貨幣の神
<いつからこんなことになってしまったのだろう?>
猛烈な物価上昇にエヌ氏はため息をついていた。肉も野菜もすっかり高くなってしまった。先月はもう少し安かったような気がする。一年前に比べれば、とんでもなく上がっている。それに量が少なくなっている。お弁当の容器もすっかり上げ底になっていて買う気が失せる。米は明らかに少ない。容器の下地が隠れるくらいに、薄っすらと敷き詰めている程度だ。そんなことを考えながら、薄くなった財布をひっくり返してみる。小銭がチャリンチャリンと音を立てて机の上に広がる。
「あいたたた!」
何か声がした。よく見るとそこに変なものがいる。小人か?
「僕は貨幣を司る神なのです」
小人は言った。小人というか、生意気な感じの小僧だった。
「貨幣の神というのであれば、この物価高をなんとかしてくれよ。何でもかんでも高くなってしまって、割引シールが貼ってないと買う気がしないよ」
エヌ氏は買い物で感じたありのままの気持ちを言ってみた。
「それはちょっと、僕の力では無理かもしれません。僕の力が及ぶのは十円とか百円とか、最大でも五百円ですから」
貨幣の神はさっそく言い訳をしていた。こいつは何のためにわざわざ私の前に現れたのだろうかとエヌ氏は考えた。小僧だから仕方がないのかもしれない。
「もっと力の強い神はいないのか?」
エヌ氏は貨幣の神を問い詰めた。
「紙幣の神ならなんとかできるかもしれません。高額な紙幣を扱っていますから」
「じゃあ、会わせてくれよ」
エヌ氏は一生懸命、貨幣の神に頼んだ。そして天上の世界につれて行ってもらうことにした。
「あそこにいるのが紙幣の神々です。ドル紙幣の神、ユーロ紙幣の神、円紙幣の神といろいろいます。それぞれの神が各国経済を支えているのです」
エヌ氏は紙幣の神々をじっと眺めていた。通貨発行権という強大な力を保有している割には、各国の紙幣の神は憔悴しきった表情で、皆、頭を抱えていた。
「お札を刷り過ぎて、信用を失くしてしまった」
紙幣の神々は皆、そう言って嘆いていた。どの国も同じような過ちを犯してしまったようだった。
「一万円札は20円で刷れる」
そう言ってバカバカお札を刷らせていた日本の政治家のことをエヌ氏は思い出していた。そんなことをしていると本当に一万円札が20円の価値しかなくなってしまうかもしれなかった。
「物価高をなんとかしてください」
エヌ氏はそう言おうと思っていたが、すでに力を失くしている神々には無理そうだった。他に助けてくれそうな神はいないのか? そう思ってエヌ氏は辺りを見まわした。
「あそこにいる神々はなんだか強そうだな」
エヌ氏は貨幣の神に言った。
「あれは古い神々なのです。紙幣の神々が力を持っている間は出番がなかったようですが、最近、復活して来ているようです」
それは金属の神々だった。金の神、銀の神、プラチナの神だった。最近、ものすごい勢いで価格が上昇しているようだった。
「金の神や銀の神はもう五千年も価値を保っています。その信仰が戻って来ているのです」これからはまた金属の時代のようだった。帰ったら中田貴金属で純金積み立てをしようとエヌ氏は思った。




