其ノ肆 大妖怪、向合。
——大妖怪とは、本来「警備隊隊長」を意味する。
真ノ國にはカーストが存在している。
トップはもちろん、頭領。
現頭領は座敷童である。
次に閣僚・衆代。
閣僚は頭領の事務を三人で手伝う職であり、他の国では大臣という役職である。
衆代は各州を監督する、八人の長。知事と一緒だ。
その次に、警備隊。
警察、と呼ばれたりするものとほとんど一緒で、風紀を守る役目を持つ。
警察と違うのは、その人数である。
組織全ての人間で百人にも満たない。
明確に就ける枠が決まっており、隊長五名、上級警備官一五名、中級警備官二〇名、下級警備官三〇名と、計七十名で構成される。
少数精鋭の集団であり、國民の憧れである。
その下に華族、名家が続き、一般で終わる。
國の風紀を守る警備隊は、生半可な努力では入隊できない。
容姿、性格、戦力、事務力、精神力など、さまざまな要素が求められる。
その頂点に立つ、隊長。
いわゆる大妖怪は、常に完璧を求められている——
と、いうのが國民の共通認識であったのだが。
「オレんとこ変わりなし!!」
「ボクんとこもやなー」
「わたくしのところもです」
「私もです」
「俺もだな」
「……」
会合ははじめに近況報告から入った。
変わりなし、という。
烏夜影丸。山と空の担当。
九重玉藻。街と市場の担当。
塩月白樺。中央区の担当。
東音寺春臣。海と水辺の担当。
酒木天宮。……自宅とその裏山の担当。
スケールが1人だけ違う。悪い意味で。
(そうですね、裏山は平和ですよ師範。この間も鹿の親子を見かけました)
香茨は心の中で酒木に大きく同意する。
「んじゃ気になることある人ーーーっ!」
手ぇあーげてっ、とかわいこぶって聞く隊長代表。
「はいはーい!」
同じくかわいこぶって手を挙げる玉藻を、影丸はタマモンどぅぞ!と指差した。
「あーちゃんってなんで頭領試験でたん?」
刹那。とんでもない量の殺気が全員から発せられ、瞬きのうちに全員が微笑んでいた。
「あー俺?」
頭をぽりぽりとかいて、うんざりとした顔でだるそうに。
酒木はいつも通り言った。
「一番になりたいから」
円卓のメンバーはみな唖然とする。
そのあと影丸と玉藻が大口を開けて笑い、白樺と春臣は真顔で俯いていた。
「あまみゃあはそうだよなぁ!!」
「あーちゃんほんまにさいっこう!!」
「「……」」
香茨はというと。
(……)
チーンと音がしそうな程呆然と石化していた。
「それ以外の理由なんてないだろ」
酒木はあくびをしながら出されたお茶を飲む。
「あー、あと。こいつをこの國で二番目の男にするため」
そして後ろの香茨を指差す。
企むような笑みで茶請けを齧りながら宣言した酒木を、やはり影丸と玉藻は笑うのだった。
「じゃーさ、皆なんで頭領試験受けるのか聞いていこうか。あまみゃあだけじゃ不公平だしな」
影丸の言葉で、順番に発表していく。
「私はもっと真ノ國を発展させたいからです」
「わたくしも概ねそうです」
「ボクはみんなに敬われたい〜」
「オレは小枝に言われたから」
大妖怪らしいといえばらしい、無茶苦茶な理由。
小枝。四十九院小枝。現頭領の座敷童である。
何を隠そう、少年であった影丸くんの初恋の年上(見た目は幼女)お姉さんは彼女だ。
「初恋拗らせてるカゲたんキッツ……」
玉藻が笑顔のまま小声で呟き、それに酒木が重々しく頷いた。
「ちゃんとした恋愛もしてない奴が言うなァ!!!」
「ボクはまだ遊ぶの〜」
「恋愛なんて二の次だろ」
三人がわちゃわちゃと騒ぐ中、白樺が静かに扇子を閉じた。
ぱちん、と乾いた音が会議室の響く。
「本題に、入りましょう」
瞬時に空気が締まり、笑っていた三人も落ち着く。
白樺は薄く微笑んで言った。
「酒木天宮の警備隊隊長権限の剥奪についてです」
「……え」
香茨の喉が、ひくりと鳴る。
(師範の隊長権剥奪…!?)
「……」
当の本人は真顔で押し黙っている。
「……前回は途中でわたくしも理性を失ってしまったので」
美しい眉をぐっと寄せた白樺。
(あ、石碑……)
香茨は瞬時にこがねの言葉を思い出した。
「で、何?」
影丸が頬杖をつく。
気だるげな表情には抑えきれない憤怒が滲んでいる。
白樺に変わり、春臣が指先を組み、柔らかく告げた。
「彼が隊長である意味はありますか?」
おおよそ顔と似合わない発言に、玉藻は乾いた笑みを漏らした。
「何度言われても、オレは頷かない」
いつも通りのの無邪気な笑顔で、影丸は言った。
春臣と影丸の妖気ぶつかり合いで、ビリビリと音を立てて空気が揺れる。
「それでは何度でも言います。彼が隊長である意味はありますか?」
一触即発の空気に、玉藻が入る。
「はーちゃん、ちょっと調子乗りすぎちゃう?」
ふわりと微笑んだ玉藻が、春臣のおでこをつんとひとつつつく。
途端に春臣から力が抜けて、椅子にもたれかかる。
本人も驚いた様子で目を見開く。
「あなた、中立でしたでしょう」
軽く睨むような視線を玉藻に向ける春臣を、玉藻は笑った。
「まー、気分?カゲたんは年上でこわぁいしな」
ひらりと自分の席へ戻り、堂々と媚を売ったことを言う玉藻。
「全員席ついたな。——はるる、あまみゃあが隊長である意味。あるぞ」
影丸の言葉に、春臣は力が抜けたまま訝しげに眉をひそめる。
「裏山を守ってるのは酒木だ。他の誰にもできない」
その言葉を聞き、白樺は苦々しい顔をする。
「そ、れは」
「あのさァ、話し合ってるとこ悪いけど」
今の今まで黙っていた酒木が、突然割り込む。
「俺の弟子の茶菓子に薬盛ったヤツ誰?」
第二章もうすぐ終わる予定(予定)です。予定予告。
三章に入る前にインタールード(幕間)を数話挟みます。
ウラ話も出す予定(予定)です。予定予告。




