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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(4)人恋しい夜に

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16/25

016

 翌朝。


 カーテンの隙間からやわらかな光が差し込んでいる。アパートの1Kの間取りの部屋はうっすらと明るく、心地よい空間となっている。それなのにわたしはものすごい不快感で目が覚めた。


 ベッドから降り、フラフラしながら体温計と冷却まくらを持ってきて、もう一度ベッドに戻る。布団のなかで体温を計ると、案の定三十八度を超えていた。


 風邪かな? それともストレス? 仕事どうしよう。でもさすがにこの状態では迷惑がかかる。

 よし! 今日は休もう。


 始業時間まで待って会社にいる上司に連絡を入れると、新宿店には上司から連絡を入れてくれることになった。


 蓮見くんはひとりで大丈夫かな。でも新人じゃないんだし、心配はいらないか。いや、でも怒るかな。わたし、実はあまり好かれていないみたいだし。

 あー、頭が痛い。そして寒い。誰か看病してくれないかな。


 蓮見くんを心配している場合じゃない。ひとりで大丈夫じゃないのはわたしのほうだった。


 そういえば前にもこんなことがあった――。


 離婚する数か月前。今日みたいに高熱で仕事を休んだ日のことだった。


 敦朗はいつもどおり仕事に出かけた。なるべく早く帰るよ、と言い残して。だけどその夜、遅くなると連絡が来た。急に飲み会に行くことになり、断ることができないということだった。


 仕方ないと頭ではわかっていた。でも許せなかった。なんでわたしを優先してくれないんだろう。電話一本よこしてわたしの許可を取ることで敦朗は罪悪感がなくなるけれど、わたしの心は谷底深く落とされた。


 その夜、熱に浮かされ、ぼろぼろになったわたしは、日付が変わったあとに帰宅した敦朗を強く責めた。敦朗にも言い分があっただろうに、敦朗はなにも言い返すことはなかった。言い返さなかったということは、わたしはあきらめられたということなのだとあとから気づいた。


 離婚後、あの日の後悔がわたしを苦しめた。もっと寛大な心で受け止められていたら結果は変わっていたのかなって。わたしの器が小さすぎたばっかりに、自ら幸せを手放すことになってしまったんだなと自分を情けなく思った。


 さびしい。誰かわたしを心配して支えてほしい。愚痴を聞いて共感して、やさしくなぐさめてよ。



◇◇◇



 部屋のインターフォンが鳴り、体を起こした。今日は眠ったり起きたりを繰り返し、いまはちょうど起きていたところだった。目覚まし時計を確認すると夜の七時を過ぎていた。


 ドアホンには男性が映っていた。蓮見くんだった。


 頭がぼーっとしているせいか、蓮見くんが訪ねてきているというのにさほど驚かなかった。


 ドアを開けると手にはコンビニ袋があって、「急に来てすみません」と軽く頭をさげた。


「どうしたの?」


「お見舞いです」


「なんで?」


「熱があると聞いたので」


 いやいや、そういうことじゃなくて。


「だからってお見舞いに来る?」


「心配になったんで」


 昨日酔ってフラフラだったわたしを蓮見くんはアパートまで送ってくれた。それでわたしの家を知ったわけだけれど、わざわざお見舞いに来るなんて律義すぎやしないか。そう思いじっと蓮見くんを見ると、ほかにもなにか言いたそうな顔をしていた。


「夕べ、かなりきついことを言ってしまったので」


「うん、まあ。そうだね」


「すみません」


「ううん、いいよ。ふたりがつき合っているのは事実なんだし」


「さらには言い方もだいぶ問題があったかと思いまして……」


 すごく反省しているみたいなんだけど。どうやら嫌われていたわけじゃないみたい?


「それでショックを受けてズル休みしたと思った?」


「……ええ」


 遠慮がちに答えるが正直すぎる。でもさすがにそれはない。離婚した翌日もそれはなかった。


「こう見えて仕事とプライベートの区別はつけてるつもりだよ」


「わかってます」


「なら、ズル休みって思うのはないんじゃない?」


「深く傷つけてしまったことは自覚しているので、立ち直れなくなってしまったのかもしれないと思ったんです」


 わたしと目を合わせられないのか、さっきからずっと伏し目がちになっている。


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