィリアの部屋をお願いします! ウィルフィリア、車椅子では遅いから、抱き上げるよ!」
私が痛みに襲われていると、ギルトバード様がてきぱきと指示を飛ばし、そして私を抱き上げて屋敷の中へと走っていく。
ちなみに、殿下らは私を抱き上げて走るギルトバード様の後ろを駆けて、着いてきていたよ。
そして私は部屋に戻され、ベッドに戻され、医者の診察を受けた結果、しばらく安静にしていれば大丈夫だ、との診察結果が下された。
「もう少しゆっくり、外に慣らすべきでしたね、坊ちゃま方」
「だな。悪かった、ウィルフィリア」
「まぁ、今回は発作ではありませんから、手術の痕がきれいに塞がれば、このようなことはもうないでしょう」
あー、さっきの痛みって、発作じゃなくて傷の痛みだったのか。……傷が痛むようなこと、したっけなぁ。殿下らの来訪にびっくりしたかな。
………まだ、いらっしゃるしね。執務は大丈夫なんですか? 特に、ロイズ殿下。
「苦しんでいるいとこを放置して、城へ戻れと? それは無理な相談だ」
「父上も、このことを話せば納得してくださるだろうしな。納得しなくても、させるが」
あの、ロイズ殿下。あなたのお言葉はありがたいです。が、ヴィルフォルト殿下、あなたのお言葉は、少々怖いです。
そして、シャーリット様? どちらへいかれたんですか? ふと気づいたんですが、いらっしゃいませんよね?
「さて、ウィルフィリアも大丈夫だったようだから俺たちは城へ戻るが……。ウィルフィリア、安静にしているんだぞ。無理は絶対にするんじゃない、いいな?」
「分かり、ました……」
「では、ギル、シルフィ、また来る」
「今度は一緒に遊んでくださいね、ロイズ兄様」
「あぁ、次はルイゼを連れて来よう」
「ホントですか!? ヴィル兄様」
「ああ。ルイゼもウィルフィリアには会いたがっていたしな」
ルイゼ様というと、確か第一王女様のはず。冷静に考えれば、その方も私のいとこに当たるんだよなぁ。考えられないけど。
「だからほら、ウィルフィリアはお休み? 休んで、早く元気になりなさい」
「はい。……では、御前で横になったままで失礼します」
「だから、そこまで畏まらなくて言いといっているだろう。いいか、ウィルフィリア。君は今調子が悪い。その状態で、畏まるだ何だと、考えてはいけない」
ロイズ殿下とヴィルフォルト殿下はそう言って、私の頭を撫でて行った。
「さ、ロイズもヴィル兄様も言ってただろ? ウィルフィリアはお休み?」
そして、お二方が帰った後、ギルトバード様もそう言って、私の頭をくしゃりと撫でた。………そしてシルフィ様、何故、横に来るんですか?
「お姉様と一緒に休みたいだけです。一緒に寝てください」
「………ギルトバード様」
「………シルフィ、ウィルフィリアが嫌がっているようだが」
「でも……」
「シルフィ」
「……分かりました」
ギルトバード様に言われたシルフィ様は、渋々ながらもギルトバード様の言葉を聞きいれ、ベッドから降りてくれた。
「お姉様、いつか、一緒に寝てくださいね」
「シルフィ」
「うう! お兄様、厳しいです!」
「今の僕にはウィルフィリアが一番なんだ、仕方ないだろう。……そんなに誰かと寝たいのなら、僕が今晩一緒に寝てやる。それでどうだ?」
「本当!? 本当の、本当!?」
「ああ。だから、今のウィルフィリアを無理させるような行動は慎むこと、いいか?」
「約束します!」
おお、シルフィ様がギルトバード様の言葉に喜ばれている。そんなに誰かと一緒に寝たいものなのかな。
でもまぁ、気にしなくていいか。とりあえず今は寝よう。