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其ノ弐 大妖怪、邂逅。


 

 

 

 

 

 

「オレはあまみゃあたちの味方だぞ!」

 

 白くて細い手で作られた握り拳。

 

 力強い最年長の言葉である。

 

「なんも頼んでねぇよ。()()議決だってアンタが一つ頷けば決まるんだ」

 

 味方をしてもらうことが苦しいことを、酒木は自覚していた。

 

(早く、こんな嫌われ者なんて見捨てればいい)

 

 ぐ、と眉間に皺がよる。苦々しい思いが広がって、歯を食いしばった。

 

 そんな自分の思いさえも見透かしたような影丸が、酒木は苦手だった。

 

「あ?ぜってぇ頷かねぇよ。はるるの思うつぼだ」

 

 影丸は目を見開き、口だけ笑って首を傾げた。

 

 一見可愛らしい仕草。

 

 真逆に、妖気は最大限に制限しているくせに、この圧。

 

 自分は慣れているから、まだ余裕で耐えられる。

 

 しかし隣の香茨は違う。

 

 本能で瞳孔が縦に細長く伸びていた。

 

(キケン、だな)

 

「わーったよ、もうありがた迷惑だなんて言わない」

 

 弟子のため、なんかじゃない。

 

 ただ抗うのに疲れただけだと、言い訳をした。

 

「あ、あの。烏夜様のお弟子さんは……?」

 

 相変わらず低い腰で影丸に話しかけた香茨。

 

 瞳孔も元の形に戻りつつある。

 

「カゲでいいぞ!うーんと、そーだな、烏丸はもう直ぐくる……気がする」

 

 曖昧に返事してわさわさと腕を振る影丸。

 

 先ほどまでの圧が信じられないほど幼稚な動作である。

 

 その言葉の直後に、空から声が聞こえた。

 

 三人の頭上に影ができる。

 

「……ご当主、いつ出るかぐらい嘘つかずに言えないんですか」

 

 顔を上げて手を日よけにかざした影丸は、従者の姿を見て目を輝かせた。

 

「おおー!烏丸!やっときた」

 

 さっぱりと切った黒髪を揺らし降り立ったのは、影丸と同じ黒い翼を持つ天狗。

 

 黒スーツが似合っている。

 

「いやー、しょうがねぇよな!烏丸はいっつもブチギレてくれるからやめらんねぇや!」

 

 てへぺろ、といった様子で舌を出す影丸を、烏丸と呼ばれた従者は容赦なく引っ叩いた。

 

「報・連・相!社会の基本もなってないんですか。ショタジジイが」

 

「いやぁん烏丸ったらもぉ。オレは永遠の夢見る少年なの!」

 

 きゅるん。とぶりっ子ポーズをした影丸を、烏丸が追いかけ始めた。

 

「何百年夢見るつもりですかジジイ。そのまま永眠しろください」

 

 そのまま二人は飛び上がり、空中戦が始まる。

 

「やだなぁ、天狗は寿命が長いんだぞ〜?」

 

「知ってます」

 

「烏丸がおねしょしてる時も知ってるしぃ」

 

「死ねッ!!」

 

「きゃあ怖い〜っ」

 

 白熱する二人のバトルを地上で眺めながら、香茨は言った。

 

「早く正殿入ってくれないですかね……」

 

「この後全員揃うまで俺らは入れないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 飽きたのか烏丸を瞬時に縛り上げた影丸は、「じゃ!」といって戸を開いて正殿に入っていった。

 

「嵐みたいな人でしたね」

 

「俺がガキの頃からそうだ」

 

 それから、沈黙。

 

 香茨は空を見上げてぼーっと黄昏れ、酒木はその隣で爪をいじった。

 

「お前さ」

 

 香茨が大きい雲を一つ見送ったくらいに、酒木が口を開いた。

 

「なんですか?」

 

「なんで白樺は知ってんのにジジイは知らなかったんだ?」

 

 どくんと、香茨の心臓が変な音をたてる。

 

 ちらりと酒木を見ると、酒木も香茨を見ていた。

 

「前の先生っていうのが、関係してるか?」

 

 何も見ていないようで、人をよく見ている師範だった。

 

「いずれ、近いうちわかります」

 

 そう言って、空に視線を戻す香茨。

 

 酒木はその横顔に目をすがめて、同じように空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

——ブロロロロロ……

 

 一台の黒塗りのリムジンが正殿前に止まったのは、影丸たちが正殿に入ってから5分ほどのことである。

 

 中から髪の毛以外真っ白のハイカラメイドがゾロゾロと出てきた。

 

「えっ!?」

 

 香茨がぎょっとしていると、酒木は毛を逆立てて香茨を盾にした。

 

(え、ちょ。なんですか)

 

(誤魔化せ!俺はいない、おれはいない、おれはいない)

 

 香茨は、その真っ白メイドに見覚えがあった。

 

「塩月様の、お付きの……」

 

 ぴっちり縦二列に並んだメイドたちの間を、リムジンから降りてきた女性が通る。

 

「ありがとう」

 

 ドアを開けた犬のドライバーに微笑み、礼をする彼女は。

 

 雪国の色素。

 

 白藍の花が散った白無垢。

 

「塩月様……」

 

 香茨は呆けた。

 

 こちらに歩いてきた白樺は、人間離れした顔で伏せ目がちで微笑む。

 

「あら、(オミ)のわんこさんじゃなですか。その後ろには愚かな愚かなにゃんこさん」

 

 天女のような顔に罵られた香茨の背中は、震えていた。

 

「あ……塩月様……」

 

「何もしませんよ、わたくしはね」

 

 閉じた扇子で香茨の顎を掬い、冷たく笑った白樺は、侍女を引き連れて正殿へしずしずと入っていった。

 

「オミ……」

 

 小さく呟いた酒木の目は、微かに縦に広がっていた。

 

「え、あ、あの、師範。会合メンバーが集まったそうですよ。裏口から入ったらしいです。入りましょうか」

 

——お前、ハルの。

 

 酒木は口に出しかけて、やめた。

 

 目を合わせた弟子の目が、絶望と諦めの色に滲んでいたからだった。

 

 それはひどく、背景の青と似合っていなかった。






二人の過去が動き出す可能性がなきにしもあらずです

よろしくお願いします

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