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親愛なる後輩くん  作者: さとう涼
(3)心キズはごまかせない

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12/25

012

 午前九時五十三分。


 店舗運営部の朝の定例ミーティングが終わり、出かける支度をしていたら蓮見くんが迎えに来てくれた。


「早すぎました?」


 棒読みで言う。相変わらず無愛想だ。


「ううん。準備できたとこ。行こっか」


 わたしがそう言っても蓮見くんはやる気のなさそうな目でうなずくだけだった。


 応援に行くことは不本意です、そんなふうに思っているのかな。だろうね。きっとなんで自分が選ばれたんだろうと思っているんだろう。


 ごめんね。こういうのは異動してきたばかりひとが選ばれるものなんだよ。ほかのひとたちは過去に応援に駆り出され済みで、たまたま蓮見くんに順番がまわってきただけのこと。面倒だから説明しないけど。まあそのうちわかるよ。


 会社を出て駅に向かう。


 その間も蓮見くんは口を開くことなくわたしの隣を歩いている。


 ほんと不愛想だよなあ。これでどうやって接客してきたんだろう。不思議だ。


「蓮見くんはどうしてうちの会社を選んだの?」


「急にどうしたんですか?」


 蓮見くんは警戒心むき出しだ。


「えっと……単なる興味だよ」


「はっきり言ってくれていいんですよ。僕みたいな愛嬌がない人間は接客業が向いていないと言いたいんですよね?」


 思いきり図星だ。すごいな、エスパーなのかな。


「そんなこと言ってないよ」


「でも思ってますよね?」


「ううん、思ってないよ」


 一応否定してみたものの、蓮見くんの疑いの目は変わることなく、やがて駅に着いた。結局うちの会社を選んだ理由は聞けずじまいだった。


 電車に乗ると、運よく空いていた席にふたり並んで座る。蓮見くんはイヤホンをし、わたしの存在をシャットアウト。


 おおっと。会社の先輩の前だというのにそういう態度でくるか。まあ別に会話を弾ませる自信もないのでいいんだけど。



◇◇◇



 新宿店は八階建てビルの一階から四階までのフロアに売り場を展開している。平日ではあるけれど、オープン三日目の今日も多くのお客様にお越しいただけて店内は賑わっていた。


 店長にあいさつをすると、さっそく仕事を振られた。わたしと蓮見くんはアプリの新規会員の勧誘。


 近頃はどの店舗でも会員数が頭打ち。ここ新宿店にはこれまでうちのお店に来たことがないお客様が多数いらっしゃる可能性がある。そのため新しい顧客を獲得するチャンスと考えている。


 アプリ登録会員のリピーター率はこちらの想定よりも高い。さらには購入価格も高い傾向にあるので、新規会員の獲得は重要な仕事のひとつだ。


「キャンペーン期間中、アプリに新規登録をされた方にポイント進呈中でーす! ほかにもお得な割引クーポンもありますので、この機会にぜひご入会くださーい!」


 店の出入り口ではなかなか立ち止まってもらえない。そこでお買い物中のお客様に狙いをつけて何人もお声がけし、二十数人目にようやく好感触のお客様に出会えた。


 お時間があることを確認し、専用カウンターにご案内すると、さっそくお客様ご自身がアプリをダウンロードしてくださった。その後、ひととおりの操作が終わると最後の説明に入る。


「新規登録特典のポイントは後日進呈となりますが、十五%の割引クーポンは本日からお使いいただけます」


「今日から?」


「はい。有効期限は五月末までとなっておりますのでお気をつけください。なおクーポン利用の条件は購入金額が千円以上からになりますが、まとめ買いすればするほどお得になりますよ」


「やったあ! 気になってたのがいくつかあったので買っていきます」


「ありがとうございます。そしてこちらは当店オリジナルのエコバッグです。どうぞお使いください」


 お客様はにこにことうれしそうにスマホをバッグにしまうと売り場に戻っていった。


 よかった。あんなに喜んでもらえると、こちらもうれしくなる。


 一方、蓮見くんはというと、案山子のように突っ立っているだけ。


「蓮見くん、もっと積極的にお声がけして」


「してますよ」


「獲得数ゼロじゃない。結果がすべてだよ」


「雨宮さんだってひとりしか勧誘できてないじゃないですか」


「ゼロより偉いっ!」


「偉いって……子どもみたいですね」


 蓮見くんの言うとおり。たったひとりでは成果として自慢にならない。されど、たったひとりでもある。購入してくださったお客様がSNSで紹介してくれたり、口コミで広めてくれたりすることもある。未知の可能性を秘めているかもしれないので、たったひとりでも侮れないのだ。


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