021
いったいどんな状況だったのか気になる。だけど敦朗に修羅場は似合わない。他人を不幸に陥れてまで自分のほしいものを手に入れるような貪欲さも感じたことなんてなかった。
「自分の気持ちを認めたくなかったけど認めざるを得なくなった」
「だから奪ったの?」
「奪った……。結果的にそうなるな。でも引き返せなかった」
「蓮見くんの気持ちは考えなかったの?」
「誰も傷つかない恋愛が理想だけど、それが叶わないときもあるよ」
そんな現実はたしかにある。でも同情はしてあげない。もっと苦しめばいいんだ。わたしも蓮見くんもそれ以上に苦しいんだから。
だけどそう心のなかで思ったあと激しい自己嫌悪に陥った。
はたから見たらよくある恋愛のひとつだ。心変わりは罪じゃない。ひとを好きになることは止められない。敦朗は離婚して久しぶりの恋愛で結城さんを好きになった。ただそれだけのことだ。
「それだけ本気なんだね。大変な道を選ぶなんて」
「覚悟の上だよ」
「相談ならいつでものるよ」
「いいのか?」
「あたり前じゃない」
心にもないことを言って口角をあげた。
昔より感情を隠すことだけは上手になったような気がする。嫌なことがあっても相手には不快な感情を悟られないようにする。八つ当たりなんてもってのほか。
結婚しているとき、どうしてそうできなかったのだろう。悔やんでも悔やみきれない。
◇◇◇
その日、昼休みが終わる少し前。
「ちょっと、どういうことですか!?」
社員食堂から戻り、自分のデスクでスマホをいじっていたわたしにシステム部の梶原くんが興奮気味に聞いてきた。
「なにごと?」
「神崎部長と結城さんのことですよ!」
「えっ……」
ふたりの名前を聞いてあのことしか思い浮かばない。だけど下手なことを言うと墓穴を掘る可能性もある。
「なんの話かな?」
「もしかしてなにも知らないんですか?」
「あ、うん」
そうだ。知らないフリをしておけばいいんだ。わたしはもう一度スマホに目を落とし興味がないアピールをした。
梶原くんは入社二年目の二十八歳。もともと大手のIT企業の子会社に勤めていた。子会社といっても都内の大きなビルのなかにあるそこそこ大きい会社。だから梶原くんがうちの会社に転職してきたとき、もったいないなあと思ったほどだ。
「もうすぐ昼休み終わるよ」
「俺はあと三十分残ってます」
「わたしは仕事に戻らないと」
スマホをパンツのポケットにしまい、パソコンのキーボードに手を置く。するとそこへ席を外していた沙織さんが戻ってきた。
「雨宮さん、さっき経理課の女の子から聞いたんだけど、神崎部長が部下に手を出したって本当?」
よりによってそんな伝わり方だなんて。これには少し同情する。
「俺もそのことをたしかめたくて雨宮さんに聞こうと思ったんです!」
「あとね、わたしは見てないんだけどツーショットの画像もあるらしいの」
「ツーショットの画像ってなんですか!?」
沙織さんは半信半疑という感じだけれど、梶原くんは相変わらず前のめりだ。




