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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(3)心キズはごまかせない

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13/25

013

 午後八時。


 閉店となった。


 結局、蓮見くんはひとりも勧誘できなかった。見かねた店長に商品補充と商品整理にまわるように指示され、粛々と働いていた。


 わたしはあれから調子が出て、合計で四名の新規会員を獲得することができた。決して多い数字ではないけれど、新宿店の成果として貢献することができた。


「なに怒ってるの?」


 帰り道。蓮見くんに声をかけるとふてくされた顔で睨まれた。


 一応、悔しいのか。


「雨宮さんは慣れているからいいですけど、僕はああいうのは初めてだったので」


「そうだね。それはあるね」


「でも雨宮さんを見てコツはつかめたので次は負けませんから」


 勝ち負けじゃないんだけど……。


「でもさっきのお客様の対応、すごくよかったよ」


「別にあたり前のことをしただけです」


 閉店間際のことだった。買い物を終えた若い女性のお客様がお店の前で転んでしまい、お見送りしていた蓮見くんがすぐさま彼女を助け起こした。けれどお客様は膝から出血していて、それを見た蓮見くんが近所のドラッグストアまで絆創膏を買いに走ったのだ。


「タイツまで買うなんて気が利くね。男の子なのに」


「男の子って……。まあ、どうでもいいですけど」


 お客様の薄手のタイツが破れてしまったので帰り道のことを考えてくれたようだった。お客様はびっくりしていたけれど、「助かりました」と感謝していた。


 いつも淡々としている印象だったけれど、やさしい一面もある。そのことを知り、なぜかわたしが誇らしく思えた。


 それに間近で接客しているところを見て思った。丁寧で悪くない。唯一足りないのは笑顔かな。でも真摯な姿は好感が持てる。


「接客業、好きなんだね」


「え?」


「そんな感じがしたから」


「好きとか嫌いとか、そんなふうに考えたことはありません。それにいまは異動希望を出して商品開発部です」


 嘘ではないんだろう。反論するというより、これが紛れもない事実ですという冷静な反応だった。


 これまで現場で見てきた若いスタッフたちの多くはやる気がみなぎっていた。でも稀に蓮見くんみたいな独特の雰囲気の子もいる。どちらがいいのかと考えたこともあったけれど、お客様が満足してくだされば各々の個性を尊重したいと思うようになった。


「どうしてもやってみたかったんです」


「ん?」


「僕がこの会社を選んだ理由です」


「朝の話のことね」


 どうしてこの会社を選んだのか。わたしの質問を覚えていてくれたんだ。


「誰かに喜ばれる商品を作ってみたいと思いました。うちの会社は自分の希望の部署に異動できると知って、商品開発の仕事ができるかもしれないと思ったんです」


「喜ばれる商品か……。すごいね」


「別にすごくなんかないです。まだなにも作れてませんし……」


「ううん。ちゃんと目標を持ってこの会社で働いてくれてるなんて感動した。ありがとう」


「……はい」


 蓮見くんは照れているようだった。でもちょっとうれしそうにも見える。


 わたしもうれしい。今日一日一緒に仕事をして蓮見くんのいいところをたくさん発見できた。


 今日はいい機会だった。普段はここまで深い話をしない。晴れやかな気持ちだった。


「それにしてもお腹空いたね」


「じゃあ、なにか食べて帰ります?」


 意外にも蓮見くんから食事に誘われた。断る理由もないので応じると、蓮見くんのおすすめだという中華のお店に行くことになった。


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