↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『1魔貨の聖騎士 ― 自分を1魔貨と定めたCEOを、悪魔は契約で管理する』  作者: 暮夜すと
【シーズン1:バルナザール決算編】Q1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/362

『観測の残滓』④

第4部:触れずに守る夜


 ヴァルプスがホテルの部屋に戻ると、レオンはソファに深く腰掛け、底の知れない思考の迷宮に耽っているようだった。その重苦しい沈黙をただ無言で観測する。


 本当に大丈夫なのか、それとも限界まで無理をしているのか――今の段階で余計な判断を下すことは、すべて致命的なノイズになる。アッシュの言葉通り、この歪な関係に新たな波を作らぬよう、ただ静かに、眼前の完璧な凪を見つめていた。


 いつものような魔力の同調も、心拍の強制的な操作も行わない。代わりに、ヴァルプスは棚から静かに、乾いた白いタオルを取り出した。 便利な魔法も、心地いい温湯も使わない、ただのありふれた綿の布。


 ヴァルプスは足音を消してレオンの背後に歩み寄り、その黒髪にそっと布をあてがった。


「……髪、濡れていますよ」


 それだけを告げ、返事を待たずにレオンへと近づいた。 

 拒絶も同意もない、短く無言のまま受け止められる反応。ただ、乾いた布の感触と指先の微かな重みだけが、確かな現実としてそこに横たわっている。


 ヴァルプスはその確かな手応えを確認し、胸の奥で少しだけ深く息を吐き出した。

 暖炉の薪が爆ぜる音が、揺らめく灯火とともに部屋へ一定のリズムを与えている。壁の木目や大理石の装飾が淡く揺れ、暖色の光と、窓外に降る雪の白さが静かに混ざり合っていた。


 ヴァルプスは視線を、窓際に佇むレオンの背中へと向ける。その背筋は美しく真っ直ぐに伸びたままで、ここから逃げようとも、あるいは元の場所へ戻ろうともしていなかった。


(……大丈夫。まだ、この城は壊れていません)


 ヴァルプスはタオルを置き、レオンの少し後ろ――半歩だけ外れた位置にそっと立ち直した。


「……明日、朝早いですよ」


 命令でも、過剰な気遣いでもない。ただの淡々とした予定の確認。


「……ああ、そうだね。もう、寝たほうがいいのか」


 レオンは短く、凪いだ声で応じた。


 まもなく灯りが落ち、室内は深い闇へと沈んでいく。 魔力端末の微弱な冷光が壁際にかすかに残り、青白い明かりが窓を淡く染め上げていた。


 闇に目が慣れるのを待ちながら、ヴァルプスは別の寝台で天井を見上げ、静かに呼吸を整えているレオンの横顔を、その僅かな光の中に確認する。


(異常、なし。――ボクの、完璧なクライアント)


 ヴァルプスは心の中でそう自分に言い聞かせ、祈るように、静かに目を閉じた。



※2026/05/22 大幅修正をしました。

※2026/09/28 大幅修正をしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。