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其ノ壱 大妖怪、会合に向かう。


 

 

 

 

 

「あと、年齢順で名前呼ばれるから、俺が呼ばれたら同じタイミングで頭下げろよ」

 

「はい」

 

「ま、それぐらいかな」

 

「はい、入場順も年齢順、座る席も年齢順で名前を呼ばれたら立ち上がって礼。お茶は飲むな、菓子は食べるな。門をくぐったら全てが敵だと思え、ですね、わかりました」

 

「そうそう、警戒は怠るなよー。なーんか毎回俺だけ暗殺されかけるんだよなぁ」

 

 呑気にリムジンの座席にふんぞりかえる酒木。

 

(どんな人生歩んできたんだこの人……)

 

 まだ始まってもいないのにげっそりする香茨だった。

 

 そんな気も知らず、酒木はくあ、とあくびをしている。

 

「酒木さん、冷蔵庫に(リョウ)入ってますよ、飲みますか?」

 

 ドライバーの猫のあやかし、三毛の猫又がにゃ、と振り返って微笑む。

 

「いいや、酒飲むとこの弟子がうるさいんだよ」

 

「おや残念。苦労して仕入れたのですがね」

 

 仲良さげに話す二人を見てほっこりする香茨。

 

(師範にも話せる人いるんだなぁ)

 

「師範、熮ってなんですか?」

 

 酒に詳しくない香茨が聞くと、酒木と猫又が目を剥いた。

 

 目が本気と書いてマジである。

 

「高級日本酒」

 

「純米酒」

 

「山田錦」

 

「一年に拾本(じゅっぽん)しか出回らない」

 

「これがもう……」

 

「「さいっこうなんだなぁ〜〜」」

 

 デレデレの表情の二人。

 

(あぁ、酒友か……)

 

 二人は、そういえば●●酒造の倅が、とかいう話題に移っていった。

 

 やはり師範に友達(?)がいて嬉しい香茨なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、つきましたよー」

 

 酒好きな猫ドライバーが寝屋川(ねやがわ)こがねという名前を持つことを知ったあたりで、リムジンは朱色のでかい門を潜った。

 

『真ノ國中央政殿』

 

 堂々と佇む碑が目の前に現れる。

 

「あ、戻ってんな」

 

 窓の外を見て呟いた酒木。

 

「?」

 

 不思議に思った香茨が聞こうとすると、寝屋川が笑って返した。

 

「困りましたよー、酒木さん前回石碑を蹴り壊して帰られてしまって」

 

「何やってるんですか師範!?!?!?」

 

 目を剥いて驚く香茨の視線から逃れるように酒木は長い爪をいじる。

 

「ちゃんと金は払った」

 

「んん偉いけどそういう問題じゃないぃ……」

 

 なんてことしてるんだ師範。

 

 あ、逆剥け、じゃないですよ師範。

 

 ギャルか。あんたはギャルなのか。

 

 そういうことするから嫌われるんですよ。

 

 誤解が生まれるんですよ。

 

「なんで、壊したんですか」

 

 今まで聞かなかった、理由。

 

 こがねは黙って、酒木は苦々しい顔をした。

 

「あん時はまぁ、白樺と喧嘩して……」

 

 酒木は誤魔化すような口調で言う。

 

 白樺——塩月(しおつき)白樺(しらかば)

 

 雪女の大妖怪で、名家の女当主。

 

 当主になるにあたって反対した身内を実力で黙らせたという、過激実力派である。

 

「塩月様と?」

 

「“様”ァ?いつからそんな偉くなったんだよアイツ」

 

「いや、大妖怪ですよ……」

 

「お前俺に様つけねーじぇねぇか」

 

「師範は師範なんで」

 

 そして徐々に逸れていく話題。

 

 こがねはそんな二人を見て笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 正殿前。

 

 絢爛な造りをなんとも思っていなさそうに眺める酒木と、香茨は、他の候補者を待っていた。

 

(なんだこれ、やばい、死ぬ——)

 

 香茨の膝は震えていた。

 

 原因は隣の酒木である。

 

 きっといつもは制限していたのであろう、圧倒的な妖気。

 

 尋常ではない重さのそれに、香茨は寒気がしていた。

 

「腹括れ」

 

 突然喋りかけられた香茨は、びくつきながら返事をする。

 

「腹、ですか」

 

「体の真ん中を引き絞れ。耐性がつく。妖気は武器だ。お前も十分持ってるから使え」

 

 す、と息を吸った香茨は、言われた通りに気を集中させる。

 

 かすかに寒気が和らぎ、思考が落ち着く。

 

「それ今言います……?」

 

 少し呂律が回るようになった香茨がてふてふと戯れる酒木に文句を言った。

 

「わりぃ、忘れてた」

 

 飛んで行ったてふてふを目で追いかける酒木。

 

 悪いと思ってはいなさそうな態度にいらつく香茨であった。

 

「帰ったら晩御飯に春菊入れますよ」

 

「な!?!?それはナシだろお前!!!」

 

 猫のようにビャッと毛を逆立てて拒否する酒木。

 

「ほうほう、あまみゃあはまーだお野菜が食べられないのかー」

 

 のんびりとした少年の声が、後ろから。

 

 香茨はもちろんのこと、酒木ですら即座に動くことができなかった。

 

 戦慄が走る。

 

(いつから…!?というか、どこからッ!?)

 

 間に合わないと知っていながら刀に手を伸ばす香茨の心境とは、酒木は真逆に反応した。

 

「うっせぇショタジジイ!!」

 

 素早く振り向いた酒木は、少年に向かって悪口を言ったのだ。

 

 ぽかん。

 

 音がなるほど拍子抜けする香茨。

 

 知り合い……?

 

(なんだ……よかったぁ〜……)

 

 安心して少年に向き合う。

 

 小さな背丈を高い下駄で盛った全長は、それでも香茨より七寸(二十センチ)は低かった。大柄な酒木と比べれば、一尺(三十センチ)以上の差がある。

 

(あ、天狗……)

 

 黒い翼と、鼻に描かれた朱の意匠が種族を表していた。

 

 短い黒髪で、金の目。動いたら鳴るはずの鈴のピアス。

 

 鮮烈な赤の短い浴衣が無邪気さと、威厳を醸し出していてなんとも——

 

「ショタジジイ……」

 

「はっはっは、(ヒシ)の地まで飛ばしてやろーかクソガキども」

 

 ちなみに、菱は真ノ國の最北端であり、最も大きな面積を持つ島である。


 見た目は子供、中身はジジイな大妖怪。

 

「こいつは大妖怪の中で最年長のジジイ。烏天狗の……」

 

 説明しようと口を開いた酒木を遮って一言。

 

烏夜(うや) 影丸(かげまる)!よろしくなー!!」

 

 天狗は寿命が長いと聞いていたが、流石にはっちゃけすぎじゃないか…?

 

 と思う香茨とは裏腹に。

 

「あまみゃあの弟子か。苦労するなお前」

 

 静かな威厳で二人を黙らせたのだった。

 

「安心しろよな、オレはあまみゃあとお前の味方だぜ」

 

 ふふんと胸を張る少年爺。

 

(もしかして大妖怪って、みんなクセ強い……?)

 

 早くも遠くを見る目になる香茨だった。

第二章です

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