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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(1)無愛想な彼だけど

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005

「ごめん。じろじろ見るつもりはなくて……。実はうちの父を思い出してた」


「お父さん?」


「わたしが小さい頃に母が亡くなって、それから家事は全部父がやってたの。高校の三年間もわたしのお弁当は父が作ってくれたんだよ」


 蓮見くんの目はまっすぐわたしに向けられていた。


 もしかして、わたしの話に興味を持ってくれているのかな。


「大人になって気がついたの。父は仕事が忙しいなか、そうやってわたしの命を守ってくれていたんだなあって」


「命……」


 蓮見くんは箸を止めたまま自分のお弁当を見つめた。


「うん。つまり蓮見くんは自分の命を大切にしているってことだよ」


 蓮見くんだって仕事が忙しいはず。それなのにおいしそうなお弁当を作るんだよね。


 白いごはんの上には梅干しがのっている。メインのおかずは手作りらしきハンバーグ。その隣には赤いソーセージと卵焼き。さらにはいんげんの胡麻和えも添えてあって彩り豊か。


「わたしも赤いソーセージが好きなの」


 一瞬だけ蓮見くんが困ったように固まった。これは照れているのかもしれない。


「僕も好きです」


「おいしいよね。うちの父もお弁当にいつも入れてくれてたんだ」


「同じです。母が入れてくれました」


「蓮見くんはその理由を聞いたことある?」


「子どもの頃、食が細かったらしいんですが、なぜか赤いソーセージだけは喜んで食べていたと聞いたことがあります」


「うちもそう! 彩りもよくなるし、なによりおいしい」


 父は健康を考え、食材を吟味し、手作りのものを心がけていた。でもわたしはそんな父のこだわりを拒絶し、赤いソーセージをリクエスト。わたしが大人になったとき父がそのときの思い出を語り、「心底がっかりした」とぼやいていた。


「そっかあ、蓮見くんも食が細かったんだあ」


「いまは好き嫌いはほとんどないんですが」


「わたしもなんでも食べるよ」


 赤いソーセージという共通点にうれしくなる。


「見習いたいな」


 自分のお弁当を見ながらつぶやく。


「え?」


「わたしの今日のお弁当のおかず、ほぼ冷凍食品だよ。野菜もほとんどゼロで彩りも悪いし」


 鶏のつくねとミートボール。両方とも茶色で挽肉。自分でもなんでこんなチョイスをしてしまったんだろうと思う。もちろんこれはこれでおいしいんだけど、なんだか恥ずかしくなってくる。


「おいしく食べられるならそれでいいんですよ」


「料理って才能とか関係あるのかな?」


「苦手なんですか?」


「うん」


「誰にでも得手不得手はあるものです。その分、雨宮さんにはほかに優れているところがたくさんありますから。上から目線ですみません」


 さっきから蓮見くんの口調は抑揚がない。だけど向けられる眼差しはまっすぐで純粋。そしてわたしを肯定してくれるその言葉はわたしの心をすっと軽くしてくれた。


「そんなふうに言ってくれるなんてやさしいね」


「事実を言ったまでです。僕は雨宮さんが導入した『マニュアル動画』や『従業員専用ヘルプサービス』を新人のときに何度か利用したことがあります。すごく助かりました」


「使ってくれてたんだ。うれしいな」


 よその企業ではすでに導入しているシステム。商品知識や日常業務の手順の勉強、またそれらの不明点の質問をもっと気軽にできればいいなと店舗勤務時代にいつも思っていた。いまの部署に興味を持ったきっかけも当時感じていたいくつもの不便さをなんとかしたかったからだ。


 現場で上司や先輩から直接教わることも大切だけれど、忙しい現場のフォローをするのが店舗運営部の役目のひとつ。そしてそのフォローはお客様のためにもなる。最終的な目的は顧客満足度の向上だ。


「よし! もっとがんばろう」


「雨宮さんは十分がんばっています」


「うん、ありがと」


 面と向かって言われると照れるな。


 社員食堂ではいつもひとりで黙々と食事をしているのを見てきたので、てっきり無口なひとだと思っていたら、想像していた以上に答えが返ってきたので驚いた。


 普段は物静かだけれど、なにも感じていないわけじゃない。内に秘めたものを持っている。


 それもそうか。蓮見くんは商品開発部の人間。うちはNB商品も数多く取り扱っているがPB商品の開発にも積極的。当然チーム内で活発な意見のやり取りをしながら仕事を進める必要がある。


 それにもともと店舗でも働いていたのだから数多くの接客をこなしてきたはず。少なくともひとが嫌いならこの職業を選んでいないんじゃないかなと思う。


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