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少年ラファの日常

ラファが前世の「瀬戸達也」であった頃の記憶を取り戻してから1ヶ月がたった。初めのころは自分の中に全く違う人格が生まれたような違和感があったが、今では過去の記憶として消化できている。

また生活面においても特段何が変わるわけでもなく、変わらない日常が淡々と過ぎていった。


今日は月1回行われている父との模擬戦の日だった。


そもそもジェファーソン家は、代々騎士団長を輩出している名家である。事は150年前におこった隣国からの侵略戦争に起因している。なぜ戦略戦争が起きたのか詳しい内容は分からないが、事実として残っているのは防戦一方だった帝国が、当時のジェファーソン家当主であるカミーユ・ジェファーソンが敵将軍を打倒したことで戦況が好転し、見事隣国を撤退させたということ。そしてその戦功によって、当時一介の騎士だったカミーユが男爵位を戴き、更に当時開拓地として国策になっていたドレイス領の領主として指名されたのが始まりとなっているということだ。


更にカミーユの息子であるオラースが剣の達人で、その腕は「帝国の剣」と言われるほど比類なきものであったという。その流れを汲んだのか、代々ジェファーソン家には剣術に優れている嫡男が生まれるようになり、ジェファーソン家=騎士団長という、帝国民にとっては「常識」であり、ジェファーソン家にとっては「誇り」のような構図が出来上がった。


そしてその例にもれず、現騎士団長であるジョルジュは次世代の騎士断腸育成のため、退役騎士であり、現役時代にジョルジュと比肩した腕前を持つ剣術指南のマーシャルに息子であるラファの稽古を任せている。

物心ついた時から剣を習っているラファは、既に「カミーユの再来」と呼ばれるほどの腕前であり、帝国内で行われる12歳以下の大会で入賞するレベルとなっている。

そんな才能あふれる息子の成長を自分の剣で確かめたいジョルジュは、忙しい中時間を作って模擬戦という形で息子の成長を確かめようと考え、半年前からラファと1時間程度の模擬戦兼稽古を行っている。


模擬戦の内容としては、木剣で先に相手の体か頭に打ち込めば1本となり、3本先取で勝利となる。もちろん怪我をしては元も子もないので防具をしている箇所以外は狙わないことにしている。


とは言え、現騎士団長である父ジョルジュに、7歳のラファが敵う筈もないので、ジョルジュは足元にある半径1mの円から出てはいけないというハンデがある。また、ジョルジュの中では敢えて1本目は受けることし、そこから何本か打ち合いをしたのちに隙をついて1本を取るという形をとっている。当然ではあるが、そのハンデがある状態であっても、ラファがジョルジュに1本を入れたことはなかった。


そしてその勝負が終わった後には、ラファの動きの何が良くて何が悪かったのか父から講評をし、しばらく稽古を行うという流れになっている。


ラファはこの模擬戦が好きだ。


普段は仕事で忙しい父が、この時間だけは自分に真剣に向き合ってくれる。それだけでも普段の稽古に身が入った。

また今すぐとはいかないが、尊敬する父に一本を入れるということがラファの密かな目標になっていた。そしてその目標があることで、同年代では敵なしである彼が、変に天狗にならずに稽古に打ち込むモチベーションともなっていた。


ジョルジュとしても、ラファを次期ジェファーソン家の当主として育てると同時に、普段仕事に忙殺されている中で息子と2人で対話できる数少ない機会となっていることを嬉しく思っていた。


「よし、では始めようか。」

円に入り木剣を構えたジョルジュがラファに合図をした。


「今日は絶対に1本取ります!」

掛け声とともにラファは中段の構えのままジョルジュに突っ込んでいった。

もちろんラファは、無策で突っ込むほど無謀な子供ではない。

『お父さんの太刀筋を受け止めても押し負ける。だからまずは足元から崩す。』


中段の構えから右薙ぎでジョルジュの腰を狙う。ジョルジュはその太刀を右手一本で受け止める。そしてそのままラファの木剣を弾く。ラファは木剣を弾かれた勢いで半歩下がり、すぐさま太刀を上段に構え袈裟切りを繰り出す。袈裟といってもジョルジュの胸元あたりに当たるかどうかの位置なのだが、ジョルジュはこれもまた受け止めようと木剣を斜めに構えた。


「ここだ!」

ラファは叫ぶと、袈裟切りの切っ先を左に変え、父の空いた腕に打ち込んだ。剣術大会での緒戦は大抵この技で決まるほど、ラファはフェイントの切り替えに自信があった。


しかし、そんな動きはジョルジュほどの実力者には通じない。まるでフェイントが来ることがわかっていたかのように、手首をしなやかに返し、ラファの剣を受け止めた。

「いい動きだが、まだまだ甘い。目線と足の動きに無駄がある。」


その剣を受け止めた流れで、ジョルジュはラファの木剣を受け流し、胴を軽く薙いだ。

「一本だ。お前はその動きに自信があるようだが、今は通用してもそれ一本じゃいつか限界が来る。とは言え、その歳でフェイントを使うとは驚いた。」

ジョルジュはラファの成長に喜びつつ、今後の伸びしろがまだまだある息子に鼻が高くなった。


「ありがとうございます!もう一度お願いします。」


ラファはどうすればジョルジュに一本を入れることができるか熟考した。しかし、うまく考えが、まとまらなかった。なので、もう一度先ほどと同じ流れで、更に目線と足さばきに注意しながら切りかかった。


