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其ノ伍 大妖怪は弟子と買い物に行く


 

 

 

 

 

 

 香茨が酒木に拾われてから三週間が経った頃。

 

 頭領試験、第一の門終了期限まであと一週間を切った。

 

 しかし不思議と酒木と香茨には焦りはなく。

 

「師範、ポテトサラダから始めましょう。きゅうりとじゃがいもしか入ってないです」

 

「……ハム」

 

「もちろん入れますから、ね!そこから慣れましょう!」

 

「なんでお前はそこまで野菜食べさせたいんだよ……」

 

 と、いつも通りの野菜バトルを繰り広げられるくらいには余裕であった。

 

「師範、気づいてないんですか?平均体重よりずっと軽いんですよ、師範って」

 

「体重なんかいつ知った!?」

 

「香茨eyesです。企業秘密なんで」

 

「お前も大概軽いだろ、筋肉もあんまつかねぇし」

 

「体質だと思います、前の……先生のところでもあまり付きませんでした」

 

 強張った声に、酒木がぴくりと反応する。

 

(こ、れは。触れた方がいいやつなのか?わっかんねぇよ、人付き合いとかここ200年くらい全然してねーし)

 

 内心焦りまくりの酒木は、威厳があるように努めて言った。

 

「体質だと仕方ねぇわな。筋肉なくても力は出せる」

 

「ですね、師範もそうですし」

 

「ハァ??」

 

 どこかほっとした様子の香茨に、酒木は何か聞くことは悪手なのだろうと察した。

 

(……前の、先生、なぁ)

 

 そいつはダチョウ並みの大きさの脳みそなのか、もしくは——

 

 よっぽど性格が悪りぃか、だな。

 

 そこまで考え、胸糞が悪くなった酒木は香茨を怒鳴った。

 

「るっせぇ!野菜なんか食わなくたって強いんだよ俺は!!」

 

 そして脇に置いていた刀を掴み、立ち上がる。

 

「稽古すんぞ!!まだお前なんか雑草に毛が生えたくらいの強さしかねーんだよ!!!」

 

 と、これまたいつも通りに香茨に木刀を投げたのだった。

 

 

 

 

 

「町に降りるぞ」

 

 稽古が終わったあと、およそ3時のことである。

 

 突然酒木が香茨に言った。

 

「え」

 

 浴室のカビ取りをしていた香茨は、塩素くさいと文句を言う酒木に聞き返す。

 

「町に??」

 

「降りるっつってんだ。早く用意しろ、置いてくぞ」

 

 そう言ってさっさと玄関に向かった酒木を、香茨は慌てて追いかける。

 

「何しにですか?日用品は配達ですし……」

 

「いろいろいるものがあるんだよ。小遣いはやるからお前も好きなもん買え」

 

 そう言って大刀を背負う酒木。

 

「えぇ〜……」

 

 酒木はピシャン、と玄関の戸を閉めて出て行ってしまった。

 

(いや、おれはいいんですけど、師範はいいんですか……?)

 

 周りにアリ一匹すらいなくなるATフィ●ルドを持つ酒木の姿を思い出し、切なくなってしまった香茨なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

(ほら、案の定じゃないですか……)

 

 酒木の屋敷がある藩、(キョウ)で一番の商店街道に一歩踏み入った瞬間である。

 

 香茨がそう思う出来事があったのだ。

 

 みなさんお分かりだろう。

 

 ATフィ●ルドだ。

 

 そんな思考も露知らず、当の本人は呑気に簪を見ている。

 

「組紐じゃ緩いんだよなぁ」

 

 などと言いながら。

 

 香茨はここに来るまでの道中の出来事を思い出していた。

 

 酒木に持たされたお小遣いの件だ。

 

 結論から言うと、札束を真っ裸で渡された。

 

(わかってましたよ、ええ。大妖怪ですから。政府に認定されてますからね。そりゃあ、お給料だって十分すぎる額をもらっているでしょうよ)

 

 でも流石に、あれはお小遣いではない……と香茨は突き返した直方体を思った。

 

「おい、香茨。こっちこい」

 

 酒木から少し離れて耽っていた香茨は我に返る。

 

「あ、はいっ」

 

 どうも、居心地が悪かった理由がわかった。

 

 拾われた日の道を思い出す周りの反応だ。

 

 かわいそう、と言う目で見られる香茨。憎しみの目で見られる酒木。

 

 どうにも腑に落ちない気持ちを持ちながら、香茨は酒木について行く。

 

 やがてついた目的地。

 

「鍛冶屋、ですか?」

 

 入り口の目の前で止まった酒木は香茨に命令する。

 

「お前取りに行ってこい」

 

「何をですか!?」

 

 いや、理由はわかる。店主もきっと酒木を嫌っているのだろう。

 

 わざわざ嫌われに行く人じゃない。

 

「とりあえず行け。この時間に予約してるから渡してくれる」

 

 心なしか得意げな表情の酒木。

 

 疑いの目で酒木を見る香茨。

 

 この三週間ですっかり師弟が板についている二人である。

 

「……すみません」

 

 からから、と心地いい音を立てて開いた戸の向こうには、鈍く光る刀が行儀よく並んでいる。

 

 刀に囲まれるようにできたカウンターに、人の良さそうな主人が座って新聞を読んでいた。

 

 香茨の声に気付き視線をあげた主人は、愛想よく笑って話しかけてくる。

 

「にいちゃん予約の「キノサキ」さん?いい出来上がりだよ〜、大切に使ってあげてね」

 

 確認に頷いた香茨に、店の奥から持ってきた細長い箱を渡した。

 

「え、あ、ありがとうございます」

 

「腰紐は何色がいい?持ってるならいらないと思うけど、いろんなデザインあるから選んでみたら?」

 

 何が何だかわからない香茨。

 

 酒木と町に降りてきて?鍛冶屋に来て?

 

 予約で、腰紐。

 

「どんなのありますか?」

 

 一瞬で答え(状況)を導き出した香茨は、きらきらスマイルで主人に話を振ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「師範!!」

 

 香茨を蹴り出してから少し。

 

 弟子がご機嫌で帰ってきたので、聞こえていた陰口はノーカンの酒木が香茨にかすかに笑いかけた。

 

「おう、いいの貰えたかよ」

 

「はい!!いつの間に注文してたんですか師範!!嬉しいです、腰紐もいいの選んでですね!!!」

 

 楽しそうに話す香茨を見て、やはり嬉しそうな酒木だった。

 

「でもどうして急に刀なんて注文したんですか?トーナメント戦はまだ先ですし」

 

 テンションを少し抑えた香茨が疑問を口にする。

 

「出るからな、大妖怪会合」

 

「あ、そうなんですね!」

 

「ただのおしゃべり会だけどな」

 

「……って、え??」

 

 ラグの後、落雷。

 

「大妖怪会合???」

 

「そうだ」

 

「僕も???」

 

「“おれ”な」

 

(師範……)

 

「ウソでしょ……」

 

 石化した香茨。

 

 今日も師範に振り回されるのであった。





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