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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(5)誰かの悪意

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022

「それがわかんないの。見たひとがいるらしいってだけで」


 どんな画像なんだろう。普通に考えて、ふたりでいるところを偶然見かけた誰かが写真に撮ったということなんだろうけれど。盗撮だなんてちょっと怖いな。


「プライベートのことはなにも知らないです。もう関係ないので」


 わたしは平静を装ってマウスを操作する。メールソフトを起動させると一件の新着メールがあったのでそれを開いた。


「結城さんのこと、密かに狙ってたのになあ」


「たしかにかわいいよね」


「ショック受けてるやつ、けっこういますよ」


 沙織さんが、「うんうん」と深く共感していた。


「妹もかわいいらしいですよ」


 梶原くんと沙織さんの会話はさらに続いた。


「へえ、妹さんがいるんだ」


「その子がファッション系インフルエンサーらしいんです」


「有名人なんだ。すごいね」


 梶原くんによると妹さんは二十代の女性に絶大な人気で、最近は複数の有名ブランドとのコラボアイテムを発売し、フォロワーも三十万越えだそうだ。


「妹はインフルエンサーっていう華やかな道を選んでいるのに自分は地道な会社員。そういうところですよね」


「どういうところ?」


 沙織さんがたずねる。


「だからあ、すごーくいい子ってことですよ」


 興味ないフリをしながらも、わたしはふたりの会話に聞き耳を立てていた。


 それにしても梶原くんの結城さん贔屓はちょっとうざいな。


「なんであんなオジサンがいいんだろう? 俺のほうが格好いいのに」


「こらこら、神崎部長をオジサン呼ばわりするんじゃない」


「だって事実じゃないですか。おまけに相手は直属の部下だなんて。いいんですか?」


「まだ本当かどうかわからないでしょう」


 沙織さんは冷静に答える。


 だけど部下に手を出したというのは事実なんだよね。社内恋愛は禁止じゃなくても印象は悪い。


 それよりいったい情報源は誰なんだろう。沙織さんは経理課の女の子から聞いたらしいけれど、その子が情報源とは限らない。誰かから聞いたことを広めているだけかもしれない。


 でもやっぱり本社の人間だよね。ふたりが一緒にいるとこを見られた可能性が濃厚のような気がした。


「ほら、昼休みはもう終わりだよ。梶原くんは早く仕事に戻って」


 わたしは会話が途切れたタイミングで言った。これ以上、この話を聞くのはうんざりだった。


「俺はまだ三十分残ってるんですよ」


「こっちは仕事なの」


「わかりましたよ。なんだあ、雨宮さんなら知ってると思ったのになあ」


 梶原くんはがっくり肩を落としている。


「でもまあ神崎部長に限って、だよね?」


 沙織さんはわたしに向かって同意を求めてくるけれど。


「どうなんですかね」


 曖昧に返すしかなかった。




 それから午後の仕事を再開する。さっき確認したメールに返信をして、午前中から取りかかっている仕事の続きをはじめた。


 最近、店舗から物流センターへの苦情が多くなっている。


 我が社は重量の重いもの、大型や長尺のものを含めたくさんの商品を取り扱っているのだが、店舗への商品の配送は他社が運営する物流センターに業務を委託している。けれど店舗では配送された商品が破損していたり、入荷予定の商品が届かなかったりといったトラブルが起きている。


「沙織さん、物流センターへの改善要望書を作ってみたんですがチェックお願いできますか?」


「わかった。いま確認するね」


 実は梱包や積込み方、ピッキングなどのトラブルは以前からあったのだけれど、最近その件数が右肩あがりに増えている。店舗からも改善要望を出しているけれど、本社としても各店舗の状況を整理し、改めて通達する必要がある。そういったトラブルは双方の損失につながるので早急に対策を立てないといけないのだ。


「原因はなんなの?」


「二か月前に物流センターの建物を増築したので、そのせいかなと思うんですが」


「ライン作業に一部変更があったのかな」


「はい。そのせいで一時的に作業効率が落ちて色々支障が出ている可能性があります」


「規模を大きくしたことで人員も増やしたって聞いたけど」


「もしかしたらベテランさんに余裕がなくなって、作業に慣れていない新人さんのフォローが追いついていないのかもしれません」


 沙織さんはわたしが送ったデータをチェックして、補足をしてくれた。その後、上司に了解をもらい、データをメール送信する。


 でもすっきりはしない。これですべて解決すればいいけれど難しいだろうな。それでも改善されるまでこの作業を繰り返さないといけない。わたしの仕事はそういう仕事だ。


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