それらに注意をしたその時、どこか懐かしい声が頭をよぎった。

『達也、足さばきは合気道の基本だぞ。一見無意味に思える基本こそ、すべての技に繋がるピースになる。』声の主は前世である瀬戸達也の祖父、稲垣剛三の声だった。


ラファは戸惑ったが、すぐに思い直して前世の記憶を探った。記憶の中には瀬戸達也が何万回も行った合気道の動きがあった。


『足を踏み込むのではなく重心を抜く。そして相手の動きを制する。』


先ほどまで勇んで踏み込んでいた足を、武道特有のすり足に切り替え、打ち込む際に出る力みをできる限り取り除いた。そしてそのまま父の胴を右から薙いだ。


ジョルジュはつい今しがたまで力任せに剣を打ち込んでいた息子が、急に静かな剣を打ち込んできたのに驚いた。しかし、それでもなおジョルジュには遠く及ばず、すぐに反応し剣を止めた。更にジョルジュもお返しとばかりに、ラファの重心をついた動きで体制を崩させ、そのまま頭に軽く木剣を打った。


「急に動きが変わってびっくりしたぞ。今の動きはどこで習ったんだ。」

ジョルジュはラファに尋ねた。ラファも前世の記憶を少し思い出したとは言えないので、

「父上の動きを見て、こうすれば機先を制するをことができるのではないかと思いまして、僕なりに打ち込んでみました。」と答えた。


「そうかそうか!やはり呑み込みが早いな!では最後の打ち合いをしようか。」

「はい!お願いします!」


双方が剣を構えたが、ラファは今までと違い下段の構えをした。本来は身長差を考えると頭ががら空きになってしまうのだが、そこは考えがあった。

ジョルジュも一瞬戸惑ったが、何をしてくるのか気になったので敢えてそのまま続行した。


ラファは敢えて大きく右足を踏み込み、下段の構えからジョルジュの足元に向けて右薙ぎした。

しかしジョルジュはその剣を受け止めることはせず、そもそもがら空きになっているラファの頭に向けて木剣を振り下ろした。


ラファは『今だ』と心の中で叫んだ。

そして右薙ぎをしていた木剣の軌道を止め、更に左足に残していた重心を再度中心に戻し、体を半身にして今まさに自分の頭に太刀を入れたジョルジュの側面に抜けた。ジョルジュは見たことがない動きに一瞬ラファを見失った。

そして側面に抜けたラファは、その勢いのまま木剣をジョルジュの胴に打ち込んだ。

『勝った!』

そう思ったのもつかの間、ジョルジュは思い切り体を捩じり、強引にラファの剣を受け止めた。そしてそのまま剣を弾き飛ばし、軽く胴を小突いた。


「負けました父上。」

ラファは今の自分ができる最大限の動きをしたにもかかわらず、ジョルジュに一本も取れなかったことを悔しく思うと同時に、父への羨望をさらに深めた。


「最後の動きは何だ。今まで見たことのない動きをしていた。あれを更に研鑽すれば、お前の剣はすぐに俺を超えるかもしれん。」

ジョルジュは感嘆するようにラファに伝えた。その声は父が息子の成長を喜ぶ、まさにそれだった。


「いえ、父上の剣にはまだまだかないません。もっと精進して、いつか模擬戦でも一本とれるように精進します!」

ラファは尊敬のまなざしでジョルジュを見つめた。その目にこそばゆくなったジョルジュは

「よし、言い心がけだ。なれば今日の稽古は厳しくするぞ!」

と、嬉しさで吊り上がった口角を悟られないように、大きな声でラファに言った。


「望むところです父上!」


その後みっちり1時間、親子の打ち合いは続いた。

その様子を見に、母のシャルロットが今年1歳になるラファの妹であるシャルルを抱えながらやってきた。

「お二人とも、稽古はそこまでにして休憩にしましょう。」


休憩を取らずに夢中で打ち合いをしていたラファとジョルジュは顔を見合わせた。そしてジョルジュが

「そうだな。もうこんな時間か。では本日の稽古は終了とするか。これからも精進するように。」

と額に流れた汗を拭いながら言った。


ラファも肩で息をしながら

「はい…父上。本日はありがとうございました。」

と絶え絶えに答えた。


シャルロットはこの光景をほほえましく眺めていた。

そして、稽古の終了を見守ると、

「では、お茶の用意をさせているから、疲れが取れたら行きましょう。」

と満面の笑みで言った。腕の中ではシャルルもまるで一緒の輪に入りたいと言っているように「ちゃちゃ」と笑いながら言った。


道中、ジョルジュはシャルロットに対して、如何にラファに剣の才能があるかを子供のような目で語っていた。

「ラファはやはり俺の子だ。まだ7歳なのに、すんでのところで俺が一撃もらうところだった。こいつはとんでもない騎士団長になるぞ。」


そんなジョルジュの話を微笑みながら聞いていたシャルロットは、ラファに向かって

「ラファはとてもすごいのね。あと少ししたらお父様にも勝ってしまうかもしれないわね。」

と息子の成長を喜んだ。


ラファも両親が喜んでくれていることがうれしく、普段あまり取れない家族団欒の時間がとても心地よかった。そして、これからもずっとこんな日常が続けばいいなとラファは心から思った。

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