018
おとなしく待っているとお出汁のいい香りが漂ってきた。
「お待たせしました」
「ありがとう。おいしそうだね」
ごはん茶碗によそわれた玉子がゆの上に刻んだ青ネギがのっている。
本当に普段から料理をやっているんだなあ。
「いただきます」
やっぱりあたたかい食べ物はほっとする。しかもわたしのために作ってくれたのだと考えたら胸がジーンと熱くなった。
うれしかった。わたしを気にかけてくれるひとがいる。今日一日ベッドのなかで自分はひとりぼっちということを嫌というほど自覚した。もしここで死んだら誰がわたしの死体の第一発見者になるんだろうと考えて、いっそう切なかった。
「すごく……おいし……い……」
まずい。急に感情がこみあげてきて涙が出てきた。
「大丈夫ですか?」
「ごめん。これは……悲しいわけじゃないの」
「意味がよくわからないんですが」
「わかんなくていいよ」
三十三歳。独り身で好きなひとにフラれたばかりの病みあがりの状況で、「心配」だと家まで来てくれたのだから泣くでしょ、そりゃ。
「まだ体調悪いんじゃないですか? おかゆ食べたら寝てください」
「うん。でもプリンも食べていい?」
「……どうぞ」
蓮見くんはお茶を飲みながら、わたしがおかゆとプリンを食べ終わるのを待っていた。食べ物の力はすごい。さっきまで情緒不安定だったのにだいぶ落ち着いた。
ごちそうさま、とプリンの空容器をテーブルに置くとすっと手が伸びてきて、食器と一緒に片づけられた。それからシンクで黙々と洗い物をしている。
奇妙な光景だと思った。わたしたちは会社の先輩後輩という関係でしかないのにこんなことってあるんだ。
洗い物を終えると蓮見くんがパーカーを羽織る。
「では僕は帰ります。おかゆとデザートは多めに買ってきたのでお腹が空いたら食べてください」
「はい」
「水分補給も忘れずに」
「はい」
従順で子どものような素直な返事に自分でもおかしくなる。
蓮見くんを見送ろうと玄関までついていくとさびしさが押し寄せてきた。
「では失礼します」
「ねえ?」
なんで呼び止めてしまったのだろう。それだけでない。わたしはつい手を伸ばし、蓮見くんのパーカーの裾をつかんでいた。たしかに帰ってほしくないと思ったけれど、さすがにこれはない。
「ご、ごめん……」
でもせっかくつかんだパーカーを離したくないという自分もいた。振り向いた蓮見くんは相変わらず表情を変えることなく、わたしをまっすぐ見おろしていた。
どれだけ人恋しさに飢えていたんだろう。自分がこんなにもさびしがりやだと思わなかった。
「ごめん!」
視線に耐えられず、パーカーから手を放す。すると蓮見くんはわたしのほうへ体ごと向けた。
「もう少しいましょうか?」
そう言ってわたしの頬に手を添えてくる。
自分でも引くぐらい大胆な行動をしたつもりだったけれど、蓮見くんはさらに上をいく攻撃を仕掛けてきた。まじめくんだと思っていたのに意外に手慣れている。年下なのに余裕があるのが気にくわない。
わたしをからかっているの?
「この手、振りほどかないんですか?」
余裕ぶった態度が悔しい。それなのに振りほどけない。だってこのひんやりした手が気持ちよくて、このままがいいと思ってしまうんだもの。
まっすぐに見つめられ、心臓の高鳴りを感じる。蓮見くんってこんなに色っぽかったんだ。こうして見ると男のひとなんだなあと思い知らされる。
「やっぱり、いまも神崎部長を好きなんですね」
切なげに言う。
「違うよ」
「嘘ばっかり。僕を身代わりにしてるじゃないですか」




