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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(1)無愛想な彼だけど

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003

 我が社は『re:fine(リファイン)』という従業員が六百名ほどの規模の小売業。インテリアや生活雑貨、キッチン用品を中心に扱っている。現在、全国に七十店舗を展開していて、今後も増える予定だ。


 わたしは東京の郊外にある七階建ての自社ビルの本社勤務で店舗運営部所属。


 総勢六名の業務内容を簡単に言うと、店舗スタッフが働きやすい環境を作ることだ。売場作り、在庫・仕入れ管理、業務マニュアル作成、スタッフ教育、安全管理、お客様からのクレーム対応など多岐にわたる。


 二年前に店舗勤務からいまの部署に異動した。


 入社して一年以上の勤務、そしてやる気があれば希望部署への異動が可能なのでその制度を活用した。ただしいつでも異動できるわけではなく、その部署が人材を募集しているか、また部署内の書類選考と面接試験に合格しないと異動できない。


 お店での販売という仕事は大好きだったけれど、もっと自分のスキルをあげたいと思い、新しいことに挑戦しようと決意。そのタイミングで募集していたいまの部署が目にとまった。


 お店で働くスタッフたちの環境をよりよくしようという目的の部署ということで、お店とのつながりを強く感じたのが選んだ理由だ。


 敦朗とは彼がエリアマネージャーだったときに出会った。それから敦朗はすぐに本社の商品開発部へ異動になった。


 わたしが本社に異動したとき、すでにわたしたちは離婚したあとだったけれど、もともと関係は良好だったし、本社への異動のことで相談に乗ってもらったのも敦朗だった。


 その敦朗はとんとん拍子に昇進し、いまでは部長。蓮見くんは敦朗の部下にあたる。


「蓮見くん!」


 デスクに近づいて名前を呼ぶと、蓮見くんは椅子に座ったままゆっくりとこちらを見た。


「どうかしました?」


「傘を返そうと思って」


「いいんですか?」


「なにが?」


 真顔で聞いてくるけれど、なにか変なこと言ったかな。


「夜まで雨の予報ですが」


 そうだったのか。でも会社に折りたたみの置き傘があるのでそれは心配ない。


「大丈夫。帰りは俺の傘に入れてやるから」


 そのとき敦朗がわたしたちの会話に割って入ってきた。わたしは置き傘のことを言おうと思ったけれど、あえて隠し、傘を蓮見くんに返すことにした。


「ありがとう。ほんと助かった」


「どういたしまして」


 蓮見くんは抑揚なく答えると傘を受け取る。でもその間もわたしをじっと見つめ、なにか言いたげな顔をしている。

 不思議に思って首を傾げる。でもなぜかプイッと顔を背けられてしまった。


 いまのなんだろう。感じ悪いんですけど。

 意外にやさしいと思ったけれど、実は嫌われているんだろうか。


 それからモヤモヤしながら店舗運営部へ。


「わけわかんない……」


 腰をおろし、思わず愚痴る。


「なんの話?」


 たったいま隣のデスクの鈴木(すずき)沙織(さおり)さんが出社してきた。鞄をデスクに置いてわたしを見おろしている。


 沙織さんはわたしの一個上で三歳と五歳のふたりの女の子の育児真っ最中。結婚して名字が鈴木となったが、同じ苗字のひとがいて紛らわしいので下の名前で呼んでいる。仕事が忙しくてもいつも朗らかで、見習いたいと常々思っている。


「実はですね……」


 わたしはさっきあった出来事をかいつまんで説明した。


「ふーん、あの蓮見くんが傘をねえ……。もしかすると雨宮さんに気があるとか?」


「は?」


「神崎部長とイチャついているのを見て、やきもちを焼いちゃったんじゃない?」


「まさか! あるわけないです!」


 全力で否定する。


 異動してきて半年ほどの蓮見くんとは会えばあいさつをする程度であまり接点がない。社員食堂で見かけることはあっても話しかけることもかけられることもない。だから今日いきなり駅で声をかけられてびっくりした。


「わざわざ立ち止まって傘を貸してくれるタイプには見えないけど。いつもクールだから」


「きっと親切心です! っていうか、イチャついてるってなんですか? エレベーターで一緒になっただけですから」


「でも神崎部長と仲よさそうに見えるよ。なんで離婚したんだろうって不思議なくらい」


「これでも当時はいろいろあったんです……。沙織さんも知ってるじゃないですか」


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