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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(1)無愛想な彼だけど

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006

「蓮見くんは異動してきて半年くらい経つけど、仕事はうまくいってる?」


「どうでしょうね。努力はしてますが、結果がまだ出せていないので」


「そっか。これからだよね」


 商品開発部は自分の企画が通らなければ「結果」として残らない。なかなかシビアな仕事だと思う。


「あの、ひとつ聞いていいですか?」


 蓮見くんが唐突にそんなことを言ってくるので身構えてしまう。


 なんだろう。仕事のこと……だよね。


「な、なにかな?」


「今日の夜、神崎部長と会うんですか?」


「えっ? なんで知ってるの?」


 どういうつもりでそんなことを聞いてくるのだろう。蓮見くんの考えが読めない。


「やっぱりそうなんですね。今朝そんなようなことを言っていたので」


 傘の話のことか。あのときはあまり気にしていなかったけれど、よくよく考えたら意味深な会話だ。


「離婚はしたけどいまは良好な関係なの。会社の先輩として尊敬もしてる。ふたりでごはんくらい食べるよ」


 ふたりでごはんを食べる関係というのは嘘だけれど、ここはそう言ってごまかすしかない。


 だけどなぜか蓮見くんの顔つきが変わった。軽蔑するような冷たい目に息をのんだ。


「神崎部長のどこがいいんですか?」


「どこって……。知らないの? 敦朗は元夫だよ」


「それは知ってます。そういうことではなくて……」


「別れた夫とふたりで会うのがそんなにおかしい?」


「おかしくはないです。ただ……」


 蓮見くんは視線を泳がせ、言いよどむ。


「なに?」


「いいえ、なんでもないです。変なこと聞いてすみません」


「気になるよ。はっきり言ってくれていいんだよ」


「今日の雨宮さんはいつもと違うので……」


 蓮見くんの視線がわたしのマニキュアを塗った爪のあたりに移る。完全に見透かされていて顔がカアーッと熱くなる。


 彼はわたしの敦朗に対する気持ちに気がついているんだ! やだ、どうしよう。三十過ぎの女のくせになにを浮ついているんだって思ってるよね。


「やっぱり変だよね。普段スカートも履かないから、そりゃあ驚くよね」


「まさか。お似合いです。メイクもいいと思います」


「あ、ありがと……」


 メイクまで気づいているとは。でもほめてもらってもうれしいと思えない。

 あまり考えていなかったけど、ほかのひとから見たら違和感があるのか。失敗したかな。


「たまにはおしゃれするのもいいかなって思ったんだけど、久しぶりすぎて気合入っちゃったかもね」


「別にそういう意味ではなかったんですけど。なんか、すみません……」


「ううん。いいのいいの!」


 蓮見くんに謝られてちょっと居たたまれない。


 変わった子だな。本性がよくわからない。


 さっきのセリフが引っかかっていた。


 ――神崎部長のどこがいいんですか?


 あのとき、敵意むき出しの言い方に胸の奥がぞわりとした。自分の上司である敦朗のことをよく思っていないから出たセリフなんだろうか。敦朗はひとあたりがよくて、彼を悪く言うひとを聞いたことがない。そのためなにかトラブルがあったのかと気になって仕方がない。


 わたしは急いでお昼ごはんをかき込むと席を立った。いつもは時間までここでゆっくり過ごすけれど今日はやめておこう。


「仕事がたまってるからお先に失礼するね」


 蓮見くんが箸を置いた。


「大変ですね」


「じゃ、お先に」


「はい」


 蓮見くんは会釈をし、見送ってくれた。


 けっこう礼儀正しくて、そういうところは感心する。だけどわたしの不安は消えない。


 どうかわたしの勘違いでありますように。


 そう願いながら社員食堂をあとにした。


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