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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(2)復縁を申し込もうとしたら

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007

 夕方。


 予定どおりに仕事を終え、化粧室でメイクを丁寧に直した。髪をとかし、最後にポーチに入れておいたお気に入りのゴールドのネックレスをつける。


 敦朗と外でふたりきりで会うのは離婚してから初めて。鏡を見ながら妙な気持ちになる。だって敦朗の前ではスッピンやあられもない姿を数えきれないほどさらしてきたんだもん。いまさら見た目を取り繕ってもしょうがないのに。


 化粧室を出て待ち合わせ場所である一階ロビーに行くと、約束の時間の五分前なのに敦朗はすでに待っていた。


「お待たせ。早いね」


「遅刻してよく怒られていたからな」


「やだな。昔のことを蒸し返さないでよ」


 結婚前、敦朗は待ち合わせ場所によく遅れてきた。理由は仕事が忙しかったせい。昔のわたしはそれをわかっていながら、いつも敦朗を責めていた。


「ごめん。遅刻してばかりだった俺が悪い」


「ううん。わたしのほうこそ敦朗を思いやることができなくてごめん」


 あの頃のわたしは傲慢で怒りっぽくて、かわいげがなかった。


「お互い若かったからな」


「二十代たったもんね」


 だけど果たして年齢だけのせいだったのかな。


 当時も二十歳を過ぎた社会人で、世間一般的にも十分大人だ。でもまだまだ未熟だった。とくにわたしが。愛されていることにあぐらをかいていたんだなと、いまならわかる。


 ときどき考える。結婚するタイミングが違っていたら、わたしたちの運命は変わっていたのかなって。考えても仕方がないことだけれど、どうしても考えてしまう。



◇◇◇



 会社を出ると雨が糸のように細く降りそそいでいた。いつもだったらがっかりする瞬間だけど、今日はちょっとうれしい。じゃっかん罪悪感はあるけれど、これくらいの嘘はいいよね。


「さすがに日が落ちると肌寒いな」


 敦朗が傘を広げながら言う。


「そうだね。雨が降っているせいもあるのかな」


「どこ行く?」


「行きたいお店があるの。味は保証する。いいかな?」


「いいよ。実は昼飯食ってないんだよね」


「嘘!?」


「店舗からの問い合わせで昼休みが潰れた」


 社員食堂にいなかったから、てっきり外まわりでもしているのかと思っていた。


「なにかあったの?」


「PBのマグボトルなんだけど、液漏れするクレームがあったんだよ」


「大変じゃない!」


「それがさ、よくよく確認したらゴムパッキンが他社の商品のものだった」


「なんだ、よかったあ」


 残念ながら商品のクレームはよくある。購入してすぐに破損した、使いにくい、臭いがきつい、同封されている説明書がわかりにくい等々、数えればキリがない。


 でもその一人ひとりの声を真摯に受け止めることで、よりよい商品に生まれ変わることができる。クレームというのはとても大切な意見だ。アイデアの宝庫ともいえる。


「PBはオンラインのレビューも低評価が多いね」


「考える余地はあるな」


「正直言うと一部のPBは使い勝手もあんまりよくない」


「きついな。でもわかってるよ。いろいろ盛り込むと価格がなあ」


「たしかに」


 そこがもどかしいところ。価格だけでない。デザイン性も大事。思いどおりに開発は進まないものだ。


 わたしの仕事も同じ。予算やメンテナンスなどを考えて断念したアイデアがいくつもある。


「でもそれを打破するのが俺の仕事なんだよな」


「そうだね。敦朗ならできるよ」


「簡単に言うよなあ。こっちは大変なんだぞ」


「消費者ってそういうものだよ」


 つき合っていた頃も結婚してからも敦朗とはよく仕事の話をした。会社だと周囲の目が気になって、どこかかしこまってしまうから、またこんなふうにフランクに話せるなんて。勇気を奮って誘ってよかった。


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